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第十三話 月の指輪

「うう……!」


 お金の入った袋を大事に抱えながら、街の大通りをゆっくりと行く。

 何せ、袋の中には一億ルーツもの現金が入っている。

 自然と緊張感も増すというものだ。

 道行く人々が、全員こちらを狙っているような妄想さえ芽生えてくる。


「不自然」

「そう言われても、緊張しちゃって」

「逆に怪しまれるから、もっと堂々とする」

「は、はい」


 テスラさんに促され、大きく胸を反らす。

 が、今度は張り過ぎて不自然だったらしい。

 そっと肩に手を添えられ、落ち着くようにと無言で促される。


「はは、すいません……」

「魔導師たるもの、いついかなる時も冷静でいるべき」

「気を付けます」

「まあいい。そろそろ、右に折れて」


 そう言ってテスラさんが示したのは、ずいぶんと細い横道であった。

 見たところ、完全に路地である。

 壊れた酒樽が置かれていて、どことなく場末の空気だ。

 街の繁栄から、ここだけ取り残されてしまったかのようである。


「……ここですか?」

「そう。この先、ずっと奥に入口がある」

「こんなところになぁ……」


 半信半疑ながらも歩を進めていくと、やがて行き止まりへと差し掛かった。

 石積みの壁が三方を囲んで、完全に行く手を遮っている。

 入口らしきものなんて、どこにもない。

 壁にも地面にも、蟻一匹通れるほどの隙間すらなかった。


「道、間違えたんじゃないですか?」

「大丈夫、ここで良い」


 そう言うと、テスラさんは道に敷き詰められている石畳をコツンと杖で叩いた。

 たちまち地鳴りがして、足元の石が滑らかに動き出す。

 危うく転びそうになった俺は、慌ててその場から遠ざかる。


「何ですか、これ!?」

「入口はいつも隠してあるの。安全のために」

「そりゃあ、大した仕掛けですね……!」


 やがて石の動きが収まると、地面に小さな入口が出来ていた。

 階段が地下に向かって長く伸びている。

 わずかだが、冷たい風が吹き上げて来た。

 中はそれなりに広いようだ。


「こっち」

「はい!」


 テスラさんに続いて階段を下りていくと、たちまち広々とした倉庫のような場所へとたどり着いた。

 背の高い棚が無数に並んでいて、その一つ一つに商品が所狭しと陳列されている。

 杖から置物まで、およそあらゆるものが雑多に置かれていた。


「すごい……! 何でも売ってる!」

「この店の売りは品ぞろえ。魔法に関連するものなら、チリ紙でもある」

「へえ! それなら、魔装も良いのがありそうですね!」

「もちろん。ちょっと待ってて」


 パンパンと手を叩くテスラさん。

 その音に応じて、店の奥から大きな円盤のようなものが飛んできた。

 乗り物……だろうか?

 その上には、小柄な老婆が座っていた。

 相当なお年寄りのようで、しわに顔が埋もれてしまっている。


「久しぶりじゃのう、テスラちゃんや」

「こちらこそ」

「相変わらず口数が少ないのう。それで、そっちの男の子は? 彼氏かえ?」

「……そんなのじゃない」


 突然のことにびっくりしたのか、テスラさんの反応がやや遅れた。

 彼女はコホンッと咳払いをすると、改めて俺の方を見て言う。


「教導してるギルドの新人。ラース」

「ああ、どうも。ラースです、よろしくお願いします」

「ほうほう、新人さんか。わたしゃロドリー、この店の主人さね。今後ともぜひ贔屓にしておくれ」

「はい、わかりました」

「いい返事だねえ。魔導師にしちゃ、珍しい」


 満足げにうなずくロドリーさん。

 魔導師にしちゃ珍しい、か。

 テスラさんとホリーさん以外の人とはほぼ面識がないけど、やっぱ変わり者が多いんかな。


「ラース用の魔装が欲しい。種類は問わないから、魔力の制御が出来るものを出して」

「ふうん。新人さんに制御でいいのかい?」

「ええ。この子の魔力、私よりもかなり多い」

「ほう、そいつは大したもんだ! ちょっと待っておれ!」


 そう言うと、ロドリーさんは円盤に乗ってどこかへと飛んで行ってしまった。

 そして数分後、両手に商品を抱えて戻ってくる。


「この店にある魔装で、それだけの魔力を抑えられるとなるとこれぐらいさね!」

「おお、結構いっぱい! おすすめとかありますか?」

「初心者には、やっぱり杖かねえ。他には、指輪タイプなんてのも良いよ」

「へえ……」


 渡された商品を、いろいろと手にしてみる。

 杖に指輪、中には髪飾りなんて変わり種もあった。

 いろいろと身に着けて見ながら、魔力を通して軽く使い心地を確かめてみる。

 なるほど、魔装を起点に体内の魔力の流れがちょっぴり整えられている気がした。

 しかし――


「うーん、どれもちょっと効果が……」

「弱いのかい?」

「ええ、まあ」


 使ってみた感じ、どれも魔力を抑えられている気はあまりしなかった。

 俺の魔力が大きすぎて、魔装の容量を大きく超えてしまっているのだろう。

 するとテスラさんが、ロドリーさんを見やって言う。

 

「ロドリー、あれを出したら?」

「あれって、指輪のことかい?」

「ええ」

「まあ、試すだけ試すのは良いだろうけど……。流石に無理なんじゃないかねえ」


 ぶつぶつと言いながらも、ロドリーさんは再び店の奥へと引っ込んでいった。

 俺はすかさず、テスラさんに尋ねる。


「あの、あれって何なんですか?」

「この店の目玉商品のこと」

「目玉商品?」

「かつて、初代賢者のコレクションの一つだったと言われている指輪」

「それ、とんでもない品物なんじゃないですか!?」


 初代賢者って言うと、災厄を打ち倒してギルドを作った偉い人だったはずだ。

 そんな人にゆかりのある指輪って、相当の品だろう。

 お値段だって、恐ろしいぐらいの額に違いない。


「もちろん。貴重品で、値段も高い。そしてなにより、普通の魔導師には扱えない」

「どういうことです?」

「魔力を抑える効果が強すぎる。これまで何十人もチャレンジしたけど、全員失敗した。でも、あなたならきっと使える」

「うーん……」


 根拠のない楽観に、たまらず唸る俺。

 いくら何でも、早々上手くいくものだろうか?

 俺は顎に手を押し当てると、少しばかり考える。

 そうして居ると、ロドリーさんが小箱を手に戻って来た。


「よく見ると良い。これが、初代賢者ゆかりの月の指輪さ!」


 開かれた小箱。

 その中には、沈んだ銀色をした古い指輪が入っていた――。


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