第9話 勇者たちの情報
店を開けてくつろいでいると、ドアを開けて女性が入ってくる。
「いらっしゃいませ」
入ってきた女性はこちらを見て固まっている。
「あの?何かご相談がおありで?」
「……宮本君?」
「…七瀬先生、お久しぶりです」
よく見れば、学校の先生だった。
「ここ、宮本君のお店だったのね」
「ええ、依頼者の相談に乗っていますよ」
先生は、カウンターの椅子に座ると
「…2年ぶりぐらいね、元気でしたか?」
「はい、元気ですよ。それで、何かご相談が?」
俺が先生に紅茶を出して相談事を聞くと、
「…実は、あるものを作れる人を探しているの」
「あるもの?」
「学校の近所に『デニーロ』っていう喫茶店があったの知ってる?」
俺は紅茶を飲みながら、
「ええ、あそこの『プリン』と『ミルフィーユ』は有名でしたから」
「そう、その二つのうちどちらかを作れる人を探しているの」
「…それって召喚された異世界人限定じゃないですか」
「宮本君で最後なのよ…」
「それって、俺を探してほしいって依頼をしようとしたのか…」
「冒険者ギルドの受付で相談したら、ここに行けばいいって教えてもらったから」
「あ~、その人『シア』って人ですか?」
「そう、その人!宮本君の知り合い?」
俺はシアさんを思い出して
「…正確にはシアさんの友達が、依頼人だったことが」
先生は紅茶を一口飲むと、
「それで、依頼をお願いしたいんだけど」
「先生の依頼は、『喫茶デニーロのプリンかミルフィーユを作ってほしい』ですか?」
「ええ、作れるの?」
「この依頼は無理ですね、手に入れることはできますけど…」
「それなら、お願いっ!!」
先生はいきなり立ち上がると、俺の手を取り
「どうしても必要なの!お願いっ、宮本君!!」
「わ、わかりました。でも訳を教えてもらってもいいですか?」
椅子に座りなおした先生は、
「クラスメイトの藤倉さん、覚えている?」
「確か生徒会長の?」
「そう、その子がねホームシックになったの」
「なるほど、それで『想い出の味』ですか…」
「彼女、勇者の一人だから困っているの」
「8人の勇者の1人か…。でも8人全員いないといけないんですか?」
「ええ、8人いないと魔王を封印できないの。
魔王を倒してしまうと、この世界で魔法が使えなくなるそうよ。
だから討伐ではなくて封印。
封印には8人の勇者の力がいるんだけど、
魔王城を前に藤倉さんがホームシックでリタイア。
7人では封印できず魔王は逃亡、
しかたなく勇者たちは藤倉さんを癒す方法を探しつつ魔王の行方を追っているところね」
魔王城が陥落したのに、魔王が倒されなかったのはそうゆうことか。
「それで、藤倉さんの癒しが『プリン』と『ミルフィーユ』ですか」
「宮本君、いつ頃手に入れることができる?」
「ん?今すぐ手に入りますよ」
「へ?」
先生が固まっている間に、俺は店からリビングに入ると
「え~っと、召喚【高校の近くの喫茶店デニーロのプリンとミルフィーユお持ち帰り用】」
するとテーブルの上に召喚陣が出て、お持ち帰り用の箱が1つ現れる。
俺は箱を開け中身を確認すると、その箱を持って店に戻る。
まだ固まっている先生の前に箱を置くと
「先生、これが『プリン』と『ミルフィーユ』の入った箱ですよ」
恐る恐る箱の中身を確認する先生。
「3個づつ入っている…」
「ええ、足りなくなったらまたご依頼ください」
俺は笑顔で先生に言うと右手を出して、
「依頼料、1件で銀貨5枚です」
そのセリフに、
「しっかり先生からもお金を取るのね、でもありがとう!」
と笑顔で支払って帰っていった。