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底辺戦士、チート魔導師に転職する!  作者: キミマロ


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第百三十六話 黒鬼丸

「おぞましい……。人であることを捨てたのか」

「あさましや、あさましや! あんなものが上様を騙っていたとは!」


 着物を脱ぎ捨て、半裸となった将軍。

 その人間離れした姿を見て、たちまち皆が顔をしかめた。

 鱗の生えた腕、鬼のような赤黒い肌をした胴体、体毛に覆われた足……。

 魔物を寄せ集め、無理矢理に人の形へと成型したようだ。

 

「あんなの、今までどうやってみんなの目を……」

「着物に認識阻害がかけられていたんだわ。あれを見て、裏側にびっしり魔法文字が刻んである」


 脱ぎ捨てられた着物を指さして、シェイルさんが言う。

 確かに彼女の言う通り、白い裏地が黒く見えるほどの密度で文字が刻まれていた。

 道理で、今まで将軍の正体に誰も気づかなかったはずだ。


「この奸物めが! 名を名乗れ!」

「わしは黒鬼丸。百年を生きる大妖術師よ」

「その名、聞いたことがあるぞ……! しかし、将軍暗殺に失敗して殺されたはずじゃ!」

「生きて大陸に逃れたのよ。そして、老いた体を作り替えこの国に復讐しに戻ってきた」


 なるほど……だいたい読めてきたぞ。

 国の乗っ取りに失敗したこいつは、大陸に逃げて他の黒魔導師に助けられた。

 その時、条件として海帝獣の封印を解けとでも言われたのだろう。

 秋津島の妖術師と大陸の黒魔導師の利害が一致し、手を組んだというわけだ。

 くそ、考えうる限り最悪の組み合わせだな……。


「はっ! 自慢げに言うことかよ。ようは、負け犬が使いっぱしりにされて戻ってきたというだけのことじゃろう?」


 ここで、一刀斎さんが黒鬼丸をあえて挑発するように言った。

 そして俺たちに目配せをすると、視線を倒れた櫓のほうに移す。


「わしが時間を稼ぐ。お前たちは葵様とほかの者たちを避難させよ!」

「一人じゃとても無理ですよ!」

「年寄りを甘く見るでないわ! キエエエエッ!!」


 再び宙へと飛び上がり、黒鬼丸へと斬撃を放つ一刀斎さん。

 そこから一進一退の攻防が始まり、衝撃波が伝わってくる。

 さすがはツバキさんのお父さん。

 その腕前は半端なものではなく、空中を自由自在に移動しながら攻撃していた。

 あれはもしかして、空気を蹴って浮いているのだろうか?

 しかし敵もさるもの、異形の肉体は斬撃をことごとくはじき返していく。


「……指示通り、俺たちはみんなを避難させましょう! 戦いに加わるのは後です!」

「そうね、うかつに魔法で手を出すと事故が起きそうだわ」


 こうして動き出した俺たちは、真っ先に櫓の下敷きになりかけていた葵様を救助した。

 黒鬼丸の術にかけられていたのが、すでに解けたのだろう。

 彼女の顔は憔悴しきっていて、しきりに腹を擦っている。


「な、なんということか……。私はあのような者の子を孕んだというのか!? 頼む、この腹の子を今すぐ殺しておくれ、汚らわしゅうてたまらぬ!」

「今はそれよりも避難が先よ! 暴れないで!」

「この先に、今は使われていない金蔵があります! あそこなら安全かと!」


 葵様をどうにかなだめようとしていたところで、役人の男がそう提案してきた。

 その視線の先には、どっしりとした長方形の大きな建物が建っている。

 なるほど、あそこならばそう簡単に壊れることはないだろう。

 見ただけでわかるほど、壁が分厚く頑丈そうだ。


「私とテスラで葵様を運ぶわ。ラースはツバキを!」

「はい!」


 俺は急いで椿さんのいる櫓の上へと移動した。

 そして彼女の肩を抱えると、ゆっくりと階段を下りていく。


「すまんな。体力がまだ戻っていなくて」

「いいんですよ。俺たち、仲間じゃないですか」

「く、本来ならば秋津島の敵は私が倒すべきなのだが……すまん……」


 悔しさを顔ににじませるツバキさん。

 彼女のためにも、一刻も早く黒鬼丸を打ち取らねば。

 俺が決意を新たにしたところで、上空でひときわ激しい衝突音が聞こえる。

 ――ガキィッ!!

 魔力を纏った刀と大木のような腕が交錯し、衝撃が天に響く。

 今のところ、形勢は五分と五分。

 しかしながら、体力で勝る黒鬼丸が少しずつ押しているようにも見える。


「こちらへ、早く!!」

「ここまでで十分だ」


 やがて蔵の前までたどり着いたところで、ツバキさんが自力で歩き始めた。

 彼女が中に入ったところで、役人の男が扉を閉じてしまう。

 どうやら、ツバキさんが最後の避難者だったらしい。


「これで逃げ遅れた者はおりません」

「よし、これで加勢できるわね」

「そうは言っても、難しい」


 目まぐるしい攻防戦を見ながら、渋い顔をするテスラさん。

 するとここで、シェイルさんが俺の肩をポンポンと叩いていう。


「こうなったら、ラースに全掛けするしかないわ。中途半端に魔力が残ってても足手まといになるだけだしね。私たちの残った魔力、全部預けるわよ」

「わかった」

「じゃあラース、ちょっとこっち向いて」


 シェイルさんに言われるがまま、俺は顔を二人のほうに向けた。

 すると次の瞬間――。


「んんんっ!」


 いきなり、シェイルさんが俺の顔に口づけをした。

 え、これはいったいなんだ!?

 俺がたまらず驚いていると、シェイルさんが少し照れたような顔をしながらも言う。


「これが一番早くて効率がいいのよ! あーほら、テスラとも!」

「え、ええ!? 言われたらやれませんって!」

「遠慮してる場合じゃないでしょ! 私たちだって恥ずかしいんだから!」

「嫌なの?」

「そうじゃないですけど!」


 あー、もうこうなったら仕方ないのか!

 覚悟を決めた俺は、その場で腕を揃えて直立不動の姿勢をとった。

 次の瞬間、頬にすっと柔らかくて暖かなものが触れるのだった――。

 

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