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底辺戦士、チート魔導師に転職する!  作者: キミマロ


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第二十話 黒魔導師

「……まったく、とんでもないことになった」


 盛大に頭を抱えるアクレ市長。

 魔法ギルドの爆発から、約一時間後。

 俺とテスラさんを始めとする、事件に巻き込まれなかった魔導師はアクレの政庁舎へと集められていた。

 と言っても、その数はわずかに四名。

 ギルドが爆発して、街に居る魔導師はそのほとんどが被害を被ってしまっていた。


「シェイル、何が起きたか事態の説明をしておくれ」


 うなだれる市長の脇に控えていた老人が、シェイルさんに説明を促す。

 彼女の名前はオーム・コーストン。

 魔法ギルドのマスターその人であった。

 人のよさそうな顔立ちをした小柄な人物であるが、その眼光はなかなかに鋭い。

 油断ならない雰囲気だ。


「はい。私は一か月前から、ワイガ遺跡の調査を行っていました。そこで古代の魔導書を発掘したのですが、ギルドへ持ち帰る途中で何者かによって奪われました。魔物に襲撃された隙を突かれ、一瞬で」

「あなたが後れを取るなんて、珍しい」


 テスラさんが、眉をひそめて言う。

 俺は改めてシェイルさんの方を見やると、マントの色を確認した。

 やや日に焼けてはいるが、燃えるような赤。

 えっと、確かAランクの色だったか。


「相手は魔導師だった。それも恐らく複数よ」

「厄介だな」

「推測ですが……黒魔導師が動いているのかと思います」


 黒魔導師という言葉に、俺以外の全員が石化した。

 緊迫感がその場に満ちて、時の流れが緩やかになった。

 ……なんだ、そんなにヤバい奴らのか?

 俺は初めて聞く存在だけど、魔法業界だと有名なのかな。


「黒魔導師って、何です?」

「……む、知らないのかね?」


 怪訝な表情をするオームさん。

 すぐさま、テスラさんがフォローを入れる。


「ラースは新人。知らなくても不思議じゃない」

「新人? もしかして、彼が例の適性Sランクの子かね?」

「ええ」

「おお……!」


 オームさんの眼が、にわかに見開かれた。

 彼は笑顔でこちらに近づいてくると、サッと手を差し出す。


「ぜひ、よろしく頼むよ! 君には期待しているからね!」

「え、ええ……」

「マスター、今はそれどころではないのでは?」


 壁にもたれていた女性が、冷静な口調で指摘する。

 キモノと呼ばれる東洋の服を身に纏った彼女は、テスラさんと同じ黒マントであった。

 たまたまギルドに来ていなかったため助かった、魔導師の一人だ。


「ああ、そうだった。黒魔導師と言うのは、反社会的な魔導師の集団でな。破壊活動から住民の虐殺まで何でもやる」

「ならず者集団って訳ですか?」

「もっとたちが悪い。奴らは、魔導師以外の人間を劣等種として駆除しようとしている」

「……マジかよ」


 声が上擦る。

 予想以上にヤバい集団だ。

 魔導師以外を駆除って、世界のほとんどを滅ぼすってことか……?

 そんなのいくらなんでもめちゃくちゃだ。

 人間のやることじゃない!


「……遺物の奪取が黒魔導師の仕業だとすると、ギルドの爆破もまず間違いなく連中の仕業だな」

「そうだと思います」

「だとすると目的は、我々の動きを妨害することか」

「ワイガの周辺で、有力な魔法ギルドの支部はここだけ。ここを機能不全にすれば、逃げるのは容易」


 顎に手を押し当てながら、テスラさんが言う。

 仲間の逃亡のため、誰かが手助けしたってことか。

 それにしたって、ずいぶんとやることが派手だな。


「うーん、妨害だけでしょうか。何か別の意志を感じるような……」

「何かね?」

「恨みとかでしょうか。捜査をかく乱して逃げたいだけなら、もっと他に方法があるでしょうし」

「……言われてみれば、爆破のタイミングが絶妙過ぎる。うちの内部事情に詳しくないと、あれは出来ないだろうな」


 腕組みをして唸るオームさん。

 遅刻していなければ、彼も爆発に巻き込まれていたはずの人物だ。

 ギルドマスターとそのほかの有力魔導師が一堂に集った瞬間の爆破。

 あまりにも狙いすぎている。


「一人、怪しい奴がいるではありませんか」


 壁にもたれていた少女が、口火を切った。

 彼女は束ねた黒髪を揺らしながら、俺たちを見渡して言う。


「ラザウェル。半年前に追放されたばかりの彼は、このギルドに深い恨みがあるはずです。それに元Sランクで、あれだけの爆発を起こすことも容易でしょう」

「……だが彼には、ギルドを追放する前に強力な魔封じが施されている。今は何もできない一般人にしか過ぎないはずだぞ」


 オームさんの口調には、たぶんに「そうであってほしくない」という願望が含まれていた。

 しかし少女は、冷徹に告げる。


「魔封じから逃れるために、黒魔導師と組んだのかもしれません。黒魔法ならば、魔封じを突破する方法があっても不思議ではない」

「うむ……確かにな」

「オーム殿。犯人が誰であれ、一刻も早く魔導書を取り戻すことが先決ではないのですかな?」


 市長がすかさず、オームさんに促した。

 それを受けたオームさんは、渋い顔をしつつも唇を開く。


「分かりました。ちなみに盗まれた魔導書についてだが、詳細は分かるかね?」

「未鑑定の状態だったので、まだ。ただ、連中の方はどんなものか目星がついていたようですね」

「ううむ……。とにかく、怪しい人物を追うしかないな。シェイル、テスラ、ツバキ! そなたたち三名で臨時のパーティーを組み、事態の対処に当たれ!」


 力強い口調で宣言するマスター。

 すかさず、シェイルさんとツバキさん――壁にもたれていた少女のことのようだ――がうなずく。

 しかし、テスラさんだけはうなずかなかった。

 代わりに、ひょいっと手を上げる。


「む、何だテスラ」

「パーティーにラースを加えることを提案する」

「何?」

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!?」


 いくら何でも、俺にその仕事は早すぎないか!?

 敵は、もしかしたら元Sランク魔導師かもしれないんだぞ!

 そんなの相手にするのに、初心者の俺を連れて行ってどうするんだ!


「テスラさん、俺を殺す気ですか!?」

「そんなことない。ラースは既にはAランク相当の戦闘力があると考えている。足手まといにはならない」

「何と! だが、テスラがそういうのであれば、そうなのだろうな」

「いや!? で、でも俺は……」

「いますぐに動けるのは私たちだけ。敵の戦力が不明な以上、ラースを出し惜しみできない」

「うーん……」


 そう言われてもな……。

 ドラゴンがCランクだったことを考えると、Sランクって想像を絶する強さのはずだ。

 そんな化け物と戦いたくねえぞ……!

 心の中を、臆病風が吹き荒れる。

 するとここで――


「ラース、私たちにはあなたが必要なの」

「え……」

「お願いする」


 そう言うと、テスラさんは俺に深々と頭を下げた。

 ……まさか、こんな頼み方をされるなんて。

 今まで大抵のことは有無を言わずに引っ張られてきただけに、予想外だ。

 でもこんなことをされたなら……黙っていられねえ!


「……了解しました。俺もパーティーに、加わらせてください!」

「ありがとう!」


 こうして俺たち四人は、魔導書奪還に向けて動き出すのだった――!


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