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底辺戦士、チート魔導師に転職する!  作者: キミマロ


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第百十三話 船出前の夜

「本当に海の主を倒してしまうとは! 驚いたな!」


 港に戻ってすぐのこと。

 俺たちから報告を受けたメリージャさんは、目を見開き驚いた顔をした。

 海の主を倒したという事実を、よほど信じられないらしい。

 彼女は何度も、しつこいほどに「本当なのか?」と確認をした。


「間違いないわ。そんなに私たちのことを信用できないわけ?」


 さすがにうんざりしたのか、シェイルさんが呆れた顔をして言った。

 するとメリージャさんは、申し訳なさそうに苦笑する。


「いや、そういうわけではないのだ。だが、海の主はその名の通り海の魔物の頂点に立つ存在。そう簡単にやられるものだとは思えなくてな」

「無理もない。あれほどの化け物、魔導師として長くやっている我々でも初めて見た」

「まあ、そいつを襲ったと思しき奴とこれからことを構えるんですけどね……」


 海の主の腹にできていた、巨大な傷。

 あれが仮に海帝獣のつけたものだとしたら、海の主以上の強敵であることは間違いなかった。


「何はともあれ、事件は解決したんですわ。今日のところはゆっくり休みましょう」

「そうだな。さすがに少し疲れた」

「ふああ……そう言われると、眠くなってきたわね」


 口に手を当てて、大きなあくびをするシェイルさん。

 壁の時計を見れば、時刻は既に日付が変わるころとなっていた。

 道理で眠いはずだ、普段ならばとっくに床に就いている時間である。

 

「そろそろ寝ますか。メリージャさん、申し訳ないのですけど部屋をお借りできますか?」

「もちろんだ。言われなくても貸すつもりだった」

「ありがとうございます」

「礼には及ばぬ。当然のことをしたまでだ。そなたたちは、このバレスカの救世主なのだからな」


 そう言うと、高らかに笑うメリージャさん。

 救世主か……。

 そこまで言われると、さすがに照れくさくなってしまうな。

 俺は顔を赤くすると、後頭部を軽く掻いた。

 するとテスラさんたちが、口元を抑えて苦笑する。


「ちょっとは慣れたら? こういう扱いにも」

「いやあ、そういうわけにも」

「ラースは小市民。いつまでたっても」

「ははは……。まあ、まだ魔導師になって半年も経ってないですし。それより、今日のところは早く寝ましょう!」


 話をちょっとばかり強引に切り替える。

 すぐさま、メリージャさんの脇に控えていた女性が進み出てきた。

 彼女の案内で、俺たちは客室へと通される。

 すると――。


「なんです? この部屋は」

「当館で最も豪華な客室でございます」

「や、それはそうなんでしょうけど……」


 俺たちが案内されたのは、とても広くて豪奢な部屋だった。

 絨毯の敷き詰められた床に、色鮮やかな観葉植物。

 額に飾られた貴婦人の絵は、芸術に疎い俺でも価値があるものだとわかるほど。

 ここが最も豪華な客室だというのは、確かに嘘ではないだろう。

 けれど……。


「あの。明らかにここ、そういうための部屋ですよね?」


 部屋の中央に置かれた巨大ベッド。

 圧倒的な存在感を誇るそれを見ながら、俺は渋い顔をした。

 天蓋付きのそれは、明らかにそういう目的のために設計されたものであろう。

 桃色が多いデザインが、どことなーーくエッチだ。


「当館はそのための施設ですから」

「だとしても……それに、俺たち五人で一部屋なんですか?」

「ええ。その方が親睦が深まるだろうと、メリージャ様が」

「いや、何ですかそれ!」


 ニタッと笑う女性に、思わず吹き出してしまった。

 親睦が深まるって、いったい何を考えているんだか。

 まさか、俺たち五人に間違いを起こしてほしいとでも思っているのか?


「皆様の背中を推そうという、メリージャ様の気遣いにございます」

「いいですから、そういうの! みんな一緒の部屋なんて嫌です!」


 両手を振りながら、顔を赤くして強く否定する。

 するとどうしたことだろう、テスラさんたちはわずかながら渋い顔をした。

 特にシスティーナさんは、頬を膨らませて何やら拗ねているようだ。


「そこまで強く嫌って言われると、ちょっと思うところがありますわねえ」

「そうよ! ちょっとは喜びなさいよ!」

「待ってください、喜んだら喜んだでみんな怒りませんか?」

「その加減を見極めるのが、デリカシー」

「デリカシーって、そういうことなんですか!?」


 テスラさんの言葉に、たまらずツッコミを入れる。

 その言葉、そういう意味ではなかったはずなんだけどなあ……。

 けど、ここはテスラに合わせておいた方がいいだろう。

 視線がちょっと怖い。


「うーん、じゃあ……このままで」

「わかりました。では、ごゆっくりお楽しみください」

「だから、そういうことはしませんてば!」


 俺の反発を、軽く受け流す女性。

 彼女はそのまま、軽やかな足取りで去っていった。

 

「さてと、今日のところは休みますか」

「そうだな」

「もう眠いわ。おやすみ!」


 我慢しきれなくなったらしいシェイルさんが、勢い良くベッドにもぐりこんだ。

 すでに、半分寝ぼけていたのだろうか。

 あろうことか、彼女はど真ん中に陣取ってしまう。

 まいったな、こんなところで大の字になられちゃせっかくのベッドも狭くしか使えないぞ。

 俺はすぐさま彼女にどいてもらおうとするものの、よほど疲れているのかちっとも起きやしない。


「参ったなあ……」

「まあいいじゃないか、たまには」

「そうですわね。少し詰めれば、何とか全員入れますわ」


 そう言うと、ツバキさんたちもまたベッドの中へと潜った。

 彼女たちは布団を持ち上げると、おいでおいでと俺を誘う。

 何だか、ちょっと緊張するけど……!

 たまにはこう言うのもいいよな!

 こうして俺は、ちょっぴり眠れない夜を過ごすのだった――。


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