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第十一話 依頼完了!

「ぐぬッ!」


 濡れた股を締めると、リルはおよそ女の子とは思えない唸りを発した。

 彼女はそのまま、俺のことを猛禽のような恐ろしい顔つきで睨む。


「……せっかく優しくしてやったのに! アンタ、私にこんな恥かかせてタダで済むと思ってるの?」

「いや、指摘しただけでそうなったのは自分のせいだろ」

「……アンタが悪いのよ! 底辺戦士の癖に、エラそうに!」

「今は魔導師だよ」

「かーッ! ああ言えばこう言うッ! もう良いわ、二度と入れてやらない! せっかく、将来有望なうちのパーティーに戻るチャンスだったってのに!」


 リルは思いっ切り足を踏み鳴らすと、心底悔しそうな表情をした。

 だがしかし、すぐにまたいつもの勝気な顔に戻る。

 そして、足元に転がっていた財宝を両手でどっさりと抱え込んだ。


「……ま、戻らないつもりなら財宝は全て頂くわ。先に見つけたんだから、所有権は私たちにある!」

「そうだぜ! この宝の山は、ぜーんぶ俺たちのもんだ!」

「ははは、これだけあれば一生遊んで暮らせるわねェ!」


 いきなり、とんでもないことを言い出したソルトウィングのメンバーたち。

 確かに、未発見の遺跡や財宝などは発見者に権利があるとギルドの規定で定まっている。

 けど、この局面でそれを言うか……!?

 俺やテスラさんが来なかったら、ここから出られたかどうかすらわからないのに。

 まして財宝の持ち出しなんて、ほとんどできなかったはずだ。


「お前ら、人に助けられておいてそれかよ!」

「はん、知ったこっちゃないわ! ねー?」

「ええ! ラースにはびた一文渡さない!」


 四人は好き好き勝手なことを言うと、俺から守るように財宝の山へと張り付いた。

 するとここで、テスラさんが言う。


「それはダメ。その宝はラースの総取り」

「はあ? 何言ってんのよ!」

「ドラゴンの宝は、その主であるドラゴンが討伐された場合、討伐者に権利がある」

「そんなルール、聞いたことないぜ!」

「無知なだけ」


 きっぱりと言い切るテスラさん。

 ドラゴン、数えきれないぐらい討伐してきたって言ってたからなぁ……。

 こういったトラブルにも遭遇したことがあるのだろう、とても堂々としていた。


「分かったわ。でもそれなら、あんたたちをやっちゃえば――ジキル!」

「はいよッ!」


 ここに来て、影が薄かった新メンバーの男が動いた。

 彼は姿勢を低くすると、素早くナイフを投げつけてくる。

 そうか、こいつアサシンだったのか!

 どおりで影が薄かったわけだ、あえて気配を消していたのだろう。


「ち、お前らそこまで腐ってたのかよ!」


 とっさに身体強化を掛けると、マントでナイフを払い飛ばした。

 その行動が予想外だったのか、ジキルと呼ばれた男は色を無くす。


「嘘だろ!? 不意打ちなら、Sクラスにも刺さる一撃のはずだ!」

「今さら、その程度の攻撃が効くかよ。ま、このマントが無かったら危なかったかもしれないけど……」


 地面に落ちたナイフを見ると、刃の部分が紫色に染まっていた。

 恐らく、強力な毒物でも塗られているのだろう。

 近くに居た蟻が、ひっくり返っていた。


「くッ……! このお宝は――」

「ここまで。拘束させてもらう」


 テスラさんはそう言うと、地面に手を置いた。

 たちまち、石で出来た茨が生えて来る。

 それらはソルトウィングのメンバーたちに向かって伸びると、たちまちその身を縛り上げた――。


 ――○●○――


「いやあ、ありがとうございました! これで、我がターチャ村も救われましたぞ!」


 報告を済ませると、モリスさんはすぐに満面の笑みを浮かべた。

 彼は俺とテスラさんの手を取ると「ありがとう! ありがとう!」と何度も繰り返す。

 その態度はかなり大げさだったが、それだけ村がドラゴンに困っていたということなのだろう。


「……して、そちらの冒険者さんたちはどうしてそんなことに?」


 やがて興奮が落ち着いたところで、モリスさんは拘束されたソルトウィングの姿に気づいた。

 彼から向けられた好奇の眼差しに、たちまちリルがしかめっ面をする。


「私たちを襲って来たから、やむなく」

「ドラゴンの財宝を、全部自分たちのものだと主張して……。こんなものを」


 俺は証拠の投げナイフを取り出すと、モリスさんに見せた。

 たちまち、喜びに満ちていた顔が怒りに染まる。


「なんと! それはいけませんなッ!! 騎士団に突き出して、厳罰に処さねば!」

「ああ、そのことなんですけど!」

「何ですかな?」

「死罪にだけはならないように、お願いできますか?」


 俺がそう言うと、モリスさんは意外そうに目を丸くした。

 彼は俺が渡した投げナイフを手に取ると、声を大にして言う。


「いいのですか!? こんなものを向けられたんですぞ!」

「……ええ。でも、元仲間なので。死なれたら流石に寝覚めが悪いかなと」

「分かりました。では、死罪にはならないようにだけ取り計らいましょう。ささ、こちらへ。騎士団が来るまでの間、その冒険者たちの身柄はうちの地下室で預かります」


 そう言うと、モリスさんは俺たちを案内すべく歩き出した。

 その後にテスラさんが続いていく。

 彼女の魔法で拘束されていたソルトウィングもまた、仕方なしに歩き出した。


「……まさか、あんたに情けを掛けられるなんてね」

「そんなんじゃないさ」

「いつか後悔させてやるわ!! 前みたいに、あんたに情けない顔させて――」

「さっさと歩く」


 まだまだ言い足りないのか、不満げな表情をしつつも連れられて行くリル。

 やれやれ、まさかこんな結末を迎えるとはな……。

 あいつらの自業自得とはいえ、ちょっと複雑な気分だ。


「……まあ、いつまでも気にしていたって仕方ないな。気分を切り替えないと」


 俺はグッと背中を反らすと、空を見上げた。

 複雑な気分とは裏腹に、天気は快晴。

 青々とした空は、宇宙まで見透かせそうなほど澄み切っている。

 それをぼんやり眺めていると、次第に時間の感覚が解けていく。

 

「お待たせ」

「……ああ、すいません。ぼんやりしてて」

「魔導師をしてれば、ああいうこともあるにはある」

「ははは……やっぱり、結構厳しい世界なんですね」

「ええ。でも、長く続けてればいいこともある」


 そう言うと、テスラさんは華が咲いたような笑みを浮かべた。

 その優しさの籠った表情に、自然とこちらも笑みがこぼれる。

 沈んでいた心が、見る見るうちに軽くなっていくのが分かった。

 

「あと少ししたら、仲間を募る。楽しみにしてて」

「はい!」

「でもその前に、お宝とドラゴンの死骸を回収する。今後の重要な資金源」

「あッ!」


 言われてみれば、宝のほとんどはあの巣に置きっぱなしだ。

 ドラゴンの死骸も、まだ手がついていない。

 ソルトウィングをここまで連行してくることで、手いっぱいだったのだ。


「でも、あんなにたくさん持ち運べますか?」

「大丈夫、私のゴーレムなら余裕」

「なるほど、分かりましたッ!」


 歩き出した俺とテスラさん。

 こうして俺の初依頼は、いろいろなことがありつつも無事に終わったのであった――。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「死罪にだけはならないように、お願いできますか?」 「……ええ。でも、元仲間なので。死なれたら流石に寝覚めが悪いかなと」 この歪んだストーリーはシナリオの都合ですか?
[一言] 情けかけると、復習に来るんだろ?知ってるよ! だって、テンプレだもの。
[気になる点] まぁ死罪になる程の罪なら、減刑されても無期懲役とか ナーロッパ的には、死ぬまで強制労働とかじゃないの? 被害者感情的には、簡単に死刑になるより死ぬまで償えって思う人も少なからず居るだろ…
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