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第百二十八話 天空の術

「これは、一体何が起こったのでしょう!?」


 木っ端みじんに吹き飛んだ大岩。

 ほとんど原型すらとどめていないそれを見て、役人の男はたちまち目を丸くした。

 いったいどのような手段で吹き飛ばしたのか。

 俺もすぐさま、岩の残骸へと歩み寄る。

 すると、頬を微かに冷気が撫でた。


「冷たい……のか?」


 よくよく見れば、飛び散った岩の残骸の周囲に霜が降りていた。

 先ほどまで赤熱していたのが嘘のように、完全に冷え切っている。

 これは……もしかして……!

 俺が事態をおおよそ察したところで、シェイルさんが得意げに語り出す。


「温度変化よ。硬い鉱石であればあるほど、急激な温度の変化で簡単にはじけ飛ぶわ」

「……シェイルにしてはよく考えてる」

「シェイルにしては、は余計よ! 私が座学に関してはトップなんだからね!」


 腕組みをしてフンッと鼻を鳴らすシェイルさん。

 ……とにかく、彼女も無事に岩を砕くことが出来た。

 後に残されたのは、俺とツバキさんだけだ。


「次は私だな」


 やがて周囲のざわめきが収まったところで、ツバキさんが前に出た。

 彼女は刀を抜くと、眼を閉じて精神を集中させる。

 足元に魔法陣が展開され、そこから水があふれてきた。

 青い水の流れがたちまちツバキさんの腕に絡みつき、少しずつ変化が生じ始める。


「……魔法剣とは違う?」


 腕に絡みついた水は、刀に移動することなくそのまま腕にとどまり続けた。

 袖からのぞく白い肌に、鱗のようなものが生えているのが見て取れる。

 あれは……まさか、ドラゴンの鱗!?

 俺が驚いていると、テスラさんが解説してくれる。


「一時的に、身体の一部を強力なモンスターに変化させてる」

「それで威力を底上げしようってわけですか」


 俺の身体強化に呆れていたツバキさんだが、自分はもっととんでもない技を隠していたらしい。

 俺が感心していると、いよいよツバキさんの眼がカッと見開かれる。

 そして――。


「竜神斬!!」


 刹那、斬撃が空を割いた。

 ――ガランッ!!

 両断された大岩が、大きな音を立てて転がる。

 ツバキが足を踏込み、剣を振るって大岩を斬る。

 一連の動作が、瞬きするほどの間に行われた。

 そのあまりの速さに、役人の男は目でとらえることが出来なかったのだろう。

 何かに化かされたような顔をして、口を半開きにする。


「これは……私の目には、そちらの女性が叫んだ瞬間に岩がひとりでに斬れたように見えました」

「……三回斬っておるな」


 ここで、唖然とする役人に声を掛けたのは誰あろう天空であった。

 彼は真っ二つになった岩に近づくと、その表面を撫でながら楽しげな声で言う。


「同じ場所を三回。切り口を見ても、一刀両断したとしか思えぬほど正確に素早く斬っている。常人の目には映らぬほどの速さでこれを行うのは、なかなか大したものだ」

「……まさか貴殿に褒められるとはな」

「良いものを良いと言えるぐらいには、ワシも器が広いつもりだ」


 そういうと、再び自身の場所まで戻っていく天空。

 その様子を見たシェイルさんが、呆れたように肩をすくめていう。


「余裕ぶっちゃって。ラース、一発凄いのかましてあいつをビビらせなさい!」

「え、そんなこと言われても……」

「あんたの魔法なら余裕でしょ?」

「期待してる」

「頑張れよ」


 ここで、テスラさんとツバキさんもまた期待するような眼で俺を見た。

 こうなったら、本気でやるしかないなぁ。

 最悪、この場所を吹き飛ばしそうで嫌だったのだけれども。

 魔法の精度が向上したと実感できる今ならば、きっとうまくやれるだろう。

 この大岩を吹き飛ばす魔法となると、やはり……。


「炎だな」


 一言そう呟くと、俺は体内で魔力を練り始めた。

 たちまち溢れた魔力が全身から陽炎のように立ち上る。

 ゆっくりと手を前に突き出し、構える。

 魔力が一気に掌へと流れ込み、たちまち巨大な炎の塊となった。

 俺は意識を集中させると、それを今度は研ぎ澄ましていく。

 刺すように、穿つように。

 周囲に余計な破壊をもたらさず、打ち砕くのはあの大岩のみ。

 視界の中央に岩をとらえ、ただひたすらに狙いすます。

 そして――。


「黄金の剣よ!!」


 炎の剣が直線を描き、そのまま岩に突き刺さった。

 ――炸裂、轟音。

 一瞬にして岩は粉々となり、破片が周囲に飛び散る。

 その場には大きなくぼ地と焼け焦げたような跡だけが残された。


「これは……すごい! 今までで一番ではないでしょうか!」

「流石ラース!! やるじゃない!」

「完璧」

「我々のリーダーなだけはある」


 うんうんと満足げな顔をするテスラさんたち。

 良かった、これでこの課題については全員合格点ではなかろうか?

 俺たちはほっとしつつも、最後に挑戦することとなった天空の方を見やる。


「これは予想外の展開。天空様は大丈夫なのでしょうか?」

「面白いものを見せてやろう」


 俺たち全員が水準以上に課題をこなしたというのに、天空は余裕綽綽であった。

 そして彼は、すっと人差し指を上げて言う。


「指一本だ。これで片づける」

「……馬鹿な、限界まで身体強化をしても不可能だ!」


 天空の不遜ともいえる宣言に、すぐさまツバキさんが噛みついた。

 先ほど俺が十倍近くまで身体強化を使ったが……。

 それをやったところで、あの岩を指一本で砕くなど不可能だ。

 岩というよりも、鉄の塊と言った方が相応しいような代物なのだから。

 しかし天空は、悠々と岩に歩み寄って――。


「はっ」


 気の抜けるような掛け声とともに、差し出された人差し指。

 それが岩に触れた瞬間、爆音が轟くのだった――。


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