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底辺戦士、チート魔導師に転職する!  作者: キミマロ


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第二十五話 悪魔VS冒険者ギルド

「な、なんだありゃ……!」


 アクレの街を一周する城壁。

 その上で見張りを行っていた兵士は、街に接近してくる影に目を疑った。

 二足歩行の何かが、こちらにゆっくりと歩いて来ている。

 その頭には角が生え、背中には巨大な翼があった。

 形状としては、遺跡などでたまに見られるガーゴイルに近い。

 しかしその大きさが、まったくもって尋常ではなかった。

 森に生えている巨木の群れが、さながら下草か何かのように見える。

 

「た、大変だッ!!」


 使命感に駆られた兵士は、恐ろしいほどの勢いで城壁に備えられた鐘へと飛びついた。

 彼は槌を手にすると、無我夢中で鐘を叩きまくる。

 ――カンカンカン!!

 周囲に轟く大音響。

 それが魔物の襲来を意味していることに気づいた住民たちは、たちまち騒ぎ出す。


「魔物だ、魔物が来るぞ!!」

「い、今すぐ逃げなきゃ!」

「逃げるったって、どこへ!?」


 アクレが魔物に襲われることなど、実に数十年ぶりであった。

 このあたりの魔物は、冒険者と魔導師によって常に適正数が常に維持されていたのだ。

 そのため住民たちの慌てぶりは尋常ではなく、街中はあっという間に恐慌状態へと陥った。

 街を脱出しようと、人々が城壁を目指して殺到を始める。


「落ち着いてください! 皆様、どうか落ち着いてくださいッ!!」


 数分後。

 混乱する街に、力強い男の声が響いた。

 拡声の魔道具を使っているらしい男は、そのまま大熱弁を振るう。


「このアクレの街の安全は、我々『冒険者ギルド』が保証いたします! 市民の皆様は、安心して日常生活を送ってください! 繰り返します、この街の安全は我々『冒険者ギルド』が保証いたします! なお、これを聞いている冒険者諸君は、至急ギルドに集合されたし!!」


 高らかに声を張り上げるギルドマスター。

 こうして冒険者ギルドと巨大魔物との戦いが始まるのだった――。


 ――○●○――


「本当に、冒険者にあの魔物を駆逐する能力があるのかね?」


 アクレ政庁舎、最上階にて。

 アクレの市長ノストンは、勝手に演説を繰り広げた冒険者ギルドのマスターを問い詰めていた。

 するとマスターは、自信たっぷりに答える。


「無論です。巨大と言えど、敵は魔物一匹! ギルドの総力をもってすれば、必ずや!」

「だが、あれほどの魔物に通用する攻撃手段が冒険者にあるのか?」

「ご安心を。我がギルドには竜殺しで有名なSランク冒険者も在籍しております。さらに、対魔物用に開発された大型バリスタも多数準備いたしました。ご覧ください!」


 そう言うと、マスターは懐から通信用の水晶玉を取り出した。

 それを応接用のテーブルに置くと、たちまち空中に映像が映し出される。

 広々とした草原に展開する、様々な装備を纏った数百もの冒険者たち。

 整然と並べられた巨大なバリスタの群れ。

 その頼もしい様子に、さしもの市長も表情を和らげる。


「おお! たった一時間ほどでこれだけの迎撃準備が整うとは!」

「我々、冒険者ギルドは常にこういった不測の事態に備えておりますので。建物を爆破された、どこぞのギルドとは違います」

「うむ……。今回の戦績次第では、冒険者ギルドへの予算増額を検討しよう」

「ありがとうございます!」


 深々と頭を下げるマスター。

 そうしているうちに、映し出された映像に変化があった。

 なだらかな丘の向こうから、ついに敵が姿を現したのだ。


「……大きいな! しかも、何と言う禍々しさだ!」


 魚類を思わせる、大きくて濡れた赤い眼。

 映像を通して伝わってくるその不気味さに、市長はたちまち震え上がった。

 一方、マスターは出来る限り平静を装って言う。


「なーに、ああいうのに限って見掛け倒しだったりするものです! さあ、攻撃が始まりますよ!」


 マスターがそう言った直後、バリスタの矢が放たれた。

 暴風のような風切音を響かせながら、人の身長ほどもある矢が魔物をめがけて殺到する。

 さらにそこへ冒険者たちの放った矢も加わり、空の一角が黒くなるほどであった。

 しかし――


『ダメだ、まったく効いてない!』

「馬鹿な! ドラゴンにも通用する威力だぞ!」


 水晶を通して伝わってきた声に、マスターの鼻息が荒くなる。

 今回持ち出した大型バリスタは、もともとドラゴンなどへの使用が想定されている代物だ。

 その威力は半端なものではなく、条件が整えばドラゴンの鱗さえも貫くと言われている。

 それを数十台も同時に使用して、まったくダメージがないのは想定外すぎた。


「おい!? 大丈夫かね!」

「む、無論です! あそこに展開しているのは、我がギルドでも最精鋭の者たちばかり! 巨大な魔物との白兵戦も、ほとんどの者が経験しています!」

「ならば良いのだが……」


 興奮して浮かせていた腰を、再び落ち着ける市長。

 やがて目の前に迫って来た魔物に向かって、冒険者たちがそれぞれの武器を構えた。

 ある者は剣を、ある者は槍を、ある者は斧を。

 彼らは勇ましい声を上げると、陣を敷いていた丘を下って一気に魔物へと殺到する。


『うおおおおッ!!』


 大地に叫びが満ちる。

 魔物の足元へと到達した冒険者たちは、一斉にそれぞれの武器で攻撃を開始した。

 彼らは踏みつぶされないように注意しながら、着実に武器を当てていく。

 すると――


『かてえ!!』

『クッソ、剣が折れた!!』

『こいつ、鉄で出来てるのかよ!!』


 たちまち武器が壊れ、苛立ちをあらわにする冒険者たち。

 ここで魔物が、天を見据えて咆哮を上げる。


『グララアアアッ!!』

「うおッ!?」

「これは、たまりませんな……!」


 絶望すら感じさせるほどの音の津波。

 水晶を通してすら伝わってきたそれに、現場の冒険者たちだけでなく市長やマスターまでもが悶絶した。

 更に魔物はその巨大な翼を広げると、先ほどからチクチクと小賢しい冒険者たちを見やる。

 そして、一気に――


『うわああああああッ!!!!』


 翼から降り注いだ無数の光。

 それらはたちまち、周囲に無数の火柱を生み出した。

 緑豊かだった草原が一瞬にして焼き払われ、冒険者たちの絶叫がこだまする。

 やがて映像は乱れて途絶え、黒々とした画面が映し出された。

 ――全滅。

 あまりに絶望的な結果に、市長もマスターも揃ってうなだれる。


「何ということだ……!」

「まさかこんな結果になるとは……! 完全に誤算だ……!」

「やはり、魔導師でなければダメか!」

「ですが、魔法ギルドは現在壊滅中。残っていた魔導師たちも、出払っているのでしょう?」

「そうだ。まさか、魔導師不在の時に限ってこんな事件が起こるとは……! 何という不運!」


 頭を抱える市長。

 するとここで、建物全体が揺れた。

 ――まさか!

 嫌な予感がした二人が窓を除くと、そこには先ほどの魔物の姿があった。

 巨大な翼を羽ばたかせ、暴風を巻き起こしながら宙に浮いている。

 草原から街の上空まで、ひとっ飛びしてきたようだ。


「ここまで飛んできたのか!」

「く、これでは逃げる暇すらない!」


 悲鳴を上げる市民たちを見下ろしながら、魔物は悠々と街の上空を旋回した。

 そして市街地から少し離れたところに着地すると、先ほど冒険者たちに放ったのと同じ攻撃を繰り出そうとする。

 大きく広げられた翼に、赤黒い光がみるみる充填されていった。

 ――絶望。

 その威力を知る市長とマスターは、この瞬間にも街が灰になることを覚悟する。

 当然、自分たちの死も意識した。

 だがその瞬間だった。


「ファイアーボール!!」


 どこからか飛んできた、青白い光の球。

 それがいかなる攻撃にもビクともしなかった魔物の片翼を、たった一撃でもぎ取ったのだった――。


次回、いよいよ主人公と悪魔フォルミードが戦います!

ご期待ください!

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