第72話 一面の銀世界の中で
21階層の一面の銀世界は、他の探索者をはじめ魔物さえもいなかった。
唯々、雪が広がっているフィールド。
とにかく、入り口から正面にまっすぐ進んでいく。
しかし、何も見えず何も出てこない。
敵が出てこないことを確認してからは、御者席に座る浩二以外は
馬車の中で過ごしている。
浩二が上を見ると、ダンジョンと思えない青空が広がっている。
「ん~、暇だな…」
そんな愚痴が聞こえたのか、馬車の中から洋二が御者席に座ってきた。
「浩二、お疲れさん」
「ああ、この一面銀世界が恨めしく思うよ」
「何にも出てこないからな、安全かは分からないが…」
浩二は、双眼鏡を召喚すると前方を覗いてみる。
「なあ浩二、この馬車は空間魔法でもかけてあるのか?」
「ん、どうしてそんなことを聞くんだ?」
洋二は、後ろの荷台部分を見ながら
「荷台の中に扉をつけて、中に入れるようにしているだろう?」
「ああ、全員乗るには狭いからな」
「その扉の中は、どうなっているのかなと…」
「あの扉の先は、亜空間に固定した大部屋へつながっているんだよ」
「…お前が作ったのか?」
双眼鏡をのぞくのをやめて、洋二に向き直ると
「『魔道具職人』を召喚して、作ってもらったんだよ」
「なんか、お前の『召喚術』ずるいよな…」
浩二は再び双眼鏡をのぞくと、
「その辺は、俺も自覚している」
「でも、自分で作ることはできないんだよな…」
「何でも人任せにできるけど、達成感がないんだよな…」
「ん~、俺としてはあんまり羨ましくないスキルだよな」
「何でもできるけど、何にもできないんだよな…」
「がんばれ、浩二」
「ああ、ありがとう………ん?」
浩二は、双眼鏡を洋二に渡し
「前を見てみろ、何か見えるみたいだ」
洋二は双眼鏡を受け取り、前方を双眼鏡で見てみる。
「なにが……あれ、建物か?」
「そう見えるか?」
「ああ、もう少し近づかないと確かなことは言えないけど」
「もっと近づいてみるぞ」
浩二は、馬車の速度を上げて前方の建物らしきものへ近づいていく。
前方に見えた建物のすぐそばまで近づくと、意外なものがそこにあった。
「浩二、これって鳥居か?」
「洋二もそう見えるってことは、幻じゃないみたいだな」
「しかも、鳥居の中は洞窟になっているのにその他は雪が積もっているな」
「ということは、この鳥居の中が下への通路ってことか…」
「鳥居に入るのか?」
「たぶん、入らないと22階層へは行けないと思うぞ」
「ならば、入るか…」
洋二は、2回柏手を打つと一礼した。
「さっ、行こうぜ~」
「ならば俺も」
浩二も洋二と同じように、2回柏手を打つと一礼する。
「俺たち、「日本人だな」」
浩二と、洋二は2人で笑いながら鳥居の中へ馬車を進めていく。
鳥居の中は、長い下り坂の洞窟となっていた。
浩二たちは、21階層は何もない場所と思っているようだが
実はそうではない。
浩二が用意した馬車は、『浮遊』の魔法で宙に浮き上がり、
ゴーレム馬も、積雪使用で『浮遊』をさせて雪の上10センチの所を
浮かんで進んでいるため、雪の中に潜んでいた魔物も浩二たちに気づかなかったのだ。
通常なら、雪の中を進んでいる探索者を雪の中から飛び出して襲う魔物がいたが
浩二たちはチート馬車のおかげで、魔物にも襲われることなく21階層をクリアしたのだ。
22階層の入り口もまた、鳥居が建っていた。
「ここにも鳥居か…」
「そして、一面の銀世界…」
「21階層と一緒だな…」
浩二は再び、双眼鏡で回りを見ると
「いや、一緒じゃないぞ。少し行ったところに森みたいなものがあるみたいだ」
浩二は洋二に双眼鏡を渡し、見るように促すと
「…確かに、あれは森だな」
「雪が木の上に積もっているけど、森だろ?」
「枯れ木みたいだけどな」
「冬の木は、あんなものだろう?」
「だな」
浩二は森に向けて、馬車を進ませる。
「森に行ってみるのか?」
「あそこに行けば、何かいるだろう?」
「そうだな、魔物が出るか獣が出るか…」
浩二たちは、森らしき場所に着いたがそこもまた雪が一面に積もっていて
その中から、木が生えているような場所だった。
周りを見渡すものの、枯れ木のような木が雪の中から森のように生えていた。
「…ここも、何もいないな」
洋二は、進めている馬車のそばの木を御者席から蹴ると金属のような甲高い音がする。
「…音が高いな」
すると、馬車の周りの雪が持ち上がり5匹の白い狼が出てきた。
「何っ!雪の下から?」
浩二はすぐに荷台に上がり、扉を叩いて敵襲を知らせる。
「敵襲!」
洋二は、自分のアイテムボックスから剣と盾を出すと
「俺がひきつけるから、援軍を頼むぞ!」
「洋二、気をつけろよ!」
「おう、まかせな!」
そして、すぐに準備ができた悠太とエミリー、アリアが扉から飛び出してくる。
「洋二が、敵を引き付けている。
敵は雪の中にまだ隠れているかもしれないから気を付けて!」
「「「了解!」」」




