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新世のラグナロク  作者: 緋島 奏
序章 新世のアスモディア
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第一章 三 そして

これから毎週金曜日に更新していきます。

「おはよう。」


 蓮が朝早く教室に入ったとき、翔が挨拶してきた。


「ああ、おはよう。昨日はどうだった?」


 翔が昨日呼び出されて学校の方向に走っていたのはまだ心のどこかで引っかかっている。何かとても嫌な予感がしてならないのだ。考えすぎだろうか。だが、蓮はどうしてもそうは思えなかった。昨日翔が電話で使った「魔族」という言葉と、そのあとにこの「天時学園」のある方向に走ったこととは無関係には感じられないのだ。

 たまたまこの学校のある方向にある別の場所に翔が、用があったのだとしたら蓮の思いは杞憂に終わる。だが、もしもそうでないとしたら――最悪の場合も考えておかねばならないだろう。


「あ…、うん。まあ。」


 翔は歯切れの悪い返事を返す。そんな翔の言葉から何か隠しているという考えに至るまで時間はかからなかった。だが、あえて言葉にはしないでおく。


「なにしてるか知らないけど、無理するなよ。」

「ああ。」


 正直言うとまだ知り合って間もない人にどこまで干渉していいのかと迷う部分はあった。だが、翔は気遣ってくれたとわかってくれたのか返事は短かった。


「ところで――」


 いきなり翔が話を振ってくる。


「昨日も言ったけど本当に悪かった。俺があそこに誘ったのに結局先に帰ってしまうようなことをしてしまって。」

「だから、もういいって。何回も言わなくても別に怒っているわけじゃないし。」

「――なら、いいけど。」


 何か納得できていないような返事をする翔。「じゃあさ…」と蓮は提案した。

「今日、また行かないか? そんなに言うならさ。それに俺だって今のうちになんでも話せる人っていうのも作っておきたいし。」


 最後のは事実ではあるのだが理由にするのにこじつけた、というのもある。


「なるほど、確かにお前初日から孤立しちまったからな。わかった。今日も一応休みだから行くか。」

 何とか調子が戻ったようで何より。話しづらかったし。




――昼休み。

「蓮。購買行こうぜ。」

「ああ。」


 翔と話しているからと言って一部の人からの態度は決して軟化したりはしない。というかしていない。


「そういえば、今日お前あいつと話していないんだな。昨日はほら、ほんと仲よさそうにしてたじゃん。」

「なあ、その誤解を招くような言い方やめない? ただ向こうが親切で話しかけてきてくれただけだって。」

「ふーん。ま、別に何でも構わないけどね。俺は。」


 これは今日分かったことだが、翔は自分の興味のあるものでない限り本当に関心すら向けない。そう考えると蓮に昨日話しかけてきたことには何らかの理由が存在したことになる。決して言葉にしていないなにかが。

 パンを二、三個買って購買から離れた。


「あー、そういえばお前、昨日あいつと土曜日に会う約束してなかったっけ?」


 なぜこういうことはしっかり覚えているのだろうか。翔の言っている「俺は別にどうでもいい」が、嘘か本当かわからなくなってくる。出会った初日のふざけているようでどこか見透かしているような様子が思い起こされた。


「いや、俺まだ何も聞いてないけど。」


 そう。明日が例の土曜日なのにまだ紫織からは何も聞いていないというのが現実。


「早速振られちゃったか。」

「付き合ってないし。」


 苦笑しながら翔にのってやる。

 とはいえ、一応あれほどの美少女に誘われているので会うことに対する期待をしていないと言うと嘘になるが、昨日のことを思い出すと何か皆が思っているようなことではないような気がする。

 教室の扉を開けて中に入る。今の時間、たいていの人は他のクラスに行ったりしているので中の人口は少ない。蓮が購買部で物を買って教室で食べるのはそれが理由だ。


「じゃあ、いただきます。」

 席に着いて一息つきながらそうつぶやく。

 翔も横で食べ始めた。




 放課後になると翔が蓮の席に近づいてきた。


「朝言った通り、今から行くぞ。」


 朝、蓮が言ったことを覚えていてくれていたらしい。


「ああ。少し待ってくれ、急いで帰りの用意終わらせるから。」


 蓮は先ほど準備を始めたばかりだった。


「まったく…、校門で待っとくぞ。」


 そう言い残して翔は教室から立ち去っていく。自分から言っておいてあまり待たせるわけにもいかないので手早く荷物を纏めて立ち上がった。しかし、すぐに立ち去るようなことはしない。そのわけは――


「蓮…。」


 いきなり声をかけられたが誰かは振り返らなくてもわかった。


「速…、紫織か。」


 名字で呼びかけそうになって改める。下の名前で呼ぶことになっているのだった。

 ずっと何も言ってこなかったから帰るときになるだろうとは思っていた。すぐに教室を出なかったのもこのためだ。


「ごめん。誘ったまま何も伝えなくて。その…ずっと赤谷と一緒にいたから話しかけづらくて…。」

「いいって、別に。」


 ここでふと気づく。もしかすると翔は放課後こうなることを予想していたのではないのか、と。翔がわざわざ校門で待っておくといった理由もそのためだとすると納得がいく。話しやすいように気を遣ってもらったのだ。


「あっ、うん。…そうだった、明日のことだけど朝の九時に学校の近くの日世駅でどうかな? 場所ってわかる? わからないなら集合は別のところでもいいけど。学校の近くとか。」


 学校の近くはさすがにない。だから日世駅で決まりだ。たしか日世駅といったら蓮が学校に行くときの途中にある駅の名前だったはずだ。迷うことは無いだろう。


「日世駅? ああ、わかるわかる。九時ね。そこの前にいたらいい?」

「うん、できれば。そのほうが探しやすいし。」

「そっか。…あっ、ごめん翔を待たせてるんだった。ごめん、それじゃまた明日。」


 時計を見て蓮は大急ぎで校門に向かった。

 蓮の慌てぶりに教室に残っていた人はあっけにとられている。クラスの一部とはいえ避けられているのだ。それを微塵も感じさせないような様子の蓮に向けられた彼らの視線は開けっ放しにしていった教室の扉から先ほどまで会話をしていた紫織へと少しづつ移っていく。後に残されたように立っていた紫織もその視線に気づき、うつむく。そして、


「もう、声が大きいよ…」


 紫織は困ったように誰に言うでもなくそう口にして同じように教室を離れた。



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