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底辺戦士、チート魔導師に転職する!  作者: キミマロ


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第二十六話 黄金の大剣

「何とかなったかな……?」


 アクレの街の上空、空を征く船の上にて。

 ファイアーボールを怪物にぶつけた俺は、フッと額の汗をぬぐった。

 慌てて放った一撃だったので不安だったが、どうにか攻撃を防ぐことは出来たようである。

 怪物は忌々しげにうめき声をあげると、俺たちの方を睨みつけてくる。

 その真っ赤な眼は禍々しく、視線を向けられただけで全身の筋肉が強張る。


「この感じ……あいつが悪魔フォルミードですね」

「くッ……! 一足遅かったか!」

「大丈夫、まだ本格的に街を襲ってはいないみたいよ。被害なしって訳ではないみたいだけど……」


 そう言うと、シェイルさんは視線を草原の方へと飛ばした。

 彼女に続くと、すぐに大地が掘り返されて黒くなっているのが目につく。

 良くは分からないが、あの場所で悪魔が暴れたようだ。


「とにかく、早く倒す」

「ええ!」


 もう一度ファイアーボールを放つべく、構えをとる。

 すると悪魔はこちらを見上げ、天が割れるほどの雄叫びを上げた。


「ガラアアアア!!」

「……なんって大声だ!! 鼓膜が破れる!」

「頭割れそう!」

「……来る!」

「やばッ!」


 馬鹿みたいな大音量に続いて、悪魔の口から火の球が放たれた。

 シェイルさんが急いで船を動かし、ギリギリのところでそれを回避する。

 ――熱い!

 球が近くを通り過ぎる瞬間、あまりの熱量に唸ってしまった。

 火球と言うよりも、もはや小さな太陽のようである。

 あんなの当たったら、ひとたまりもない!


「グラア!!」

「ち、連射してきた! かわし切れない!」


 次々と火球を吐き出す悪魔。

 数打ちゃ当たるとばかりの連射に、自然と顔が青くなる。

 こんなの、いくら何でもかわしきれないぞ!

 空を埋め尽くさんとする火球の勢いに、たまらず息を飲む。

 

「降りて! 早く!」

「こ、ここからですか!?」

「そう!!」


 真剣な表情でそう言うと、テスラさんはそのまま船から飛び降りてしまった。

 嘘だろ、地面から軽く百メートルは離れてるって言うのに!

 いくら身体強化をしても、流石に死ぬんじゃないのか……!?

 船から身を乗り出した俺は、みるみる小さくなるテスラさんの背中にヒヤリとする。


「どうする!?」

「私は……」

「時間がない! 行きましょう!」

「ちょ、ちょっと!? こういうの苦手――」


 シェイルさんの手を掴むと、一緒に船から飛び降りた。

 それにツバキさんも続いてくる。

 直後、俺たちの頭上を火球が通り過ぎて行った。

 あっという間に船は焼き尽くされ、白く燃え尽きた石がパラパラと落ちてくる。

 そして――


「おっと!?」

「わッ!」

「ほえッ!?」


 みんなで着地した途端、地面がブワンッと跳ねた。

 何だこれ、柔らかい!

 水を固めたような心地良い感触に、たまらず表情が緩む。

 そうか、あらかじめテスラさんが地面を柔らかく錬成していてくれたのか!

 周囲を見渡すと、黙ってブイサインをするテスラさんの姿が目に飛び込む。


「ありがとうございます!」

「当然。それより、あれを見る」

「なっ!? 傷が!」


 テスラさんの指さした方を見やると、そこには翼のほとんどを修復し終えた悪魔の姿があった。

 まだ奇襲を加えてから数分も経っていないと言うのに、驚異的な回復力だ。


「……聞いたことあるわ。フォルミードは不死身だって」

「不死身!? そんなの、どうやって倒せば……!」

「えっと……聖なる炎で心臓を焼き尽くせばいいとか。おばあちゃんから聞いた話だけど」

「聖なる炎、ですか」


 一体、どんな炎なんだろう……?

 金色の炎なら俺も出せるけど、まさかあれのことか?

 言われてみれば、どことなく神聖っぽい感じはする。

 ここはひとつ、賭けてみるしかないかも知れないな!


「それ、もしかしたら何とかできるかもしれません!」

「本当か!?」

「はい! ただ、あいつが動いていると攻撃を当てられるかどうか……」


 フォルミードは恐るべき巨体を誇る。

 その心臓を焼きつくすには、それ相応の大きさの炎が必要だろう。

 炎剣のサイズを大きくすることは出来るが、その状態できちんとコントロールする自信がなかった。


「ようは、動きを止めてほしいってことね?」

「ええ、出来ますか?」

「可能」

「もちろんよ」

「任せろ」


 三者三様ながらも、テスラさんたちは良い返事をしてくれた。

 彼女たちは互いに目配せをすると、標的を見失っているフォルミードを見やる。

 そして――


「まずは私が行く!」


 最初に動いたのは、ツバキさんだった。

 彼女は刀の柄に手を掛けると、姿勢を低くして一気に飛び出していく。

 ――早い!

 着物の袖を可憐にはためかせるその姿は、何もかも置き去りにするようだった。

 残像が次々と出来ては消えていく。

 フォルミードも彼女の存在に気づいて迎撃するが、まったく間に合わなかった。

 ツバキさんはそのまま奴の足元へと到達すると、その巨体を駆け上がっていく。

 身体のわずかな凹凸を蹴とばし、脚力にモノを言わせて強引に移動しているようだった。

 そして――


「はああああッ!! 竜・神・斬ッ!!」


 気迫の叫び。

 それに合わせて、フォルミードの背中を斬撃が走る。

 一対の翼が、一撃でバッサリと切り落とされた。

 バランスを崩した巨体が、大きくよたついた。

 その瞬間、テスラさんが動く。


「大いなる罪を犯し者よ! その穢れた身、天を見るに能わず! ひれ伏せ、無限鉄鎖ッ!!」


 勇ましい呪文と共に、魔法陣が現れた。

 その輝きが増すと、たちまちフォルミードの足元から巨大な鎖が打ち出される。

 四方八方から次々と放たれたそれらは、たちまち黒鉄の巨体を拘束した。

 そして一気に縛り上げ、大地に膝を屈させる。


「仕上げは私が!」


 フォルミードがある程度拘束されたところで、今度はシェイルさんが飛び出していった。

 彼女はフォルミードの足元へ向かうと、すぐさま奴の身体に魔法文字を刻み始める。

 

「よし! 重量十倍ッ!!」

「グラアァァアッ!!」

「嘘ッ!?」


 シェイルさんの付与魔法によって、自重が増したはずのフォルミード。

 しかし、奴は雄叫びを轟かすとそれをものともせずに立ち上がった。

 次々と引きちぎられる鎖。

 見る見るうちに再生を始める翼。

 そしてさらに――


「そんな……!?」

「何……?」


 フォルミードの背中からさらにもう一対の翼が生えた。

 さらにその胸元に、人間の顔のようなものが現れる。

 醜悪な表情を浮かべたそれは、唖然とする俺たちを見下ろして叫ぶ。


「我ハ、悪魔『ラザウェル』!! 不滅ノ存在ナリ!!」

「な、一体化していたのか……!」

「化け物!」

「こんなの、勝てるの……!」

「ハハハ、白魔導師ドモメ! 我ヲ滅ボスナド不可能! 大人シク死ネェ!!」


 そう言うと、フォルミードは口元に巨大な火球を形成し始めた。

 先ほど俺たちに向かって連射してきたものとは、比べ物にならない大きさだ。

 こんなの受けたら、俺たちどころかアクレの街まで灰になるぞ……!

 ええい、こうなったら狙いがどうこうとか言ってられねえ!


「みんな、こうなったらこっちも全力でぶっ放します!! 魔力の制御を手伝ってください!!」

「分かった!」

「了解!」

「今行くぞ!!」


 俺の必死の呼びかけに、三人はすぐさま応じてくれた。

 背中に、三人の手が一つずつ添えられていく。

 俺の中で猛り狂っていた魔力の渦が、それによって少しではあるが鎮められた。

 よし、これなら……行けるッ!!

 意識を集中させ、魔力をどんどんと練り上げていく。

 やがて目の前に、身長の十倍はあろうかと言う巨大な剣が形成された。

 金色に燃えるそれは、さながらかつて勇者が手にしたという聖剣のようだ。


「いっけえええェ!!」

「ウラアアアアッ!!」


 黄金に燃える炎の大剣。

 悪魔の放った巨大火球。

 両者が交錯すると、途端に光の洪水が巻き起こった。

 眼を焼く閃光、大気貫く爆音。

 視覚と聴覚が瞬間的に喪失する。

 そして、数十秒後――


「馬鹿ナ……!? 私ハ、無敵ノ力ヲ手ニシタハズダゾ……!?」


 胸に突き刺さった剣を睨みながら、悪魔フォルミード――いや、黒魔導師ラザウェルの巨体が崩れ落ちた。

 すぐに近づいてみるが、全く動く気配はない。

 先ほどまで赤く輝いていた瞳も、濁っていた。


「……勝った。俺たちの勝ちだ!」


 恐怖が反転し、喜びへと変わる。

 感情が爆発した俺は、両手を上げてジャンプした。

 すぐさま、テスラさんたちも喜びを露わにする。

 彼女たちは揃って俺に駆け寄ってくる。


「ラース、あんたのおかげよ! やるじゃない!」

「いやいや、皆さんが手を貸してくれたおかげですよ。実際、やってみるまではあれで倒せるかも分かりませんでしたし……」

「そんなに謙遜するでない。私たちは魔力制御を少し手伝っただけだ。大したことはしていない。……いや、できなかったというべきか」


 自らの身が不甲斐ないのか、拳を握るツバキさん。

 その表情は悲痛で、固く結ばれた唇から悔しさがにじみ出ていた。

 すると、そんな彼女を宥めるようにテスラさんが話をまとめる。


「……出来なかったことは仕方ない。これから出来るようになればいいこと。とりあえず、今日のところはラースのおかげ。ありがとう!」

「ありがと!」

「……感謝する!」


 俺の方を向くと、改めて礼を言う三人。

 さすがに照れくさくなった俺は、顔を真っ赤にするのだった――。


勝負に決着がつきました!

次回はいよいよ、エピローグ兼第二章の開始となります!

ここまでで面白いと思って下さった方は、↓の評価をぽちっとして頂けるとありがたいです!


*最後を一部加筆しました。

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