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新世のラグナロク  作者: 緋島 奏
序章 新世のアスモディア
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第一章 ニ 思わぬ事

朝、更新するつもりだったのですが忘れていました。すいません。

 チャイムが午前中最後の授業の終わりを告げる。

 周りの生徒たちが誘い合って昼食を食べるグループを作り始めている中、蓮は一人で購買部に向かおうとしていた。実はこの時には朝から続いていた重苦しいクラスの雰囲気が一部の者からは少し薄れていたりもする。紫織の思い立ったときに起こす突拍子もない言動は皆が認めているものであったからだ。

 とはいえ今蓮が一人孤立しているのは転校生だからというのもあるだろうが大きいのは朝の一件がわずかにでも未だに引きずっているからだろう。試しに何人か昼食を一緒に食べようと誘ってみたが案の定、うやむやにされてしまった。なので、誰かと昼食を食べるっていうことと会話をするっていうことについてだけは、朝からの事を考えてしょうがなくあきらめている。さすがに初日から女子生徒に「一緒に食べよう」とも言えないし。だが、一人で、っていうのも少し気が引けるというのも事実だった。


「おい、転校生。」


 いろいろと考えており、自分に声をかけるものはいないという当然の思い込みによっていきなり投げかけられたその言葉が自分に向けられているということに時間がかかった。


「蓮、だったけ? 購買行くんだろ? 一緒に行こうぜ。」


 そう言いながら近寄ってきたひとりの男子生徒には見覚えがあった。


(たしか同じクラスの奴だよな。前で自己紹介したときに見た記憶がある。)

 蓮が一人でいるのを見かねて親切で話しかけてきたのだろう。それが蓮にとっては学校に来てずっと心細かった分、うれしかった。


 朝の件を知っている一年二組の人だったら、それも男子生徒だったらよくわからないが蓮に話しかけてはいけないという空気があったはずだ。それを無視したってことはこの男子生徒にも何らかのことがある可能性がある。今時、暴力沙汰はないとは思うが。


「あいつらの中にはお前を本当に敵対視して無視しようって奴もいるけど、全員が全員そういうわけじゃないぜ。それに俺は別にあいつのことは全く興味ないからお前を無視する理由がないってわけ。」


 心を読めるのか、というほど心中の疑問にふざけた感じで的確に答える目の前の男子生徒。


「あいつ、ってのは?」

「ああ、速水 紫織のことさ。ちなみに学年でかわいさランキングトップ3に入る。」


 後半はともかく、朝のクラスメイトの態度の変わりようから考えると前半の人名のほうは予想していたことだ。予想していただけに真実を知ってしまうとやはりこれからが思いやられる。


「もっともお前が敵対視されるようになった大きな原因は初めの休み時間だけどな。なにしろあの雰囲気は、はたから見ると出会ったばかりとはいえ恋人同士にしか見えなかったからな。」


(やっぱりか。)

 蓮自身にもその時はたくさん注目を集めてしまったという自信があった。だがやめようにも紫織から感じられた真剣さというものがあって途中で切り上げられなかったというのも事実だ。人がいいといわれることがあったがこの性格を呪ったのはこれが最初で最後だろう。


「てか、そんな風に見えてたのか。俺は別にそんなつもりじゃなかったんだが…。」


 ここで購買に着いたので、できている列の最後尾に並びながら会話を続ける。


「んなこた、俺だってわかってるさ。でもあいつら速水ファンにとってはそれでもお前が許せないんだろうさ。ま、慣れれば気にすることでもないし別に大丈夫だろ。一部の人はあいつの性格がわかってるしね。」

「お前なあ。」

「はははっ。」


(こいつ他人事だと思って……)

 まあ、事実そうなわけだが。

 それからすぐに購買でパンなどを買って二人で会話をしながら食事を済ませた。そのことを考えると意外と有意義な時間が過ごせたような気が…。あっ、あいつの名前聞き忘れてた。暇なときに聞くとしよう。


 帰りのホームルームが終わり、生徒たちはそれぞれに帰り始める。それに従って蓮も席から立ちあがった。


(さ、帰るかな。)


「おっ、蓮。今から帰るのか?」


 声をかけて来たのは昼食の時に誘ってくれた男子生徒、赤谷 翔だ。(ちなみに名前は、五時限目の休み時間に言いづらかったのを我慢して聞いた。)


「ああ。」

「じゃ、ちょうどいいや。俺も帰るところなんだ。一緒に帰ろうぜ。」

「ああ、別にいいけど、帰る方向は? もちろんだがお前の家なんて俺知らないぞ。」

「ああ、大丈夫だよ。今日はこれからなんもなくて時間があるんだ。」

「今日はってことはいつもはアルバイトかなんかしてるのか?」

「いや、そういうわけじゃないんだが…。」


 普段は何をやっているのかとても知りたいところではあったが、あまり詮索してはいけないような気もする。


――ピピピッ。

 いきなり、二人の間に携帯端末か何かの電子音が響いた。


「おわっ、ったく、なんだよ。今日は休みのはずだろ。」


 そう毒づきながら翔はポケットに手を入れてそこから細長い手のひらに収まるくらいの電子機器を取り出し、機械の側面についているボタンを一度押して耳に当てた。


「はい、赤谷っす。なんの用っすか? 今日は休みのはずっしょ?」


 なんだかとても面倒くさそうに対応している。蓮は会話の邪魔にならないように少し翔から距離を開ける。それでも翔の声はとても鮮明に聞こえた。


「はい…。ちょっと今はですね…。今から?」


 片方の声しか聞こえないので全く会話の内容がつかめない。ただわかるのは翔が何とか理由をつけて休もう(?)としていることだけ。


「そんな俺らが参加しないといけないくらい忙しいんですか? …は? 魔族? ほんとっすか?」


(っ、魔族…)

 魔族。翔が口にしたその単語に、蓮は自分の耳を疑った。一般の仕事やアルバイトなどでは絶対に聞くことがない単語だから、というのもあるが蓮にとってはその単語自体に深く重い意味が込められているものとなるからだ。

 こんな状況でいきなり「魔族」という言葉を聞いたら驚き恐れる、というのが一般の人間の反応だ。それは魔族という存在が人間の生きていく上での唯一の天敵となる存在であり、決して潰えることが考えられないくらい圧倒的な実力差がある種族だからだ。異形の姿に、それらが持つ凄まじいまでの異能力。《特異者》ではない人間にとってはただ恐れおののくことしかできない存在。ただ、蓮だけはこの言葉を耳にするたびに、そういった感情の代わりに怒りと憎しみといった憎悪の念があふれて来るのだった。


「…わかりました。今すぐ行きます。こちらに地図を送ってください…。はい…では…。」


 翔が通話を終え、こちらに歩いてきた。


「っ、蓮。お前大丈夫か? すごくこわい顔してるぞ。」

「…あっ、ああ。大丈夫だ。で、なんだって?」


 知らぬ間に動悸がおきていたようで、蓮は自分の心中の思いを悟られまいと何とか誤魔化して尋ねる。蓮の言葉に「ほんとかー?」と心配しながら答える。


「すまねえ。今日休みだったんだが、急に用事が入ってしまってこれから行かなきゃならないんだ。」

「…魔族、か…?」


 蓮の言葉に翔は目を見開く。


「なんだ、聞いてたのか。」

「いや、たまたま聞こえて…さ。」


 ここで一層、翔が普段学校以外で何をしているのか知りたくなる。しかし、なんとなくだがそれを知ってしまうと二度と今の生活に戻れなくなる気がする。この時だけは考えすぎとは思えなかった。


「ま、いいけどさ。じゃあ俺はもう行くぜ。」

「ああ、何をするか知らないけど頑張れよ。」

「はは、何してるか知ったらきっと驚くぜ。想像できないだろうからさ。」

「だろうな。」


 翔は手に持っていた小さく細長い携帯端末を操作した。すぐに立体的に見られるよう空間ウィンドウで表示していた地図が無数の光の粒子を残して消える。


「それじゃ。」


 翔はそう言って踵を返し、蓮たちが通ってきた道を走って引き返し始めた。

すなわち、学校のある方向へ――


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