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底辺戦士、チート魔導師に転職する!  作者: キミマロ


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第百三十四話 正体

「……何とか持ちましたね」

「死ぬかと思った」


 魔法の発動から数秒後。

 崩れ落ちた壁の中から、俺たちはゆっくりと顔を出した。

 周囲の地面はすっかり焼け焦げていて、爆発の壮絶さを物語っている。

 ただし、範囲はきちんと制限されていたのだろう。

 周囲の櫓は崩れることなく立っており、シェイルさんの制御の緻密さを物語っていた。


「はぁ……はぁ……。流石に堪えるわね」


 やがて、息を乱したシェイルさんの姿が目に飛び込んできた。

 魔力を使い果たしたらしい彼女は、そのままストンと尻もちをつくように地面に座り込む。

 まさに乾坤一擲、秘策と言っていたが本当にすべてを出し尽くしたようだ。


「これは……天空様はどこに行かれたのでしょうか? まさか、跡形もなく吹き飛んでしまったのでありましょうか?」


 ここで、櫓の上に避難していた役人が戻ってきた。

 彼は黒焦げになった会場を見渡すと、困惑したような表情でこちらを見る。

 ……そう言えば、初めに殺しはなしとか言ってたな。

 これたぶん、天空は吹き飛んでしまっていそうだが……大丈夫なんだろうか?

 俺たちが逆の意味で心配し始めたところで、急に地面が揺れ始める。

 

「なんだ?」

「え、うそ……!?」


 地面が隆起して、岩でできた棺のような物体が姿を現した。

 ――バタリ。

 やがてその蓋が開かれると、中から天空が姿を現す。

 馬鹿な、一瞬のうちに避難したとでもいうのか?

 天空は血の一滴も流しておらず、その衣装も綺麗なままだった。

 むしろ、攻撃を仕掛けたはずのシェイルさんの方がはるかに疲弊してしまっている。

 

「あり得ない、攻撃は確かに当たっていたわ。私、間違いなく見たわよ……」

「見間違いだな。わしは今こうしてピンピンしておる」

「いや、俺も……」


 テスラさんの作ったドームへ逃げ込む直前。

 ほんの一瞬だが、爆発が天空の身体を呑み込むのを見た。

 間違いない、眼にしっかりと焼き付いてしまっている。

 とっさに何かで防いだとしても、あそこまで無傷なのはおかしいんじゃないのか……?

 脳内でにわかに疑問が渦巻く。


「とにかく、やるしかない」

「……ええ。援護をお願いします!」


 ひょっとすると、表面的な部分は誤魔化しているだけで内部にはダメージがあるのかもしれない。

 俺は一分の希望を抱きながら、天空との距離を詰めた。

 とにかく素早く、呪文を唱える暇を与えないうちに仕掛ける!

 最大限に身体強化をして、さらに拳に魔力を纏わせた。

 溢れ出した魔力によって拳全体が淡く輝く。


「甘いわ! 黒焔護壁!!」


 天空の身体を守るように、炎の膜が出現した。

 たちまち強烈な熱が襲い掛かってくる。

 だがこのぐらい、あの獄鳥と比べれば大したことはない。

 多少のダメージは覚悟、強引に突っ切ってやる!!


「おりゃあああああっ!!」

「なにっ!?」


 俺の行動が予想外だったのだろう。

 天空の対応がわずかに遅れ、仮面に拳が直撃した。

 ――硬い!!

 材質が特殊なのか、それとも魔法によって強化されているのか。

 顔を覆っているだけの薄い仮面が、異常なほどに硬かった。

 いや待てよ、ひょっとして……。


「離れよ!!」

「くっ!!」


 ここで、天空が反撃とばかりに肘を入れてきた。

 俺はとっさに腕でガードするが、恐ろしく重い攻撃だった。

 たまらず空中へ弾き飛ばされ、無理やりに距離を取らされる。

 けれど、これでいよいよ俺の疑問が確信へと変わった。


「そういうことか。分かったぞ天空、お前の正体が」

「わしの正体? ほう、一体なんだというのだ?」

「人形だ。お前の本体は別にあって、外から操ってるんだよ」

「これは異なことを。このわしが、人形とは!」


 カカカッと俺の言葉を笑い飛ばす天空。

 しかし俺は冷静に、これまでのことを一つずつ説明していく。


「お前が人形だと考えれば、いろいろと説明がつくことが多いんだ。まず最初の大岩を壊したのも、待っている間に本体の方から魔力を流したとすれば簡単だ。二回目にやった時、お前が触れる前に岩に魔力が宿っていたのがその証拠だ」

「ほうほう、だが証拠としては弱すぎるな」

「まだまだある。さっきの大爆発でおまえが生き延びてたのも、一瞬で地下に隠れたからじゃない。本当は粉々になってしまったのを、地下の石や岩で再構築しただけなんだ。だからあれだけの爆発に巻き込まれたはずなのに、身体に傷一つない状態だったんだよ」


 そこまで言ったところで、天空の表情がわずかながら曇った。

 俺がただの当てずっぽうで言っているわけではないと理解したのだろう。

 テスラさんやシェイルさんも、俺の言葉に対してうんうんと頷いている。

 どうやら彼女たちも、やはり天空に対して違和感を覚えていたようだ。


「最後に、さっきお前を殴った感触。いくら仮面をつけていたとはいえ、とても人間の身体とは思えなかった。最初から人間でないというのなら、納得がいくよ」

「なるほどなるほど。しかし、決定的な証拠というのはなさそうだな」

「そういうなら、仮面を取りなさいよ。そうすれば、一発であんたが人形かそうでないか分かるわ!」

「それはそう、取って」


 シェイルさんの言葉に、テスラさんが同調した。

 やがて櫓の方からも一刀斎さんやツバキさんの声が聞こえてくる。


「そうだ、外せ! そうすればすぐに分かる!」

「その通りじゃ! 自らの疑惑を晴らしてみせよ!」

「えー、天空様。申し訳ないのですが……仮面を外していただけますか?」


 とうとう、場を取り仕切っていた役人までもが天空に仮面を外すことを要望した。

 しかしここで――。


「静まれ! 誉ある術比べの席でこのようなこと、無粋が過ぎるぞ!」


 不意に、将軍が座敷の上で立ち上がった。

 彼はひどく憤慨した様子で、場を見渡して言う。


「天空の正体など、どうでも良いことではないか。はよう、術比べの続きをせよ!」

「しかしながら、天空様が人形ということになればやはり問題があるのでは……」

「ふん、別に構わぬではないか。人形が戦ってはならぬという道理もあるまい」


 なかなか無理やりな理屈で、天空を庇おうとする将軍。

 それを見た俺は、ふうっと深呼吸をして言う。


「上様……やはりあなたが、天空の本体なんですね」


 俺がそう言った瞬間、たちまち場の空気が凍り付くのだった――。


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