第百十九話 剣の継承者
すっかり久しぶりとなってしまいましたが、最新話です!
「この方が……ツバキさんのお父さん?」
目の前の人物を見ながら、俺は思わずツバキさんに尋ねた。
もっとこう、厳格そうな人物を想像していたのだが……。
見た目の印象は、想像していたそれとは大きく異なる。
人懐っこそうな顔立ちに、特徴的な太い眉。
加えて快活な笑みが、何とも暑苦しい。
行動の突飛さも相まって、どことなく変な人という印象を受ける。
「ああ、そうだ。父上だ」
「何か、さっき聞いた話とは印象がずいぶん違うわね」
意外そうに目を細めるシェイルさん。
それに同意するかのように、テスラさんもまたうなずいた。
旅の途中、家族との再会をどことなく怖がっていたようなツバキさん。
てっきり、お父さんが怖いのだと思っていたけど……。
そういうわけではないのかもしれないな。
「話は爺から聞いた。君たち、ツバキの仲間だそうだな?」
「ええ、そうよ」
「よろしく」
気を取り直して、にこやかに頭を下げるシェイルさんとテスラさん。
ツバキさんの父もまた、気持ちのいい笑みを返した。
なんだ、やっぱりいい人じゃないか。
「私の名は一刀斎。よろしく頼む」
「こちらこそ!」
「しかし、ツバキが仲間を連れ帰ってくるとはな。予想していなかったぞ、この人見知りがなぁ! ははは!!」
胸を反らし、豪快に笑う一刀斎さん。
彼はツバキさんの頭に手を伸ばすと、その黒髪をわしわしっと撫でた。
ツバキさんはうんざりしたような顔をすると、すぐさまそれを払いのける。
「父上、おやめください! 私はもう子どもではないのですから」
「何を言うか。そなたなどまだまだ未熟者よ。ほれ、よしよし!」
「ですから!」
なおも、ツバキさんに向かって手を伸ばす一刀斎さん。
ツバキさんは抵抗を試みるものの、なされるがままになっていた。
こんな感じのツバキさん、初めて見るかもな。
俺たち三人は、いつもとは違う彼女に思わず表情を緩めた。
「くっ! これだから嫌だったのだ……!」
「ははは、いいではないか! それより、どうして戻ってきたのだ? その様子では、まだ修行を完成させたわけではあるまい?」
不意に、真剣な顔をして尋ねる一刀斎さん。
この人……やっぱりただものじゃない!
にわかに張りつめた空気に、俺は思わず姿勢を正した。
ただならぬ圧迫感、刺すような視線の鋭さ。
一刀斎さんは、先ほどまでとは全く異なる厳しい雰囲気を纏っている。
「……事情がございまして。いったん、屋敷に入りませんか? ここでは少し話しづらいことです」
「ほほう、それはもしや……」
――ゾクリ。
背筋が震えるほどの冷たい視線が、こちらへと向けられた。
親の仇でも見るかのようなそれに、たまらず全身が強張る。
俺が、いったいなにしたっていうんだ?
たまらず戸惑っていると、ツバキさんがやれやれとため息をついて言う。
「父上、別にそういう話ではございません」
「なぬ!? 違うのか!?」
「ええ」
「なら早くそうと言わんか!」
「いえ、父上がいきなり勘違いしただけでしょう……」
「ならば良し! 許す!」
「は、はあ……ありがとうございます?」
何だかよくわからないが、俺は許してもらえたらしい。
再び笑顔になった一刀斎さんは、快く俺たちを屋敷へと招き入れてくれた。
「ここで靴を脱ぐのだぞ」
「はーい」
「あ、こら! 畳の上に靴を置くんじゃない!」
「そうなの?」
「さあどうぞ、こちらへ!」
あれこれと騒ぎつつも、ツバキさんと一刀斎さんの案内で客間へと通された。
緑の床――畳と言うらしい――が敷き詰められたそこは、草の匂いがする落ち着いた空間であった。
壁際に飾られた掛け軸と刀が、何とも渋くていい雰囲気だ。
大陸の屋敷には、ちょっとない感じの部屋だな。
「さて。では、詳しい話を聞かせてもらおう」
どっかと腰を下ろすと、ゆったりした構えをとる一刀斎さん。
俺たちはその前に並ぶと、背筋を伸ばして正座をした。
さあて、どこから話をしたものかな。
俺は頭をひねりながらも、ぽつぽつと語りだす。
「きっかけは、俺たちの住んでたアクレの街が悪魔に襲われたことかな。実はその事件の裏には、黒魔導師たちがいて――」
俺たちと黒魔導師との因縁を、最初から丁寧に語っていく。
すると一刀斎さんの顔が、見る見るうちに険しくなっていった。
俺たちを取り巻く事態の深刻さが、彼にもしっかりと伝わったらしい。
眉間に深いしわが刻まれ、眼光が鋭くなる。
「なるほど。それで、海帝獣様と会うためにこの秋津島へ来たというわけか」
「はい。父上、上様ならば海帝獣様のこともご存じなのでは?」
「おそらくは知っておられるだろうが……会わせるわけにはいかぬな」
「何故です?」
ツバキさんの語気が強くなる。
たちまち、彼女は一刀斎さんに厳しいまなざしを向けた。
一触即発。
危うい空気がその場に満ちる。
「実はな。あまり大きな声では言えぬのだが……」
声を潜め、手招きをする一刀斎さん。
どうやらよほど他人に聞かれたくはないことらしい。
事情を察したテスラさんが、すかさず部屋の周囲を確認して出入り口を閉ざす。
「これで大丈夫」
「こっちも気配ないわ」
「気が利くな、礼を言うぞ」
「それで、いったい何があったのです?」
姿勢を正し、改めて尋ねるツバキさん。
すると一刀斎さんは、軽く咳払いをして言う。
「うむ。ツバキがいなくなった後、上様に異変があってな。その……黒魔術に魅入られたようなのだ」
「な、なんですと!?」
予想を上回る、最悪の事態。
俺たちの顔から血の気が引いたのだった――。
お久しぶりです、kimimaroです!
このほどこの底辺戦士の第四巻が、無事に発売されました!
こちらは王都編をまとめて再構成したもので、書下ろしもたっぷりです。
WEB読者の皆様にも、お楽しみいただけるかと思います。
書店などで見かけましたら、ぜひぜひよろしくお願いします!




