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第十七話 金色の炎

「剣……剣か」


 置かれた剣を見ながら、イメージを高めていく。

 やがて目の前に、実物の剣とそっくりな炎の剣が浮かび上がって来た。

 恐ろしく精密なそれは、手を伸ばせばすぐに触れられそうなほどである。

 柄の細工、刃の鋭さ、微かに揺らめく炎の質感。

 熱気さえ感じられる存在感に、本当に自分の想像なのかと疑いたくなる。


「見えました!」

「見えた……?」


 俺の言い回しに、テスラさんは眉をひそめた。

 普通は想像できたとかになるもんな。

 けど、今の状況なら見えたの方が正しいだろう。


「……まあいい。その剣を、今から実際に炎で作って」

「分かりました!」

「掌から魔力を出して、収束させていく」


 身体全体を巡っている魔力を、掌に集中させる。

 やがて指先から、青い炎のようなオーラが立ち上り始めた。

 それを今度は、いま見えている剣の形へと変化させていく。

 指の動きに従って青いオーラがうごめき、見る見るうちにその形を変える。


「……凄い」


 出来上がった魔力の剣に、テスラさんが息を飲んだ。

 彼女は大きな瞳をにわかに輝かせると、俺との距離を詰めてくる。

 宝物を見つけて、思わず前のめりになった子どものようだ。


「燃やして」

「え?」

「そういうイメージを持つ。魔力を燃やす、それが火属性」

「了解です! 燃やす、燃やす……」


 自然と目付きが鋭くなる。

 燃やす、燃やす、燃やす……。

 次第に強まる意識、思考、思念。

 それに従って、剣の青い輝きが増していった。

 やがてその光が臨界点を超えると、一気に金色へと転化していく。

 暖かく力強い光の奔流が、みるみる視界を埋め尽くしていった。


「これは……!」

「おお!!」


 燃え上がる金色の剣。

 幻想的に揺らめくそれに、俺は思わず息を飲んだ。

 これほど美しい炎は、生まれて初めて見た。

 燃える朝陽を思わせるそれに、感動すら覚える。


「これが、俺の炎……!」

「私も、この色は初めて見る。魔力の純度が高い証拠」

「へえ……!」

「振ってみて。炎剣は熱いけれど、魔法の使用者はそれを感じない」


 言われるがままに手を伸ばす。

 やがて手にした剣は、光を掴んだような不思議な感触だった。

 実体を持たないそれを振るうと、たちまち空気が歪んで唸る。

 俺は熱いと感じないが、本来ならば凄まじい高温なのだろう。

 試しに雑草を薙ぐと、たちまち燃え尽きて灰となる。


「ラース、そこにある剣を切って」

「これをですか?」

「ええ」


 テスラさんが視線で示したのは、先ほどまで俺が見ていた剣だった。

 こんな鉄の塊を、切ることなんてできるのか?

 俺が今一度確認するように目配せをすると、テスラさんは早くやれとばかりに手刀を落す仕草をした。

 ま、失敗しても害はないしな。

 俺は炎の剣を高く掲げると、勢いよく振り下ろす。

 するとたちまち――鋼が軋む音がして、二つになった剣が飛んだ。


「マジか」


 呆気なく切断された剣に、言葉を失う俺。

 その断面は滑らかで、焼き切れたと言うよりは普通に切断されたようであった。

 見ていて、背筋が寒々としてくるほどの切れ味だ。

 しかし、テスラさんにはだいたい見当がついていたのか平然としている。


「どうなってんですか、これ……」

「その魔法、既にただの炎剣じゃない。もっとレベルの高い何か」

「何かって何です?」

「私にも不明」


 そう言うと、テスラさんは剣に熱っぽい視線を送ってきた。

 好奇心にすっかり火がついてしまったようである。

 Sランクの彼女がこれほどの興味を持つなんて、よっぽどなのだろう。

 

「いずれにしても、凄い武器。威力は申し分ない」

「ありがとうございます」

「ただ、応用性が少し物足りない。大きさや数を増やす練習をする。操作も覚える」

「そんなこと、出来るんですか?」

「ええ。有名な魔導師だと、紅騎士のルタは十本の炎剣を自在に操る」

「じゅ、十ッ!? 手の数より多いじゃないですか!」


 そんなの、いったいどうやって操るんだ?

 手と足、そして口を合わせたって五本がせいぜいのはずだ。


「単純なこと。剣を自在に飛ばして操る」

「な、なるほど。それ、出来たら確かに強そうですね」

「もちろん。紅騎士はこの国の賢者候補の一人、それも有力者」

「そりゃ、さぞかし強いんだろうなぁ……」

「でも、剣の質ならラースの方が上」


 きっぱりと言ってのけるテスラさん。

 実物を見たことがあるのか、ずいぶんと自信ありげだ。

 ……そんなすごい人より上なのか、俺の魔法。

 最近、いろいろなところで褒められ過ぎて怖いぐらいだ。

 あとで、みんなでドッキリだとか言ってこないよな……?


「本当です?」

「嘘言わない」

「まあ、そうですよね……」


 テスラさんの目つきは、真剣そのものだった。

 とても、俺をからかっているような雰囲気ではない。

 と言うか、テスラさんが人をからかう姿があまり想像できなかった。

 この人は、どちらかと言うと冗談が通じないタイプだ。


「とにかく、頑張る! ラースは紅騎士よりも、間違いなく強くなる!」

「分かりました! その紅騎士って人は良く知りませんけど……やります!」

「ん、いい返事。じゃあまずは、その剣を飛ばしてみることから」

「はい!」


 すぐさま、剣を飛ばすべく想像を膨らませる。

 飛べ、飛べ!

 お前は鳥になるんだ!

 たちまち剣に翼が生えて、自由自在に空を飛び回る姿が浮かんできた。

 すると――


「うわッ!?」


 巨大な火の鳥と化した剣が、空高く飛び上がって行った――。


カイザーフェニックス!

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― 新着の感想 ―
[一言] 反射魔法には気をつけろ。
[一言] メラゾーマではない、メラだ。
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