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底辺戦士、チート魔導師に転職する!  作者: キミマロ


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百四話 街の争い

「これだから、場末の宿は!」


 宿の前の通りにて。

 衛兵に引き渡される男を見て、システィーナさんは嫌悪感をあらわにした。

 彼女が怒るのも無理はない。

 宿でこれから休もうというときに、こんな騒ぎに巻き込まれるとは思ってもみなかったからな。


「ご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした」


 被害に遭っていた少女が、深々と頭を下げた。

 幸いなことに、傷は浅かったためツバキさんの魔法ですでに治療は完了している。

 今ではもうすっかり健康体だ。


「あんたはいいのよ。悪いのはあの男なんだから!」

「ありがとうございます」

「それより、何であんな目に遭ってたんです?」


 俺は改めて、少女の方を見やった。

 まだ幼さの残る顔は、十代後半と言ったところだろうか。

 応対がしっかりしていることからすると、商家の奉公人か何かだろうか。


「ええっと、旅の方に話すと長くなるのですが……構いませんか?」

「もちろん。遠慮しないでいいですよ」


 少女はふっと息を吸い込んだ。

 そして薄く唇を開くと、ぽつりぽつりと語りだす。


「私はルーミアと申します。ここから通りを進んだ先の『フィオーレ』という店で下働きをしています」

「この先の店ってことは……」

「娼館ですね」

「ぶっ!?」


 ルーミアの言葉に、たまらず噴き出すシスティーナさん。

 やはり公爵令嬢にとっては刺激が強かったらしい。

 さらりと言ってのけたルーミアに、大きな衝撃を受けたようだ。

 一方、予想していたのか他の三人の反応は意外と薄い。


「なるほど。それで、その店とさっきの男と何か関係あるってわけね?」

「その通りです。うちの店とあの男のいるロート商会とは、街の実権を巡って争う仲なんです。正確には、うちのオーナーと向こうの会頭がというべきでしょうか」

「それはまた、厄介なことになってますわねぇ。領主のエリアス伯は何をされているのかしら?」

「えっと、伯爵様は、政務に疎い方のようでして……街はほとんど豪商の寄り合いで動いてます」

「はぁ……なんてことですの! あのエリアス家が、落ちたものですわね」


 額を抑え、盛大に嘆いて見せるシスティーナさん。

 一般市民ならば、間違いなく不敬に当たるような態度である。

 そのあまりに上からな物言いに、彼女の身分を知らないルーミアは青ざめた顔をする。


「滅多なことを言わない方がいいですよ! 誰が聞いてるか分からないんですから」

「それは大丈夫」

「へ?」

「あっ。何でもない」


 うっかり口を滑らせたテスラさんが、フルフルと頭を横に振る。

 それを見たルーミアは、不思議そうに小首を傾げた。

 するとすかさず、ツバキさんが話題を戻す。


「それで、その対立が原因でルーミアは暴行を受けたというわけか?」

「はい。恐らくあの男は、ロート商会に雇われたんでしょう。連中は手段を選ばないですから」

「対立してるって言っても、さすがにひどすぎるわね。やり方がまるっきりごろつきじゃないのよ!」


 拳を振り上げ、シェイルさんは怒りをあらわにした。

 俺もそれに同意して、うんうんと深くうなずく。

 いくら利害を巡って対立しているとはいえ、このやり方はあんまりだ。

 とてもまっとうな組織のやることとは思えない。


「昔はこうでもなかったんです。ただ、最近は海の主の扱いを巡って争いが激しくなってて……」

「海の主? 何ですかそれ」

「船を足止めしている魔物のことですよ。あまりに強大なので、みんな恐れて主って呼んでるんです」

「ほう……それはまた、たいそうな名づけだな」

「その主が、街に人質を要求してきたんです。とびきり若くて美しい娘を、我に差し出せと。その言葉に従うかどうかで、うちのオーナーと向こうの会頭で完全に意見が割れてしまって」

 

 なるほど……そこに絡んでくるわけか。

 交易で成り立っているこの街にとって、海を封鎖されるというのは死活問題である。

 どうりで嫌がらせのやり方も荒っぽいはずだ。

 この緊急事態においては、戦争も辞さないぐらいの構えなのだろう。

 かといって、今日のような行為が許されるわけでは全くないが。


「やれやれ。また魔物関連とはねぇ。つくづく縁があるというかなんというか……」

「運が悪い」

「仕方ないですわ。黒魔導師と魔物は切っても切り離せないんですもの」


 盛大にため息をこぼすシスティーナさん。

 そうしていると、通りの向こうからドレスを着た女性がやって来た。

 彼女はルーミアの方を見やると、大きく手を上げる。


「あ、フォム姉さま!」

「知り合い?」

「はい! お店の先輩です!」


 ルーミアがそう言うと同時に、フォムさんは頭を下げた。

 その仕草のなんとまあ色っぽいこと。

 身体つきも艶めかしく、見ているだけで頭がくらくらとしてくる。

 年のころは、二十代前半と言ったところだろうか。

 まさしく、大人のお姉さまと言った風格の持ち主だ。

 長いまつげやほのかな愁いを帯びた瞳もまたたまらない。


「ルーミア、あなたいったい何やってたの? 帰りが遅いから、心配してたのよ?」

「すいません! ロート商会の連中に、その……襲われまして」

「えっ?」

「ルーミアさんは、男に連れ込まれてひどい目にあわされたんです。何とか俺が見つけて、救出しましたけど」


 俺がそう言うと、ルーミアはうんうんとうなずいて同意してくれた。

 ついでに、ツバキさんが「ケガをしていたが、傷は私が治した」と付け足してくれる。

 それを聞いたフォムさんは、再び頭を下げた。

 最初の時より心が籠っているからだろう、その仕草はとても丁寧で角度も深い。


「うちのルーミアが、大変お世話になりました。何とお礼を言ったらいいのか……」

「いえいえ、当然のことをしたまでですよ」

「もしよろしければ、うちの店においでくださいませんか? きちんとお礼をさせていただきたいので」

「いいですね! ぜひぜひ!」


 ポンッと手を叩くと、満面の笑みを見せるルーミア。

 彼女はそのまま俺の手を握ると、ぐいぐいと引っ張り始めた。

 おいおい、うちの店って……娼館だろ?

 さすがにそれは、テスラさんたちもいるしマズいんじゃないのか?

 俺はそう思いつつも、好奇心には勝てなかった。

 男として……まあ、そのなんだ。

 そういうところへの興味は、尽きることはないのだ。


「やれやれ、仕方がないな」

「ラースも男の子」

「……ま、お礼をしてくれるって言うならいいんじゃないの?」

「わ、私は……構いませんわ! 悪所を知ることも、貴族の務め!」


 なんだかんだ言いつつ、ついてくる四人。

 意外とそう言うことに、興味があるらしい。

 顔を赤らめつつも、俺から付かず離れずの距離を維持する。

 こうして俺たちは、娼館フィオーレへと向かうのであった――。

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