第18話 勇者たちの常駐
「対岸の火事か…」
俺は今日も隣の『ベルガルナ王国』のことを『神の新聞』の記事で知る。
相変わらず物騒なことが書かれてあった。
しかし、その国にいるわけでもなく
まして俺自身に何か被害があるわけでもない。
隣の国で何が起きていようが、どうしようもないのだ。
「俺が勇者でも、『ベルガルナ』を何とかしようとは思わないかな」
そんな無責任なことをつぶやきながら、客の来ない店のカウンターに座っている。
店のドアが開いて人が入ってくる。
「いらっしゃいませ」
店に入ってきたのは騎士の恰好をした初老の男性一人だ。
「ここが『相談屋』か?どんな依頼も受けてくれる」
「はい、相談次第ですが受けますよ」
「おお、それはありがたい。儂は、王国騎士団の団長エルバルドという」
「コージ・ミヤモトです」
「でな、コージ殿には貸してもらいたいものがあるのだがな」
「お貸しする、ですか?」
「そうじゃ、隣国の『ベルガルナ王国』が危ないので勇者の何人かに
この町に常駐してもらおうというわけでな…」
「それなら貴族の屋敷を提供…はできなかったのですね?」
「うむ、領主もダメじゃった。そこで冒険者ギルドで空き家がないか聞いたら
お主の屋敷の話題が出てのう」
「……まあ、提供してもいいですが条件があります」
「多少の無理は聞くぞ」
「そんな無理難題ではありませんよ」
「して、条件とは?」
「私が提供できるのは屋敷のみです。
食料はもちろんメイドさんなどのお世話をする人たちは、そちらで用意してほしいのです」
「それが条件か…。まあ大丈夫じゃろう」
「その条件、了承した」
「では、依頼料銀貨5枚です」
「うむ」というとエルバルドは懐から銀貨5枚をコージに渡す。
「では、こちらが屋敷の鍵です」
白と黒の鍵を渡すとエルバルドは「かたじけない」と店を出て行った。
俺は店を閉めて、リビングに行きながら
「どんな勇者が来るのかな…」
とつぶやき、昼食を何にしようか考える。
昼食を食べ終えたころ、家の裏庭で音がしたので行ってみる。
そこには、『ダンジョンの扉』を開けて攻略組が帰ってきていた。
「マスター、ただ今戻りました」
「ただいま、マスター」
「みんな、おかえり。無事に戻ってきたね」
「マスター、素材と宝物いっぱい手に入ったよ」
「よしよし、召喚【行商人】」
俺は『行商人』を5人召喚すると
「クルムド、みんなから素材や宝物を受け取っていつものように頼む」
「了解じゃ、マスター」
「じゃあみんな、俺たちのカバンに移してくれ」
「「「は~い」」」
素材と宝物を移している皆を見ていると、サーシャが近づいてきた。
「マスター、ちょっといい?」
「…サーシャ、またダンジョンで拾ってきたのか?」
「違うわよ、ダンジョンの中であの貴族たちが引き返しているところを見たの」
「…あの貴族、生きていたのか?」
「ええ、でも人数はあの貴族を入れても3人しかいなかったけどね」
「その貴族が引き返していたのか?」
「だから、外で何かあったのかなって」
「…簡単に言えば、隣の国でクーデターが起きた。
さらに北の帝国が侵攻していて国内は大混乱だ」
「マスターはどうするの?」
「俺は何もしない、というかできない」
「…私たちの力が必要な時は遠慮なく呼んでね」
「ああ、頼りにしている」
俺がサーシャの頭をなでていると、素材などの移送が終わったようだ。
クルムドたち『行商人』が近づいて
「マスター、素材と宝物を受け取ったのでいつものように行ってきます」
「ああ、よろしく頼む」
そう言われると、『行商人』のみんなは裏庭を出て東門へ向かった。
今回は王都などで売ってくるみたいだ。
「それじゃ、サーシャたちは『送還』」
みんなの足元の送還陣に吸い込まれていく。
みんなを送還し、一人になったところで「ステータスカード」を召喚。
ステータスを確認すると、
「……みんな、どんなダンジョンモンスターと戦っていたんだ?」
とうとう、レベル600越えの一般人に俺はなっていた。