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底辺戦士、チート魔導師に転職する!  作者: キミマロ


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第百三十二話 直接対決

「……あの大鬼を倒すとはな」


 櫓から下りてきた天空が、どこか感心したような口調でそう告げた。

 その口ぶりからして、俺たちだけでは大鬼に勝てないと思っていたらしい。

 もしや、大鬼に俺たちを始末させようとでも考えていたのだろうか?

 どことなくこちらを侮っていたようなその物言いに、たちまちシェイルさんが反発する。


「あんたの思惑通りにはならないわよ。私たちは必ず勝つ」

「そうかそうか。だが、わしに勝っていったい何を得るつもりだ?」

「何って、それは……」


 シェイルさんが口ごもると、天空は急に俺たちとの距離を詰めてきた。

 その執拗な視線は俺たちの真意を探ろうとしているかのようである。


「それだけの腕前ならば、金も栄誉も十分得ているだろう? その上で、危険を冒して何を望む? わしを追い出して権力が欲しいのか? それとも、別の何かがあるのか?」

「えっと……」

「答える義理はない」


 ここで、テスラさんがきっぱりと告げた。

 するとたちまち、シェイルさんが何かから解放されたようにはあっと深く息をつく。

 

「……妙な術を使わないで」

「わしはただ尋ねただけだ」

「嘘、シェイルの様子がおかしかった」


 そういうと、天空の顔を睨みつけるテスラさん。

 言われてみれば、どことなくシェイルさんの様子はおかしかった。

 あんな質問、答えたくないと言えばいいだけの話なのだから。

 いよいよ本格的に、俺たちの腹のうちを探ろうとしているのか?

 俺たちと天空との間で緊張感が高まったところで、不意に櫓の上から声が響く。


「そなたたち、ずいぶんと仲が悪そうじゃのう」

「お互い、競い合っております故に」

「ならば、次はやはり直接戦うべきではないか?」


 将軍の言葉を聞いて、にわかにどよめく俺たち。

 これまで天空とは戦わない前提でやってきたのである。

 ツバキさんが抜けてしまった状態で、果たしてこの得体のしれない男に勝てるのか。

 仮に勝てたとしても、誰かが犠牲になるようなことがあっては絶対にならない。

 

「上様、既に準備した課題がございますので……」

「そのようなもの、ひっこめてしまえばよかろう」

「ですが……。それに、この状況では天空様と挑戦者三人の三対一となります。それではいくら天空様と言えども、一方的な戦いとなるのでは」


 役人の男の懸念を聞いて、将軍も少しばかり考え込むような仕草を見せた。

 だがここで、天空が自身に満ちた声で言う。


「それについては、何の問題もありませぬ。たとえ三対一であろうと、見事に勝ってみせましょう」

「おお、それは素晴らしい!」

「葵もそなたたちの戦いぶりを見とうございます」


 ここで畳みかけるように、将軍の隣に侍っていた葵の方が言った。

 これは、勝負をするのはほぼ避けられない流れだな。

 俺たちが辞めたいと言っても、将軍がその意志を曲げることはないだろう。

 こうなったら、ツバキさんなしでもやるしかない。


「ええ、では……。上様のご提案により、次は天空様と挑戦者との直接対決とさせていただきます! ですが、挑戦者側は大鬼との戦いで消耗しているでしょう。半刻ほど休憩とさせていただきたいのですが、いかがでしょうか?」

「もちろん構わぬ。ちょうど昼飯時であるしのう」

「そうですな。いったん、食事といたしますか」

 

 こうして、天空との勝負を控えた俺たちはいったん食事休憩を取るのだった――。


――〇●〇――


「うわぁ、すごいご馳走じゃない!」

「秋津の各地から取り寄せた山海珍味です。どうぞご堪能下さい」


 役人に案内されて赴いた城の大広間。

 そこにはお膳に載せられたご馳走が畳を埋め尽くすほどに並べられていた。

 秋津の料理の特色とでもいうのだろうか。

 朱塗りの器に盛られた料理は、さながら宝石のように彩り豊かで美しい。

 これは食べるのがもったいない……と思ったのも束の間。

 お腹が空いていたらしいテスラさんが、パクパクと勢いよく食べ始める。


「ん、これは大満足」

「テスラ、少し行儀が悪いわよ?」

「平気。ちゃんとお箸を使ってる」


 そういうテスラさんであったが、お箸を使って物を掴むのではなく突き刺してしまっていた。

 見かねたシェイルさんが、やれやれと肩をすくめて見本を見せる。


「こうよ。こうやって……あっ!」


 掴んだはずの刺身が、しょうゆの上に落ちた。

 しょうゆが跳ねてたちまちシェイルさんの顔にかかってしまう。

 まだら模様になった彼女の顔を見て、テスラさんはたまらずクスッと息を漏らす。


「不器用」

「あんたに言われたくないわよ! そんなことより、問題は天空との勝負ね」

「ええ。ツバキさんも居ませんし、勝てるかどうか……」

「それもあるけどさ。さっきね、上様の身体からわずかに嫌な魔力を探知したの」

「それってもしかして……」

「ええ、たぶん天空の魔力よ」


 やはり、上様は天空に操られているのか……。

 うすうすそうではないかと思っていたが、これで確定的だな。


「ということは、さっきの会話の流れも天空が?」

「恐らく仕組んだんでしょうね。ツバキもいなくなったことだし」

「三人なら勝てると思われてる。少し心外」

「とはいえ、ツバキさんがいないのはやっぱり痛いですからね」


 パーティの前衛を担っているツバキさんが欠けるのは非常に困った事態である。

 俺やテスラさんのゴーレムで頑張れないこともないが、いずれにしてもなかなか厳しい。

 ツバキさんの剣術はスピードがあって汎用性が高かったからなぁ……。

 あれがないとなると、魔法の発動に当たって時間を稼ぐ手段が大きく限られる。


「仕方ない、私が頑張るわ」

「シェイルさんが?」

「ちょっとした秘策があるのよ。私だって、伊達に修行してないところを見せるわ」


 そういうと、自信ありげな顔をするシェイルさん。

 どうやら、彼女は彼女で奥義に近いものを会得しているようだった――。


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