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第十六話 属性魔法

「ごくろうさま」

「ふーーッ!!」


 外壁に沿ってアクレの街を一周したところで、ようやくテスラさんは足を止めた。

 どうにか彼女に着いて行くことが出来た俺は、その場でへたり込んでしまう。

 ほんの一時間ほどだったが、実に疲れた。

 安定して身体強化を発動し続けることが、こうも大変だったとは。

 肉体的と言うより、精神的な面でかなり参ってしまった。


「いやあ、疲れました……」

「最初はそう。ラースの場合、魔力がある分だけマシ」

「そうなんですか?」

「ええ。初日は、付いてこれないと思ってた」


 きっぱりと怖いことを言うテスラさん。

 優しげな見た目とは裏腹に、ずいぶんと厳しい教育方針である。

 まー、いきなりドラゴンと戦おうと言い出した時点で想像はしてたけどさ。


「いったん休憩、朝ご飯を食べる」

「やった!」

「それが終わったら、今度は属性について学ぶ」

「おおおッ!! 本格的に、魔法を学ぶんですね!?」


 俺がそう尋ねると、テスラさんはコクコクとうなずいた。

 彼女は薄く笑みを浮かべると、言う。


「今日は、ひとまずどの属性を扱うを決めてもらう。それによって、方針が違う」

「分かりました! で、それってどうやって決めるんですか?」

「あとで教える。今はそれよりごはん」


 軽くお腹をさすりながら、歩き始めるテスラさん。

 履いていた厚底靴を脱ぐと、俺はすぐさまその後を追いかける。

 俺とテスラさんはそのまま正門を抜けると、街の大通りをゆっくりと歩いて行った。

 宿を出た時はまだ誰も出歩いていなかったが、今はもうすっかりにぎわっている。

 自分たちがいかに早起きしたのか、改めて実感させられた。


「そうだ。ラース、卵を忘れちゃダメ」


 宿の前に着いたところで、テスラさんがポンッと手を叩く。

 そうだったそうだった、二日目の朝から忘れるところだった!

 ロドリーさんから貰った妖精の卵に、しっかりと魔力を分けてやらなきゃ!


「卵は部屋?」

「ええ、取ってきます!」


 急いで宿の中に入ると、階段を駆け上がって部屋へと向かう。

 ドアを開けると、そのままベッドの脇に置かれている戸棚へと手を伸ばした。

 その上の木箱を手にすると、すぐさまテスラさんのもとへと取って返す。

 すると戻る途中、わずかにだが箱が揺れているような感覚があった。


「持ってきました!」

「そう。ちゃんと魔力をあげてね」

「気を付けます。それよりテスラさん、いま卵が揺れましたよ!」

「そう。中身が育ち始めてるのかも」

「楽しみだなぁ……」


 期待に胸を膨らませながら、魔力を注いでいく。

 こいつが育ったら、一体どんな妖精が誕生するのだろうか?

 出来れば、かわいい子が良いな。


「さ、私たちもごはん」

「そうですね!」


 ――○●○――


「では、属性について教える」


 コホンッと咳払いをしたテスラさん。

 切株に腰かけていた俺は、ぱちぱちと拍手を送る。

 朝食後、再び街の外へと出た俺たちは適当な講義場所を求めて草原の入口へと来ていた。

 俺の魔法は、危なっかしくて街の中では使えないとの判断からである。


「魔法には主に五つの属性がある。火・風・水・土・無の五つ。ただし、雷などの派生も多い」

「さっき使った、身体強化が無属性でしたっけ」

「そう。いずれの属性も、初級は覚えるのが簡単。ただし、中級以上は本腰を入れないと厳しい。半端になる」

「そう言えば、そんなこと言ってましたね」


 あれもこれもと手を出すと半端者になるとかならないとか。

 オールラウンダーはロマンだけど、初心者の俺には難しすぎるだろう。

 

「属性についての向き不向きは、実はない。基本的に、みんな使いたい属性を使う」

「そうなんですか? いかにも適正とかありそうですけど」

「強いていうなら、直感的に思いついた属性が一番その魔導師に向いている。理由は詳しく分かっていないけれど、本能レベルで惹かれるらしい」

「へえ……」


 本能レベルで惹かれる、か。

 ずいぶんと神秘的な話である。

 魔法と言う時点で、相当以上に神秘的ではあるのだけども。


「眼を閉じて。何が思い浮かんだ?」

「えっと……」


 そう言われて思い浮かんだのは、でっかい炎の塊であった。

 大きな大きな火の玉が、真っ黒な虚空の中で輝いている。

 その光は強く、俺の想像でしかないはずなのに眼が灼けるようだった。

 

「火です。火の玉が、はっきりと見えます!」

「そう。ラースは火属性」

「火ですか。うーん、何かあんまり応用が利かなさそうですね……」


 何とはなしに、攻撃一辺倒のイメージがある。

 その分威力はありそうだけど、それだけだと使い勝手悪そうだよなぁ。

 するとテスラさんは、首を横に振る。


「火属性は、基本的に使い勝手は良い。治癒系の魔法とかもある」

「へえ!」

「活性を司ってるから。変わり種だと、陽炎とかも出せる。でも、ラースにはやはり攻撃系がおすすめ」

「……まあ、そうですよね」


 これだけ魔力があれば、そりゃそうだろうな。

 大火力で敵をぶっ飛ばすのが、一番有効な魔力の使い方だろう。

 単純でとても分かりやすい。


「炎の攻撃魔法だと、初級がファイアーボールで中級がファイアーランスが代表的。でも、遠距離はファイアーボールで事足りるから近距離系を覚える」

「ちゃんとした近距離用の魔法なんて、あるんですね」

「むしろ、魔導師の半分ぐらいは近距離戦が得意」


 それはまた意外な事実である。

 遠距離から、ドッカンドッカン打ち合うのが魔導師だと思っていた。


「炎の近距離だと、炎剣が代表的。まずはそれを覚える」

「はい!」

「今から剣を作るから、それを見て炎の剣をイメージ」


 そう言うと、テスラさんは地面に手を当ててあっという間に剣を生み出してしまった。

 恐るべし土魔法、相変わらずとても便利だ。

 俺も、覚えるなら土魔法が良かったかもしれないな。

 そんなことを思っていると、テスラさんが俺の前に剣を置く。

 その冴え冴えとした刃は、とても即席とは思えないクオリティだった。


「さあ、よく見て」

「分かりました!」


 こうして俺の、炎属性を使いこなすための訓練が始まった――。


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