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第二十三話 火山魔法

「泥人形か……」


 再生したルドの姿を見て、舌打ちをするツバキさん。

 しかし、その表情に苛立ちはあっても焦りはない。

 斬撃を無効化するルドに対しても、彼女は何かしらの攻撃手段を持っているようだった。


「その程度で、良い気になるなよ?」


 刹那、ツバキさんの身体が消えた。

 動きの速さに、目がまるで追いつけない。

 やがて瞬間移動したかのようにルドの前へと現れた彼女は、刀が消えて見えるほどの速さで振るう。

 その動きに、音が遅れた。

 たちまち、ルドの身体が数百にも切り刻まれる。

 

「おやおや。どれだけ斬っても無駄だと分からないのですか?」

「ふん、それはどうかな?」


 ツバキさんがそう言った直後、ルドの身体が凍り付いた。

 身動きの取れなくなったルドは、そのまま倒れて再び砕け散る。

 今のはただの素早い斬撃ではなく、氷の魔力が込められていたのか……!

 流石はSランク魔導師、見事な対処法だ。


「雑魚に時間を取られた。行こう」

「ええ。早く魔導書を取り戻す」

「こっちが北だわ! 早く!」


 羅針盤のような道具を手に、手招きをするシェイルさん。

 彼女に従って、俺たち四人は霧が漂う谷をゆっくりと歩き始めた。

 そこら中に飛び出している岩をよけながらも、着実に。

 だが――


「甘い、甘いですよォ!!」


 声が響いた。

 直後、俺たちの周囲の地面が次々と盛り上がっていく。

 これはもしや……。

 嫌な予感がした俺が顔をしかめると、まさに想像した通りのことが起きた。

 盛り上がった地面から、次々とルドが姿を現したのだ。

 谷底を埋め尽くしたその数は、軽く百は超えている。


「おいおい……!」

「ふはは! 私は不滅なのです!」


 一斉に高笑いをするルド。

 同じ顔がまとめて動くのは、何とも気味が悪かった。

 背筋がゾワゾワとする。


「何だか面倒なことになってきたわね……。テスラ、あんたのゴーレムで止められない?」

「ゴーレムは物理攻撃しかできない。シェイルこそ、付与魔法で固めて」

「一体一体に文字を書かなきゃ効果ないのよ? 流石に無理だわ」

「大規模な魔法剣でも使えばいいが……谷が崩れるな。何かないのか?」


 ああだこうだと揉める三人。

 どうやら、それぞれの能力と現在の状況との相性が悪いらしい。

 対抗策はあるようだが、決定打に欠けているようだ。

 そうしているうちにも、包囲網が狭められていく。

 ええい、こうなったら俺がやるしかないか?

 

「テスラさん、俺がやります!」

「ラースが?」

「はい! こいつら泥だから、俺の火で焼けば固まるはずです!」

「確かに。だけど、ラースは適当な範囲魔法を覚えてない」


 怪訝な顔をするテスラさん。

 彼女の言う通り、俺はまだ範囲魔法を使ったことが無かった。

 しかし、魔法名や呪文なら座学の時間にしっかりと覚え込んでいる。

 俺の馬鹿魔力なら、ぶっつけ本番でもきっと使えるはずだ。


「覚えてますから、大丈夫です! 行けます!」

「ちょっと! そんなので平気なの!?」

「それがラース」

「もはや、何でもありだな!」

 

 みんなの中で、一体俺はどういう扱いになってるんだ?

 特にテスラさん、それがラースってなんぞ。

 俺を非常識の代表みたいに扱わないでほしいんだけどな……。

 こちらの認識からすれば、テスラさんたちの方がよっぽどすごいって言うのに。


「とにかく、行きますよ! 炎よ、猛り狂う者よ。地より噴き上がり――」

「何をするかと思えば、火の中級ですか! そんなものォ!!」

「させない」


 詠唱する俺に向かって、突っ込んでくるルドの群れ。

 すぐさまテスラさんが壁を作り、その進撃を防いだ。

 さらにそこへシェイルさんが魔法文字を刻み、破られないように強化を施す。

 

「その威を我が前に示せ。イラプション!」


 途端に、大地が裂けて炎が吹き上がった。

 紅の炎がさながら悪魔の舌がごとく、ルドの大群を舐めつくす。

 泥人形たちは悲鳴を上げる暇すら与えられず、瞬く間に黒く焼き固められた。

 大成功、完全に目論んだ通りの結果だ。

 

「……ふう、やりましたね!」

「詠唱と結果が一致してない」

「規格外だな、完全に」

「火山地帯みたいになっちゃったわね」


 大地がすっかり溶けて、マグマが流れ始めた谷底。

 それを見た三人は、開いた口が塞がらない様子であった。

 あれ、イラプションってこういう魔法じゃないのか……?

 火山の爆発を再現するような魔法って、本には書いてあったんだけどな。


「あれ、間違ってました? 火山魔法とか書いてありましたけど」

「普通は、ここまで火山そのものを再現したりは出来ない」

「へえ……そうなんですね……」


 俺、またやってしまったらしい。

 中級魔法って書いてあったからなぁ。

 普通こうはならないか。


「何だか、ツッコむ方が疲れてくるわ」

「ははは……」

「ま、ラースのおかげでルドの正体も分かったし。感謝しておくべきね。ありがとう!」

「助かった」

「ああ、恩に着るぞ! そこだッ!」


 ツバキさんは斬撃を飛ばすと、少し離れたところにある大岩を斬った。

 たちまちその中から、ローブを羽織った小男が出てくる。

 どうやらこいつが、ルドの本体のようだ。

 不気味ではあったがそれなりに美形だった人形と比べて、頭の禿げ上がった本体はあまりに冴えないが。


「クソ、まさかバレるとは!」

「霧に紛れて上手く隠れていたようだが、その霧が無くなってしまったからな」

「おのれ……! だが、貴様らはもう終わりだ」

「どういうこと?」

「ラザウェル様が、まもなく降魔教典の封印を解かれる! そうすれば、貴様たちもアクレの街もおしまいなのだッ!」


 降魔教典?

 それが、盗まれた魔導書の名前なのだろうか?

 俺はすぐさま、シェイルさんの方を見やった。

 すると彼女も知らなかったのか、意外そうな顔をしている。


「あんた、一体どこであの魔導書の情報を知ったの!? あれは、ほとんどが解読不能の古代文字で書かれていたはずよ!」

「偉大な黒魔導師が我々に力を貸して下さった、とだけ言っておこう。さあ、土産も持ったことだ。仲良くあの世にいけいッ!!」


 そう言うと同時に、ルドは自らの掌を地面に叩きつけた。

 たちまち、谷のあちこちに魔法陣が浮かび上がる。

 こいつ、最初からいざという時は自爆するつもりだったのか!

 予想していなかった敵の行動に、顔が引きつる。

 だが――


「あ、あれ? 何故だ! どうして発動しない!?」

「……ラースがめちゃくちゃしたからね。谷に仕込んであった魔法陣が、歪んだんだわ」


 先ほどの魔法により、あちこち裂け目が出来ている崖を見ながらシェイルさんがつぶやく。

 あー、魔法陣って緻密さが命だって言うからなぁ。

 亀裂が入ったり歪んだりしたら、使い物にならないんだろう。


「クッソがーーーーッ!!」


 やがて、自爆すら出来なかったオッサンの叫びが谷に響いた――。

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