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底辺戦士、チート魔導師に転職する!  作者: キミマロ


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第九話 かつての仲間

「なかなか降りない」

「巣の場所を知らせないつもりでしょうか?」


 雄ドラゴンを追いかけて、走り続けることしばらく。

 はるか上空を飛ぶ巨体は、なかなか地面に降りようとはしなかった。

 しかし、巣が遠いわけではないらしい。

 先ほどから、一定の範囲で旋回している。

 どうやらこの近くに巣はあるようだが、俺たちの存在をまだ警戒しているようだ。


「ドラゴンの体力は無尽蔵。その気になれば、いつまでも飛べる」

「厄介ですね……」

「とりあえず、この近くを捜す」

「はい」


 テスラさんの言葉にうなずくと、上空に注意を払いながら森の探索を始めた。

 やがて古木が倒れて出来た小さな広場に、焚火の後を発見する。

 さらにその近くの地面には、乾いた落ち葉を集めて寝床を作ったような跡があった。


「まだ新しい」

「せいぜい、昨日か一昨日って感じですね。ソルトウィングのキャンプ跡かな」

「足跡とか、分かる?」

「何とか」


 落ち葉の降り積もった柔らかな地面は、足跡がとても残りやすかった。

 ほどなくして、獣のものとは明らかに違う靴特有の平たい足跡を見つける。

 弱かったとはいえ、三年以上も冒険者をしてきたのでこういうスキルは人並み程度にはある。


「それを追いかける。たぶん、巣に続いているはず」

「そうですね。もし巣に達してなかったとしても、あいつらとは合流できる」


 いずれにしても、悪いようにはならない。

 ドラゴンはまだ旋回を続けているし、これを追いかけるのはありだろう。

 俺とテスラさんは互いにうなずくと、足跡を見落とさないように注意しながら歩を進めていく。

 こうして歩くこと、二十分ほど。

 足跡はグニャグニャと曲がりくねりながらも、大きな岩山の前へとたどり着いた。

 その側面にはぽっかりと大きな穴が開いていて、その奥には黒々とした闇が広がっている。


「……ドラゴンの巣。微かに、奴らの匂いがする」

「分かるんですか?」

「ええ。数えきれないぐらい、倒して来たから」


 テスラさんはそう力強く言うと、人差し指を掲げた。

 その先端に、たちまちほのかな光が灯る。

 どうやら、灯りの魔法を使ってくれたらしい。


「俺も――」

「加減を覚えるまで、真似しちゃダメ」

「ああ、はい!」


 言葉を発する前に、注意をされてしまった。

 まあ、こんな場所で俺が魔法を使ったらヤバいよな……。

 俺は人差し指を引っ込めると、そのまま素直にテスラさんの後を追う。

 洞窟は相当に深いようで、たちまち世界が闇に沈んでいった。


「へえ……これがドラゴンの巣か……。なんだか、アリの巣みたいですね」

「財宝とかはもっと奥。簡単には盗られないようになってる」

「なるほど」


 軽くうなずきながら、さらに奥へと進む。

 すると、目の前に大きな扉が現れた。

 取っ手の高さからして、明らかに人間の使用を前提としていない。

 ドラゴンが造り、ドラゴンが使っていた物だろう。


「すっごい扉だなぁ……」

「恐らく、この奥が宝物庫」

「と言うことは、ソルトウィングもこの中に居る可能性が高いと」

「ええ。あそこ、微かにひっかいた跡がある」


 赤錆に覆われた扉に、白い傷が走っていた。

 恐らく、扉を開くために工具か何かを使ったのだろう。

 ドラゴンはそんなことしないから、明らかに人間の仕業だ。


「扉を開ける。離れて」

「はい」


 テスラさんが地面に手を置くと、途端に地面から巨大な腕が生えて来た。

 岩でできたそれは、すぐさま扉を押し開ける。

 まったく、魔法と言うのは便利なものだ。

 俺もああいうの、そのうち覚えられるんかな。


「おおお……! 宝の山だ!」

「さすが、結構貯めこんでる」

「これだけあったら、一生遊んで暮らせそうだな……!」


 扉の向こうには、まさに金銀財宝の山が眠っていた。

 どうやらドラゴンは宝に埋もれて寝ていたらしく、それらは大きな鉢のような形を形成している。

 金貨や宝石で出来た寝床とは、なんとまあ贅沢なことか。

 感心すると同時に、少し呆れてしまう。


「む、誰?」


 宝の山の向こうを、何か黒い影が走り抜けた。

 テスラさんがすぐに反応し、指先から小さな火球を放つ。

 それによって金貨の一部が吹き飛ばされ、その向こうに隠れていた何かが露わとなった。



「……リルじゃないか!」


 宝の山に隠れていたのは、かつての仲間のリルだった。

 他にレインとイルマ、そして新入りの男。

 ソルトウィングのメンバーが、全員見事に揃っていた。


「ラース? 何でアンタ、こんなところに居るの?」

「依頼を受けたからだよ」


 よく分からないと言った顔をするリルたち。

 すかさず、テスラさんが言う。


「ドラゴン討伐。そのついでに、あなたたちの捜索依頼も受けた」

「ぶッ!」


 口元に手を当て、思いっ切り噴き出したリル達。

 彼女たちはこちらを指さしながら、盛大に笑う。


「ははは、ドラゴン討伐って! 冗談もたいがいにしなさいよッ!」

「私、嘘は嫌い」

「アンタみたいなガキとラースで、どうやってドラゴンを倒すっていうのよ! 私たちもここに入る時にチラッと姿を見たけど、あんなのSランクでもない限りは無理だわ!」

「だから、私がそのSランク」

「アンタみたいなのが?」


 思いっきり見下した視線を向けるリル。

 テスラさんの年恰好だけを見て、弱いと判断したらしい。

 本当は、リルの考えているSランク――冒険者ギルド基準――よりも遥かに強いんだけどな。

 しかしテスラさんは疑われるのに慣れているのか、実にクールな対応をする。


「どう思おうが、別に構わない。ここを出るから、早くついて来て」

「ダメよ、いきなり出たらドラゴンが居るかもしれないわ」


 そう言うと、リル達はおびえた様子を見せた。

 どうやら、ドラゴンと鉢合わせしかけたようだ。

 

「問題ない。目の前に現れても、私かラースが倒すから」

「そんなの信用できないわよ! そうだ、ラースが先に行って安全確認してくれない? それで大丈夫だったら、私たちも行くわ! お願い!」


 そう言うと、リルはいつになくいい笑顔で俺の顔を見て来た。

 完全に、俺を囮にする気満々だ。

 笑顔の裏に、何かどす黒いものを感じる。


「仕方ない、別に良いけど――」

「そんなことする必要ない」


 俺が返事をしようとすると、テスラさんが実に冷めた声で遮った。

 彼女はそのまま、リルたちに向けて刺すような眼差しを向ける。

 その鋭さは、傍から見ていた俺ですら恐ろしいと感じるほどだった。


「あなたたち、少し前まで仲間だったって聞いた。それは本当?」

「え、ええ。そうよ」

「それなのに、あっさりと捨て駒にしたの?」


 テスラさんの指摘に、リルたちはバツが悪そうな顔をした。

 だがすぐに――開き直ったように言う。


「だって! そいつ、使えないんだもの! そんな弱っちいやつ、捨て駒にして何が悪いのよ!」

「……弱いから、捨て駒にしたのね。でも、あなたたちの方がラースよりずっとずっと弱い」

「はあ? 自称Sランクだか何だか知らないけど、そいつはゴブリンにも負ける雑魚戦士よ! 私たちより強いなんて、ありえない!」

「そうだ、あんまり俺たちを舐めないでほしいぜ。お嬢ちゃん?」

「わたしたち、これでもCランクなんだから!」


 そのまま俺とテスラさんのことを馬鹿にして、笑い始める四人。

 ……クソ!

 ここ数日の間に、忘れかけていた三年間の思い出がよみがえってくる。

 いつもいつもこうだった。

 みんなに馬鹿にされて、笑われて。

 そのたびに心の中で悪態をついて、拳を握りしめて……!


「ラース?」

「あ、ああ! すいません!」

「過去にとらわれていてはダメ。今のあなたは冒険者ギルドの戦士じゃない、魔法ギルドの魔導師」

「……そうでしたね」


 そうだ、今の俺は昔の俺とは違うんだ。

 いつまでも、こいつらなんかに縛り付けられてちゃいけない。

 そう再認識したところで、だった。

 洞窟の地面が揺れ、小石が落ちてくる。


「グラアァァ!!」


 おぞましい咆哮と共に、扉が押し開かれる。

 新緑色の巨体が、悠然と姿を現した。

 ドラゴンだ、ドラゴンが巣へと帰って来た!

 奴は自らの寝床にネズミが入り込んでいるのを確認すると、咢を掲げて再び雄叫びを上げる。

 物理的な衝撃すら伴うそれに、たちまちリルたちは悲鳴を上げた。


「最悪だわッ! いきなり戻ってくるなんて!」

「どうしてこんな時に!」

「おしまいだ、俺たち食い殺されるんだッ!!」


 絶望の声を上げながら、とにかく騒ぎまくるソルトウィングの面々。

 完全にパニック状態で、中には腰を抜かしているメンバーも居た。

 するとここで、一人冷静だったテスラさんが言う。


「ちょうどいい機会。あの雄ドラゴン、ラース一人で倒す」

「お、俺一人でですか!?」

「大丈夫、身体強化とファイアーボール、ライトニングで行ける。むしろ、威力を極力絞って」

「で、でも……」


 先ほど見た雌ドラゴンよりは、一回り小さい相手だ。

 しかし、あの時はテスラさんが動きを完璧に封じてくれた。

 彼女の手助け無しで、ドラゴンなんて。

 確かに今は魔導師だけど、俺はついこの間まで最弱の戦士――


「変わったところを、あいつらに見せつけて。これは命令」


 テスラさんは力強くそう言うと、にこやかに笑って見せた。

 ……こんなの、まったくずるいじゃないか!

 これを言われて、断るわけには行かない。

 俺は改めてマントの襟を正すと、ドラゴンの顔を見据えて言う。


「Fランク『魔導師』ラース! ドラゴン、倒しますッ!!」


 

第十部にして、キリの良いところまで来ました!

ここまでで面白いと思った方は、評価してくださると嬉しいです!

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