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底辺戦士、チート魔導師に転職する!  作者: キミマロ


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第百十話 悪党の末路

「何だありゃ……!」


 船室の丸い窓。

 そこに映った巨大な物体に、俺は思わず息を呑んだ。

 荒れ狂う波の間から、曇天に向かって聳える黒い影。

 それはこの船よりも一回りは大きく、さながら島のようだ。

 しかし、その表面はぬらりと光っていて、明らかに岩や土とは異なっていた。

 しいて言うなら――。


「魚?」

「そうね、なんか深海魚っぽい感じだわ」

「どうやら、あれが海の主のようだな……」


 異様な風体の海の主。

 俺たちは足を止めると、その巨体を呆然と見据える。

 するとここで、海鳴りを思わせるそら恐ろしい声が轟いた。


「誰だ、我が領域に踏み込むものは!」

 

 身体全体を揺さぶられるような大音響。

 あまりに強烈なそれに、たまらず耳をふさぐ。

 直後、海の主から発せられる魔力がにわかに強まった。

 こちらを認識し、完全に臨戦態勢に入ったようだ。


「ドンドンこっちに近づいてくる!」

「まずいな! 奴がくる前に、テスラさんと合流しないと!」


 もはや、気づかれるとか気づかれないとか言っている場合ではない。

 全身に魔力を行きわたらせると、容赦なく床を蹴り始める。

 迷路を思わせる複雑な船内を、甲板に向かってみるみる駆け上がっていった。

 そして数十秒後――


「テスラさん!」


 勢い良く扉を開け、甲板へと出る。

 するとそこには、船をも呑み込まんと大口を開ける巨大魚の姿があった。

 その前、船の舳先に一人の少女が立っている。

 テスラさんだ。

 いつもと違う白い衣をまとった彼女は、俺たちに気づくとすぐさま振り返る。


「助けに来ましたよ!」

「誰だ、お前たちは!!」


 俺たちの声に、テスラさんたちの取り巻きもまた振り返った。

 ファウードとその護衛達である。

 彼らはたちまち顔を険しくすると、腰の武器を抜き放つ。


「メリージャに雇われた魔導師どもか! やはりこんなことだろうと思ったわ!」

「わかってんなら、さっさとそこどきなさい! ぶっ飛ばすわよ!」

「そういうわけにはいかんな! 海の主様の機嫌を損ねるわけにはいかん!」


 そう言うと、ファウードはいきなり海の主に向かって頭を下げ始めた。

 そして恭しく手を揉みながら、言う。


「偉大なる海の主様! ご所望通り、魔導師たちをお連れしました! 少し人数は多いですがな!」

「なッ!?」

「貴様、初めから海の主とつるんでいたのか!」


 歯ぎしりをするツバキさん。

 その鋭いまなざしに、ファウードはひるむことなく悠々と語る。


「その通り、私は選ばれたのだ。協力者としてな!」

「なるほど。それで、私たちをいけにえとしておびき寄せたというわけか」

「いかにも。そのためにメリージャを利用させてもらった。上級の魔導師となると、なかなか金では動いてくれないのでね。そこで、人を籠絡することに関しては大陸一のあの女の出番というわけだ」


 ニタアッと嫌らしい笑みを浮かべるファウード。

 彼はそのまま、舐め回すような視線を俺に向けてきた。

 どうやら、俺がメリージャさんに籠絡されたと思い込んでいるらしい。

 下品にゆがめられた表情に、たちまちテスラさんたちの顔が渋くなる。


「ラースはそんなことのために手を貸したんじゃないわよ!」

「その通りだ。ゲスな貴様と一緒にするな!」

「ふん、何とでも言え。貴様らはどうせここで全員死ぬのだからな。さあ、海の主様! どうぞ!」


 海の主の前に進み出ると、再びお辞儀をするファウード。

 すると海の主は、その巨大な魚体を持ち上げて――。


「では頂くとしよう」


 海の主の息だろうか?

 生暖かい風が甲板を吹き抜けていった。

 魚を大量に腐らせたかのような、とてつもない腐臭。

 そのあまりの強烈さに、一瞬、意識が遠のいた。

 いったい何を食べたらこんなことになるんだ!?

 俺たちがとっさに鼻を抑えると、その隙に何やら赤い触手が伸びてきた。

 そして――。


「い、いったい何を!?」


 ファウードの身体が、瞬く間に縛り上げられた。

 そのまま宙に持ち上げられた彼は、驚きのあまり顔をこわばらせる。

 ヒューヒューと、もはや声にならない悲鳴が聞こえた。


「お前はもう用済みだ」


 海の主の声が響いた。

 それと同時に、ファウードの身体が黒々とした口に吸いこまれていく。

 絶叫。

 暴風雨を貫き、凄まじい断末魔が轟いた。

 ……まさか、食べてしまうなんて。

 ファウードは悪人だったとはいえ、さすがに気分が悪い。


「次はお前たちだ。感じる、感じるぞ! 素晴らしい魔力を!」

「誰がお前の餌になんてなるか! 皆さん、行きますよ!」

「ええ!!」


 それぞれに構えを取る俺たち。

 戦いの気配を察して、ファウードの護衛だった冒険者たちは次々と避難していった。

 さて、あのデカブツをどう料理したものか。

 俺が思案を巡らせると、先に向こうから仕掛けてくる。


「グアアアッ!!」


 海の主の口から、無数の触手が伸びてきた。

 ファウードを縛り上げたものと同じである。

 イソギンチャクにも似たそれを、俺たち五人は次々と回避していく。


「そりゃあッ! 爆炎符!」

「竜神斬!」

「ライトニングランス!」


 俺たちの中でも、遠距離攻撃が得意な三人。

 彼女たちが次々と海の主に向けて攻撃を放った。

 次々と炸裂する魔法。

 暗雲立ち込める夜空が、一瞬だが白く染まる。

 しかし――。


「かゆいわ!」

「うわッ!」


 海の主が身をひねると同時に、大波が巻き起こった。

 船が揺れ、俺たち五人はバランスを保つのに精いっぱいとなる。

 海の主を守るかのように、巨大な水の柱が立ち上がる。

 魔法の光はそれに呑まれ、消えた。

 こいつ、どうやら水を操る力があるらしい。


「まだまだ。アースランス!」


 負けじと、テスラさんが魔法を放つ。

 甲板の板が見る見るうちに変形し、巨大な石の槍と化した。

 膨大な質量を誇るそれは、水の壁など軽々と貫く――はずだったのだが。


「いっ!?」


 水の壁に槍の先端が当たった瞬間。

 槍が削れ、砕け、粉々になってしまった。

 破片が飛び散り、顔に当たる。

 これはいったい……!

 俺たちが驚いていると、海の主は得意げに語る。


「我が水の壁は超高圧かつ超高密度だ! そう簡単には破れん!」

「これは、なかなか厄介だな……!」

 

 黒々とした水の壁。

 それを見ながら、俺は唇をかみしめたのだった――。


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