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底辺戦士、チート魔導師に転職する!  作者: キミマロ


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第百一話 ユニコーンのお気に入り

「ユニコーンじゃない! 初めて見たわ!」


 驚きを隠せない様子のシェイルさん。

 彼女はまっすぐに伸びた一本角を見ながら、大きく目を見開いた。

 無理もない、ユニコーンと言えば伝説の霊獣だ。

 今では目撃例も少なく、幻とも言われている。

 Sランクの魔導師と言えども、そうそう簡単にみられるものではない。


「我が国で一番の駿馬だ。こいつなら、馬車を引いても港町バレスカまで五日もあれば駆けられるだろう」

「おおッ! そりゃ凄い!」


 ここから大陸東方に位置するバレスカまでは、馬車で二カ月はかかるといわれる道程である。

 それをわずか五日で駆け抜けてしまうとは。

 さすがは伝説の霊獣、半端ではない速力である。


「しかし、なぜシスティーナ殿がついてくる必要があるのだ? 御者ならば、他の者でも良いだろうに」

「特別な馬術、必須?」

「あー、それについてはだね。こいつは少し、性格に難があるんだ」


 そういうと、姫様は少しばかり困ったような顔をした。

 華奢な肩がやれやれとすくめられる。


「どういうことなんです?」

「この馬はね、乗り手を選ぶんだよ。しかもその条件というのが……」

「ヒヒーンッ!!」


 姫様の話を打ち切るかのように、ユニコーンがいなないた。

 馬はそのまま俺たちの方へと近づくと、システィーナさんへとすり寄る。

 そして――


「ヒヒンッ! ヒヒーンッ!」

「あ、こら! ドレスが脱げてしまいますわ!」


 豊かな胸に鼻先を押し付け、息を粗くするユニコーン。

 心なしかその顔は赤く、目はとろんとして幸せそうだ。

 これは……なんとまあ。

 気高き霊獣のイメージに似合わず、スケベなものである。

 あまりの醜態ぶりに、見る見るうちにテスラさんたちの視線が冷たくなっていく。


「エッチ」

「こいつ、ほんとにユニコーンなの?」

「偽物を掴まされたのではないか? 信じられんぞ」

「それが、困ったことに本物なんだよね。まあもともと、処女しか背に載せないといわれる霊獣なんだけどもさ。特にこいつは好き嫌いがひどくて、いろいろと条件を満たした女にしかなつかないんだ」

「何よそれ。たかだか馬のくせに生意気ね!」

「ヒヒーンッ!!」


 たかだか馬と言われたのが、気に障ったのだろうか。

 ユニコーンは大きく鼻を鳴らすと、そのままそっぽを向いてしまった。

 慌ててシスティーナさんがその身体に寄り添い、どうどうと背をなでる。


「あまり変なこと言わないでくださいまし! 機嫌を取るのが大変なんですのよ!」

「そうは言ってもねえ……」

「ちなみにだが、この馬がなつく条件というのは? 心が清らかさとか血筋か?」

「えーっとね。二十歳未満でボンキュボンな体型の美女。特に胸の大きさにはこだわりがあって、システィーナぐらい無いと満足しないんだ」

「おいおい……」


 呆れるほどに欲望全開である。

 シェイルさんたちの視線の冷たさは、いよいよ氷点下に達した。

 男として気持ちはわからないでもないが、いくらなんでもストレート過ぎである。

 しかしユニコーンは、氷点下の視線を受けても悪びれる様子すらない。

 ある意味、たいした大物ぶりだ。


「……まあとにかく、この子を満足に乗りこなせるのは私ぐらいですわ。そういうわけで、私が皆様を港町バレスカまでお送りいたします」

「あんまり納得したくない理由だけど、仕方ないのかしらね」

「何にしろ、早く移動したいのは確かだ。ありがたく送ってもらうとしよう」

「好意に感謝」

「じゃあ、よろしくお願いします。システィーナさん」


 揃って頭を下げる俺たち四人。

 するとシスティーナさんは、任せておけとばかりに胸を叩く。


「わかりましたわ。お任せくださいまし!」

「では馬車の準備をしよう。どれが向いてるかな……?」

「選べるのでしたら、軍用の一号馬車がいいですわ。あれが一番、耐久性に優れておりますし」

「わかった、すぐに用意させよう」


 パンパンと手を叩く姫様。

 すぐさま、いつものメイドさんが御用聞きに出てきた。

 彼女はさらさらとメモを取ると、すぐさま城の中へと取って返す。

 そして数分後。

 門の扉を開けて、大きな黒塗りの馬車が姿を現した。


「お待たせしました。一号馬車でございます」

「へえ……なかなか乗り心地よさそうですね」


 軍用というだけあって、鉄板の打ち付けられた外装は何とも物々しかった。

 しかし、中の造りは意外なほど快適そうである。

 シートにはしっかりと革が張られ、クッションもばっちり効いている。

 荷物を詰め込むためのスペースも充実していて、長旅にもしっかり耐えられそうだ。


「本来は将軍クラスが使うものだからね。その辺にもこだわってるんだよ」

「なるほど……。そんなものを貸してくださるなんて、ありがとうございます」

「いいってことだよ。君たちが負けると、僕たちも困るからね。活躍に期待しているよ」

「はい!」

「では皆さん、馬車に乗ってくださいまし。出発の準備をしますわ!」


 システィーナさんに促され、馬車へと乗り込む。

 こうして俺たち全員がシートに腰を下ろすと、ユニコーンが車と繋がれた。

 スケベとはいえ、さすがは伝説の霊獣というべきか。

 細い体躯にもかかわらず、ユニコーンは悠々と俺たちの乗った馬車を引き始める。


「おお、早い!」

「スケベな割にはやるじゃない」

「快速」

「ユニコーンの力は、まだまだこんなものではありませんわよ! はあぁッ!!」

「ヒヒヒーーンッ!!」


 力強く吠えるユニコーン。

 蹄の音が早まり、身体に加速度がかかった。

 窓の外の景色がさながら矢のように飛んでいく。

 これが、霊獣の速さか……!

 姫様が国一番の駿馬と言っただけのことはあるな、とんでもない。

 というか――


「システィーナさん、早すぎ! ぶつかっちゃう!!」

「危ない、危ないッ!!」


 王都の通りを爆走する馬車に、思わず悲鳴を上げる俺たち。

 こうして東への旅は、波乱とともに始まったのだった――。


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― 新着の感想 ―
[一言] 某TRPG(富士見書房)での発言並に重度のセクハラ生物なんですね、ユニコーンって。 GS美神極楽大作戦では、害獣呼ばわりでしたし。
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