表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
底辺戦士、チート魔導師に転職する!  作者: キミマロ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

130/142

第百二十九話 魔力の在処

「す、凄まじい! 指で触れただけで岩が吹き飛んでしまった!!」


 爆音とともに、完全に粉々になってしまった大岩。

 その残骸を見ながら、役人の男が半ば引き攣った声を上げた。

 ……本当に軽く、指先でそっと触れたようにしか見えなかった。

 それでどうやって、あの岩を破壊したというのだろう?

 無詠唱どころか、魔法を発動した様子すらなかったぞ……!


「……内側からに見えた」

「ああ。シェイルが温度変化で破壊したのに似てたな」

「でも、あのやり方はあんな短時間じゃ無理よ」


 困ったように肩をすくめるシェイルさん。

 やがて彼女は天空の方を見ると、少し非難めいた顔で言う。


「ねえ。もしかしてあんた、岩に何か仕込んでたんじゃないの?」

「ほう?」

「この術比べって、あんたが仕切ってるんでしょう? だったら、事前にいろいろ仕込むことぐらい簡単なんじゃないの?」


 ……確かにその可能性は捨てきれない。

 しかし天空は、全く動じることなくシェイルさんの方へと向き直って言う。


「これは異なことを。この術比べは上様の許可を取って行われている。それを疑うということは上様の御威光を疑うことにほかならぬぞ」

「……くっ!」


 流石に将軍様の前で、その権威に逆らうような真似はできない。

 シェイルさんは不機嫌さを露わにしつつも、そのまま大人しく引き下がった。


「しかし、疑惑を残したままというのも良くなかろう。おい、あの岩の予備はあるか?」

「岩の予備でございますか?」

「そうだ、今一度行ってみせよう」

「一回り小さい物であれば、何とか」

「それでよい」


 こうして、天空の指示で再び岩が運ばれてきた。

 先ほどの岩よりはいくらか小さいが、それでもかなりの大きさだ。

 それが男たちの手によって据えられたところで、天空が顎をしゃくる。


「存分に調べるがいい」

「……言われなくても」


 さっそく、岩に近づくシェイルさん。

 俺たちも彼女に続いて、何か仕掛けはないかと目を凝らす。

 先ほどの爆発、特に火薬の臭いなどはしなかった。

 仕掛けはまず間違いなく魔術的なものになるだろう。

 怪しい術式や魔力の痕跡がないかどうか、念入りに精査していく。

 だが、特に不審な点は見受けられない。


「変ね、ほんとに何もない。テスラはどう?」

「こっちも特に成果なし」

「分かっただろう? 小細工などはしておらんと。分かったのならば離れよ」

「……わかりました」


 こうして俺たちが距離を取ると、天空は再び袖をまくって人差し指を立てた。

 うーん、あれであの岩を破壊できるとは何度見ても信じられないな。

 

「可能性があるとすれば、指から一気に魔力を流し込むぐらいね」

「それで、あの大岩が吹き飛ぶんですか?」

「ええ。あの岩、魔力にかなり弱いみたいだから。それでも、ラースが全力でやってどうにかってところだけど」


 自慢じゃないが、俺の魔力はとんでもなく多い。

 それが全力でとなると、非現実な量ではあるのだろう。

 しかし、可能性を考えるとそれぐらいしかなさそうだよなぁ。

 俺は念のため、天空の周囲に魔力探知を掛けてみた。

 すると――。


「んんん?」

「どうしたの?」

「いつの間にか、あの岩に凄い魔力が注がれてるんです」

「え?」


 慌てて岩の方を魔力探知するシェイルさん。

 彼女に続いて、ツバキさんやテスラさんも動く。

 だが次の瞬間、天空の指が岩に触れた。

 再び響き渡る轟音、振動。

 岩が粉々に粉砕され、俺たちはとっさに欠片から顔を守る。


「どうだ? これで疑念は消えただろう?」

「……そうね、失礼したわ」


 こうなってしまっては、調べようもない。

 シェイルさんは観念したように、天空にそう告げた。

 天空は満足げに頷くと、改めて俺たちの顔を見渡して言う。


「では、次の課題に移りたいと思うがよいかな?」

「ええ、もちろんです」


 俺たちが返事をすると、すぐさま役人たちが慌ただしく準備を始めた。

 しかし、先ほどのあの魔力は一体どこから来たのだろう?

 少なくとも、天空本人から発せられたものではなかったしなぁ。

 というより、天空の魔力は魔導師とは思えないほどに低かった。

 恐らく、抑えているのだとは思うが……。


「では、次の課題を始めます! こちらに移動してください!」


 ここで、役人の男が俺たちの方を見て声を張り上げた。

 俺はいったん思考を打ち切ると、男の傍まで歩み寄る。


「次の課題は魔物討伐です! これをご覧ください!」


 高々と手を振り上げる役人の男。

 それに呼応するように、どこからか異様な唸り声が聞こえてくる。

 獣のような……それでいてどこか人のような……。

 本能的な不快感と恐怖。

 それらを掻き立てられる声に顔をしかめていると、ツバキさんが険しい顔をして言う。


「まさか、鬼か!」

「その通り! 五百の精鋭にて捕らえられた、吉野の山の大鬼です!」


 役人の声に合わせて、鎧で身を固めた兵士たちが姿を現した。

 その数、およそ三十人と言ったところだろうか。

 ちょっとした軍勢のような彼らは、それぞれ鉄の鎖をしっかりと握りしめている。

 そしてその鎖は――。


「……オーガ? いや、違う……」


 血で染まったような赤い外皮。

 身体は筋骨隆々としていて、盛り上がった筋肉は巌のよう。

 その背丈は大人の二倍から三倍はあり、並のオーガより一回りは大きい。

 そして何よりその瞳は……禍々しい紫の光を放っていた。


「皆様には、これからこの鬼と戦っていただきます!」


 おいおい、こりゃ思った以上にヤバいことになってきたぞ……!!

 俺はたまらず、困ったような顔をしてしまうのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ