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第一話 魔法ギルドへ

「実にすまないことをした!」


 俺に向かって、深々と頭を下げる老人。

 彼こそが、この冒険者ギルドアクレ支部を統括するマスターであった。

 ……えーっと、何がどうしてこうなったんだ?

 額に手を当てると、思わずため息をつく。


「……どういうことです?」

「本来なら、魔法適性がある者はすぐにでも魔法ギルドの方に登録してもらうことになっておる。それを見逃してしまったのは、我が支部の失態に他ならん。まことに、まことに申し訳ない!」


 再び頭を下げるマスター。

 執務机に額を擦りつけるかのような勢いである。

 謝られているこちらが、逆に申し訳なくなってきてしまう。


「とりあえず頭を上げてください。つまり、登録時にきちんと調査しなかったせいで、本来は魔法ギルドへ行くはずだった俺がそのまま冒険者ギルドに登録されてしまったと?」

「そういうことになるのう」

「いや……でも。魔法ギルドって言ったら、冒険者ギルドよりもいろいろハードなんでしょ? そんなとこに俺が行けるわけないじゃないですか!」


 魔法ギルドと言うのは、魔導師のみで構成されたギルドのことである。

 誰でも登録できる冒険者ギルドと比べて、数段上の組織とされていた。

 依頼内容も高度なものばかりで、ドラゴン退治やら霊薬の調達などが並んでいると聞く。

 俺みたいな落ちこぼれが、とてもついていける場所とは思えない。


「いやいや。今回判明したそなたの魔法適性はSランクじゃ。魔法ギルドに登録して訓練すれば、間違いなく超一流の魔導師となれる!」

「うーん、とても信じられないですね……。だって、ゴブリンに勝てない男ですよ?」

「それは戦士としての適性が無かったからじゃ。魔力を意識して鍛えれば、間違いなく強くなれる」

「でもなあ……」


 何だかあまりにも都合のいい話過ぎて、騙されているような気がしてきた。

 でも、俺の目の前に居るマスターは本物だ。

 遠目だけど、何回か見たことはあるから間違いない。

 そんな人物が、木っ端冒険者の俺をわざわざ時間を取って騙す理由がなかった。


「ともかく、早いうちに魔法ギルドへ行くのじゃ。詳しい説明は向こうのギルドの方が良かろう」

「分かりました。行ってみるだけ、行ってみます」

「それから、これは心ばかりの詫びじゃ。我々からの気持ちとして素直に受け取って欲しい」

「えッ……金貨!?」


 マスターがズイッと押し出して来た巾着袋。

 その中には、金貨がぎっしりと詰まっていた。

 軽く数十枚は入っていそうだ。

 これだけで、半年ぐらいは生きていけるぐらいの額だぞ……!


「い、いいんですか!?」

「もちろん! 新生活のために使うが良かろう」

「ありがとうございます!」


 こうして俺は、金貨を手に冒険者ギルドを後にしたのだった――。


 ――○●○――


「すげえ……!」


 冒険者ギルドから、街を歩くこと十五分ほど。

 アクレの街の中心部、貴族や豪商たちが屋敷を構える一角に魔法ギルドはあった。

 建物の大きさは冒険者ギルドとさほど変わらない。

 が、こちらの方が明らかに洗練された造りとなっている。

 磨き抜かれた柱や床は、粗野な冒険者ギルドにはありえなかった。


「本当にここで、合ってるんだよな?」


 魔法ギルドへ来るのはこれが初めてだった。

 と言うか、このあたりへ来ること自体が今までなかった。

 貧乏冒険者である俺には、こんなハイソな地区へ来る用事なんてなかったのだ。


「……よし!」


 雰囲気に軽くビビりながらも、正面の扉を押し開く。

 するとたちまち、巨大な空間が目の前に現れる。


「広いな……!!」


 吹き抜けの天井を見上げながら、ため息をこぼす。

 教会の聖堂を思わせるその空間は、広々としていて気品があった。

 床には紅い絨毯が敷き詰められ、天井のアーチからはシャンデリアが釣り下がっている。

 さらに、壁には魔法ギルドを示す交差した杖の紋章が高々と掲げられていた。


「ほえー……大したもんだ」

「こんにちは。当ギルドに、何かご用ですか?」

「わッ!?」


 いきなり声を掛けられて、思わず変な声を出してしまった。

 急いで振り返れば、そこには一人の少女が立っていた。

 翡翠色の髪を揺らしながら、彼女は怪訝そうな表情でこちらを見ている。

 その襟元には、金色に輝く魔法ギルドのエンブレムがあった。


「ああ、すいません。ここへ登録しに来たのですが」

「新規の方ですか。失礼ながら、魔法適性の有無は既に確かめられていますか?」

「はい。冒険者ギルドの方で」

「なるほど。ちなみに、ランクは?」


 この場合、Sと答えればいいんだろうか?

 俺はややためらいがちに、Sと言った。

 すると少女は、ぱちぱちと目を見開く。


「……本当ですか?」

「ええ、本当みたいです」

「Aの聞き間違いでは?」

「何度も聞いたから、間違いないと思いますよ」

「分かりました、すぐに確認の用意をさせていただきます! 少々お待ちくださいッ!!」


 そう言うと、少女は恐ろしいほどの勢いでどこかへ走り去っていってしまった。

 やれやれ……置き去りかよ……。

 取り残されてしまった俺は、ふうっとため息をつく。


「しっかし、みんなひどい騒ぎようだな。俺ってもしかして……すげえのか?」


 ぼんやりした俺のつぶやきは、誰にも聞かれることなく消えて行った――。


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― 新着の感想 ―
「何だかあまりにも都合のいい話過ぎて、騙されているような気がしてきた。でも、俺の目の前に居るマスターは本物だ」 負け犬根性が、しっかり身に付き過ぎているように感じますね。
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