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第二十八話 ひよこ

「では、パーティーの結成を祝して! かんぱーーい!!」


 魔法ギルドから少し歩いたところにある、レストラン『火竜亭』。

 火竜のブレスよろしく豪快な炎で調理する串焼きが、いま大人気の店である。

 貴族もたまにお忍びで来るというこの店を、今日はたった四人で貸し切りにしていた。

 ツバキさんの発案だが、何ともはや豪快な話である。


「くー! やはりこの店のエールは美味いな! もう一杯!」

「アルビア牛の火竜焼き、追加」

「私は翡翠レタスのサラダ!」


 凄い勢いで料理を平らげていく三人。

 おいおい……。

 ここの料理って、美味しさもさることながらお値段も半端なかったはずだぞ。

 メニュー表に目を走らせると、すべて「時価」と記載されていた。

 やっべえ、具体的な金額すらわからないパターンかよ!


「……どうした?」

「え?」

「乾杯してから、全然飲んでない」


 テスラさんの目が、俺のジョッキに向けられる。

 黄金に輝く液体は、先ほどからほとんど減ってはいなかった。

 飲むのがもったいなくて、ちびちびと舐めるように飲んでいたのだ。


「あら、ラースってお酒ダメなタイプ?」

「いや、そうじゃないんですけど……。もったいなくて」

「え?」


 変な顔をするシェイルさん。

 俺の庶民的な金銭感覚は、あまり理解されないらしい。

 それどころか、ジョッキを手にほらほらと煽ってくる。


「グーッと行っちゃいなさいって! 美味しいわよ!」

「そりゃ分かるんですけど、一杯いくらするんですかこれ?」

「さあ? 三千ルーツぐらい?」

「もうちょっとしなかったか?」

「別に、いくらでもいい」


 相変わらず豪快な感覚だなぁ……。

 俺も何だかんだで四億ルーツ以上の資産を持っているので、贅沢しようと思えば出来るんだけどさ。

 この境地にはいつまでたっても至れそうにない。

 だって、一杯三千ルーツだぜ。

 それだけで、レストランでたらふく食事が出来てしまう。


「まあまあ。俺は俺で、好きに食べますから。皆さんは皆さんで食べてくださいよ」

「ふむ、酒をあまり強要するのも良くないか」

「そうね。でもまあ、気が向いたら飲みなさいよ。ここの店のエールは絶品なんだから」

「はい!」

「……ところでラース。あれは?」

「あれ?」


 俺が小首を傾げると、テスラさんはふうっと息をついた。

 両手を上げると、何やら楕円形の輪郭を描く。

 えっとこれは……卵か?

 卵料理なんて、このお店……ああッ!!


「そうだ、妖精の卵!」

「忘れ過ぎ」

「だって、迂闊に持ち歩けませんし!」


 あの卵はもともと大きすぎるし、最近はグラグラと動くようになっていた。

 そこで万が一にも割れたりしないように、最初に貰った木箱に綿と一緒に詰め込んでいたのだ。

 それを食事の時間が来るたびに引っ張り出していたのだが、うっかりしていた。

 急いで取りに戻らないと!


「皆さん、ちょっと待っててくださいね! 卵に魔力をあげてきます!」

「卵に魔力? あんた、魔獣でも育ててるの?」

「いえ、妖精ですよ。妖精の卵を、ロドリーさんのお店で貰ったんです!」

「あの偏屈な婆さんが人に物をな……。ラース、お前はずいぶんと見込まれたんだな」

「初めて聞くわね、そんな話」


 揃って首を傾げる二人。

 ロドリーさんが人に物をプレゼントするなんて、相当に珍しいことだったらしい。


「その卵、もし良かったら持ってきてくれないか?」

「私も見てみたいわ。そんなの初めて聞くし」

「わかりました、いいですよ!」


 俺は二つ返事でそう言うと、急いでレストランを飛び出した。

 幸いなことに、この場所から宿まではそう遠くはない。

 軽く身体強化をして通りを駆け抜けると、そのまま宿に飛び込んで階段を駆け上がる。

 こうして部屋の扉を開けると、そこには――


「キュイ?」


 木箱から顔を出した、大きなひよこの姿があった――。


 ――○●○――


「ひよこだな」

「ええ、ひよこ」

「うーん、どこからどう見てもひよこねえ……」


 俺が卵から産まれたらしいそいつを連れて行くと、三人は口々に「ひよこ」と言った。

 うーむ、明らかにサイズがデカいけど……こいつはやっぱりひよこなのか。

 確かに、黄色くてふわっふわの身体や黒くてつぶらな瞳はひよこそのものだ。

 でも、妖精の卵から何でひよこなんて孵ったんだ?

 

「うーん……あの卵、外れだったんですかね」

「ロドリーは変なものを寄越したりはしない」

「でも、ひよこですよ? サイズは大きいですけど、ちょっとねえ」


 何かと思わせぶりだった割には、まったく大したことない。

 こいつはこいつで結構可愛いとは思うけど、もっと見るからに凄いやつが良かったなあ。

 ドラゴンとか、羽の生えた人型の精霊とかさ。


「キュイ、キュイイ!」

「鳴いてる」

「お腹減ったんじゃないの?」

「ラース、何かエサは無いのか?」

「そう言われても、こいつが何を食べるかなんて……」


 何せ、初めて見る種類の動物だ。

 何を食べるかなんて、見当もつかない。

 とりあえず、普通のひよこは何を食べるだろうか?

 パン粉とかで行けるだろうか?


「これでどうだ?」

「キューキュー!」

「……違うって言ってるな。ほれ、これならどうだ?」

「キュイイ!」

「それもダメね」


 パン粉に続いてツバキさんが野菜を差し出すが、ひよこは違う違うと首を横に振った。

 だとしたら肉か?

 そう思って俺はすぐさま串焼きを差し出すが、これまた違うと嫌がる。

 何だろう、普通の食べ物じゃダメなのか?

 だとしたら――


「こいつ、魔力で孵化したんですよね。もしかしたら、ひよこになっても魔力を食うのかも」

「それだわ! きっとそうよ!」

「どれどれ」


 俺は指先に魔力を集めると、ひよこの口元へと差し出した。

 すると小さなくちばしが、俺の指を軽く甘噛みする。

 まあるい瞳が、満足そうに細められた。

 やっぱり、こいつのエサは魔力だったらしい!

 よーし、それならドンドン食えよ!

 魔力なら俺がいくらでも持ってるからな!

 ひよこが可愛かった俺は、魔力をドンドンと食べさせてやった。

 そして――


「ゲップ!!」

「のわッ!?」

「いッ!?」


 すっかり満腹になり、膨らんだ腹をさすっていたひよこ。

 それが突如として、口から青白い閃光を吐き出したのだった――。


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