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底辺戦士、チート魔導師に転職する!  作者: キミマロ


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第百四十一話 海図

「さぁ、存分にお召し上がりを。急に支度をさせましたゆえ、いささか質素ではございますが……」


 そういうと、並べられた料理の数々を手で示す葵様。

 質素などと言っているが、まったくとんでもない!

 お膳に載せられた料理はいずれも美しく盛り付けられた豪華なものばかり。

 肉や魚はもちろんのこと、中には貴重なモンスターの食材まである。

 とても半日足らずで用意したとは思えないほどだ。

 それだけ、葵様が俺たちのことを思って頑張ってくれたということだろう。


「いただきます!」


 葵様の厚意に、素直に甘えることにした俺たち。

 さっそくご馳走を口いっぱいに頬張る。

 ……うーん、美味しい!!

 どの料理も絶品で、食べると優しい味わいが広がる。

 全体的に味付けは控えめだが、しかし、濃厚な旨味をたっぷりと感じられた。


「この黒いソース、美味しい」

「それは醤油だな。魚の刺身に使うんだ」

「へえ。じゃあ、この緑のは?」


 刺身の隣にこんもりと盛られた緑の何か。

 それを指差してシェイルさんが質問すると、ツバキさんは笑いながら言う。


「ワサビだ。そのまま口に入れてみろ、美味いぞ」

「……んぐ!?」


 ツバキさんに言われた通り、ワサビを箸でつまんで口に放り込んだシェイルさん。

 途端に、彼女の顔が歪んだ。

 そして鼻をつまみながら、ドタバタと暴れ出す。


「からっ!! なにこれ!?」

「ははは、すまんすまん。ちょっと担いでみただけだ」

「水ちょうだい、水!!」


 やがて運ばれてきた水を、凄い勢いで飲み干すシェイルさん。

 ……これ、そんなに凄い味がするのか?

 俺がジーっとわさびを見つめると、ツバキさんが笑いながら解説してくれる。


「本来はな、刺身に少しだけ載せて食べるんだ」

「へえ……」

「美味いぞ。安心しろ、今度は騙してはおらん」


 ツバキさんにそう言われ、俺は恐る恐る鯛の刺身の上にワサビを載せた。

 そしてそれをショウユにつけて、ゆっくりと口に運ぶ。

 するとたちまち、刺身の甘みと醤油の旨味、そして鼻をツンッとさわやかな香りが抜けた。

 おぉ、これは結構いいな……!

 香辛料の類だろうが、大陸の料理では全く味わったことのない味だ。

 

「いけますね! こりゃいい!!」

「ん、美味」

「だろう?」

「もー!! ツバキ、何で私にはあんな食べ方教えてみんなには優しいのよ!!」

「いや、シェイルを見ているとからかいたくなってな」


 そういうと、ちろっと舌を出して笑うツバキさん。

 黒鬼丸を倒したことで、少し肩の重荷が取れたのだろうか?

 いつもは真面目な彼女らしくない、砕けた雰囲気だった。


「失礼します」


 ここで、黒装束を纏った男が宴会場に入ってきた。

 あの服装は……もしかして忍者という奴か?

 前に、ツバキさんから聞いたことあるな。

 彼は俺たちに一礼すると、葵様に向かって報告を始める。


「奥方様。上様についてですが、城全体をくまなく探しましたが見つかりませぬ」

「そうか。ならばやはり、黒魔導師どもが……」

「はい。やつらが連れて行った可能性が高いかと」


 和やかな雰囲気から一変して、厳しい顔つきをする葵様。

 黒鬼丸に取って代わられていた本物の将軍は、一体どこへ行ったのか。

 いま城中の兵士を動員して探させているそうだが、まだ見つかってはいないらしい。


「捜索範囲を国全体へ広げよ。ただし、民にはまだ上様の不在を明かしてはならぬ」

「はっ!」


 軽く一礼すると、忍者は庭へと姿を消してしまった。

 やはりこうなると、将軍の身柄はまだ黒魔導師たちが抑えているのだろう。

 そう言えば、黒鬼丸も上様の血が海帝獣封印の鍵とか言ってたな……。

 

「やはり一刻も早く、黒魔導師どもを見つけて捕らえるしかないな」

「ええ。奴らなら間違いなく上様の場所を知ってるでしょうね」

「…………よし、海図の場所をそなたたちに教えよう。着いて参れ」


 パンッと手を叩く葵様。

 こうして宴をお開きにした俺たちは、彼女に続いて城中を歩いた。

 そうして数分後、目の前に美しい庭園が現れる。

 大きな池と赤い橋、そして見事な枝ぶりの松が絵にかいたように見事だ。


「ここじゃ」

「…………え?」

「よく見ておれ」


 俺たちを待たせると、葵様は池の水面へと手を伸ばした。

 そしてさびた鎖を掴むと、えいやっと力いっぱいに引っ張る。

 ――ギュボンッ!!

 たちまち大きな栓のようなものが抜けて、水が動き出す。

 

「ちょ、ちょっと!? なにこれ!?」

「水が抜けてる?」

「んん? あれは?」


 やがて池の底に、何か台座のようなものが沈んでいるのが見えてきた。

 水の反射を利用して、水位が下がらない限りは見えないようになっていたらしい。

 そしてその台座の上には、古びた長方形の箱が置かれている。


「海図はあの箱の中に入っておる。ほかにもいくつか偽物が城中に隠してあったが、社へと至ることのできる本物はこの一枚のみじゃ」


 そこまで言うと、葵様は改めて俺たちの方に向き直した。

 そして――。


「頼む、そなたたちが頼りじゃ。必ずや黒魔導師からこの国を守り、上様を連れ戻しておくれ」


 将軍が不在の今、国の代表と言っても過言ではない立場の葵様。

 それが一介の魔導師でしかない俺たちに、深々と頭を下げた。

 その愁いを帯びた瞳と表情からは悲壮感すら感じられる。

 ……そうか、葵様は上様を愛していたんだな。

 悲痛な表情の裏に、俺は彼女の胸の奥に渦巻く情念を感じ取る。


「わかりました。必ず黒魔導師を倒し、上様を連れ戻します」


 軽く拳を握り、静かに宣言する俺。

 海帝獣を巡る黒魔導師との戦いは、こうして本格的な始まりを告げたのだった――。


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