第21話 ふるさとの味
…きょうも遅れました。
隣国が滅んだとはいえ、人々からすれば上が変わっただけだろう。
それはともかく、お昼の鐘が鳴ったので昼食としよう。
今日の昼食は、俺が住んでいた県で有名な老舗『坂東』の親子丼。
この親子丼は、卵が他の店よりうまいんだよな。
付け合わせに、みそ汁とアジの南蛮漬けが出る。
……どんぶり料理に説明はいらない。
「いただきます!」
俺が親子丼を堪能していると、店のドアが開き女性が二人入ってきた。
が、俺の食べているものを見て固まっている。
「…いらっしゃい、七瀬先生」
「「……」」
二人が反応ないのでバクバクと親子丼を食べていく俺。
そして、すぐに食べ終わり手を合わせて
「ごちそうさまでした」
空の丼などをリビングに持っていこうとすると、
『グゥ~』とお腹の鳴る音が女性二人から聞こえた。
顔を真っ赤にした二人に睨まれながら、俺は接客する。
「…いらっしゃいませ、お美しいお二人様」
「…宮本君、お世辞はいいから今の何?」
「老舗『坂東』の親子丼です」
「…依頼するわ、すぐに私たちに『坂東』の親子丼を出しなさい」
「まいど~」
俺は二人を席に座らせると、トレイに乗せた空の丼などを持ってリビングに引っ込み
親子丼を2人前召喚して、店の二人の前に置く。
「「いただきます」」
二人は勢いよく食べ始め、一言もしゃべらない。
とにかく、一心不乱に食べている。
俺は再びリビングに引っ込むと、今度はお茶を召喚して持ってくる。
食べ終えた二人の前にお茶を置くと、『ずず~』と飲む。
「「ごちそうさま」」
二人の食べ終えた食器を持ってリビングに引っ込み送還。
再び店に出てくると、先生に請求をする。
「えっと、二人合わせて銀貨10枚です」
「わかったわ…」
先生が袋からお金を出して、俺に渡していると横から
「おいしかったけど、あなたが作ったの?」
「えっと?」
「…藤倉です、お久しぶりですね」
「お久しぶりです、さっきの質問ですけど俺が作ったものです」
「宮本君、料理もうまいのね」
「まあ、一人で暮らしてますから」
俺が銀貨10枚を確認してカウンターの袋にしまうと、
「それで、本日の本当のご用件は?」
「…本当は、宮本君の提供してくれたレシピのおかげで元気になった藤倉さんがお礼をね」
「私に『プリン』と『ミルフィーユ』を用意してくれてありがとう」
「あれは依頼でしたからね、お気になさらずに」
「ところで宮本君」
「何でしょうか?先生」
「…先生じゃなくて、七瀬さんと呼んでくれる?」
「はあ、わかりました七瀬さん」
「で、宮本君は他にも料理はできるの?」
「依頼であれば、どんな料理でも用意できますよ」
七瀬さんと藤倉さんは顔を見合わせ、二人頷くと
「ならば依頼するわ」
「屋敷にいる勇者、従者合わせて10人を満足させる異世界料理を用意して」
「藤倉さんたちも入れて?」
「「もちろん!」」
俺は少し考えて、
「いくつか条件があるけど、それでよければ引き受けますよ」
「…その条件は?」
「まずその1、10人全員が食べたいものを事前にメモに書いて俺に渡すこと。
その2、食堂はそれぞれ座る席を決めておくこと。
その3、料理が用意できるまで食堂に近づかないこと。
その4、レシピを求めないこと。
その5、また食べたいときは依頼として相談すること。
以上の条件です」
「…つまり料理は宮本君が一人で?」
「俺一人じゃないから、時間がかかるってことはないよ」
「では、その条件でお願いするわ」
「え~と、日時はどうしますか?」
「日時は3日後、お昼の鐘が鳴る前に迎えに来るわ」
「作ってほしい料理は、明日皆に聞いて持ってくるからよろしくね」
「了解です、料金は銀貨50枚になります」
「…今、手持ちがないわ」
「依頼達成の後で構いませんよ」
「ではよろしくね、私たちも楽しみにしてるから」
二人は席を立ち、店を出て行った。
…みんな、ふるさとの味に飢えているのかな。




