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新世のラグナロク  作者: 緋島 奏
序章 新世のアスモディア
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第一章十四 入隊式前夜

お久しぶりです。

しばらくぶりの投稿です。


まだまだ話は始まったばかり。ある程度のストーリーは完成していますが見直しながら続きを出していきます。

 蓮はともかく、紫織の方はというと意外にもなにやら細かく星脈器についてオーダーしていたようでしばらく藤と話していた。

紫織と話し終えた後も、数十枚はあるだろう、空中に表示されたホロウィンドウの一つに何やら打ち込んだ後、藤はこちらに直った。


「それじゃあ、完成は一週間後だ。部屋に届くように手配しておくから気長に待っていてくれよ」


 藤はそう言うと、ひらひらと手を振りながら白衣をなびかせて踵を返す。用は済んだということだろうが、距離感が非常につかみにくい。時間だけで言うと一時間近く滞在していたことになるが、感覚としては事務作業を済ませたような感じである。






「それじゃあ、蓮。メシになったら呼びに来るからな」


あれから技術開発室を出て翔に連絡した後、蓮は自身の部屋に案内された。

白を基調とした内装で、キッチンや机、ベッド、棚など必要最低限のものが置いてあるだけであるがその広さが十数畳はあるだろう。一人暮らしの一般的な部屋に比べたらかなり広い。

住み始めて数日とはなり、そろそろ家から衣服以外の荷物も運びこもうと考え始めていたころである。


「…ああ、それはいいけど…。これ本当に“仮”の扱いなのか?」


 技術開発室でのオーダーメイドに始まり、用意された部屋など入隊を承諾したとはいえ、蓮には仮入隊の扱いとは到底思えなかった。数日の間、施設内の案内やら何やらでこの質問も誰にもぶつけられずにいたのだ。


「ああ、本当に仮っていうだけならここまでしないだろうが、お前の場合はスカウトされた上での承諾だからなぁ。形式上は仮入隊でも、実質正式に入隊したも同然なんだよ」

「そういうもの、なのか」


 とはいえ、あれから時間も経って明日は入隊式があるとのこと。今更引き返すこともできなくなっている。

 数日の間、部屋の整理や施設巡りをしていただけで部隊らしいこともせず毎日三食のおいしい食事にありついているだけ、というのも事実。部隊らしいものといえば、訓練場や武器庫、演習室という名の超広大なバーチャルシステムがある部屋だろうか。何しろ『基地』はかなり広くこれでも回り切れていないくらいなのだ。

 今日の夜は早めに休むとして夕方ごろには荷物をすべて運び込んでおくくらいがいいだろう。衣類などは運び込んでいるわけであるから据え置き型のプライベート端末や移動の際に使うバックなどを持ってくるだけ。


「ああ、そのことなんだが。やっぱり昼食は一人で行くよ。今から家に残ったものを取りに行こうと思ってるから」


 はやめにやっておくに越したことはない。幸いにも食堂は二十四時間常に開いており時間がずれたりしても問題はない。任務などで帰ってくる時間が不定期だからというのが理由らしいが今のところは任務関係なく使わせてもらうことにする。


「ん? それなら手伝おうか? どうせ昼から暇だしご飯食べてから行けばゆっくりできるうえに一人よりは早くすむだろ」


 翔の申し出に特に断る理由もなく蓮は昼食後に動くことにした。





 短時間で作ってくれるというパスタを食べ、蓮は翔と連れ立って自宅へと向かう。『基地』のセキュリティを越えてしまえばすぐに公道。学校からの直線距離は自宅からそう変わっていないが方角だけで見ると真逆。通学路というだけだとまだ新鮮味が残っている。

 一般的な速度で走ると数十分の距離も話しながら歩くとすぐに感じられる。数日開けただけだと特に感慨も何もない。電子キーを解錠して翔を促す。


「ほら、荷物取りに来ただけだけど、どうぞ」


 翔を連れて二階に上がり、自室の扉を開ける。


「んで、何持っていくんだ?」

「そうだな…まず大きめのバックに外出用の小さいもの」


 蓮はクローゼットからバックを取り出して、翔へ向かって放る。翔は受け取ったバックをまとめながら、蓮から受け取ったものを無造作に詰め込んでいく。


「おいおい、大事に扱ってくれよ」

「壊れるようなものは入ってないから大丈夫だろ。んで次は?」

「ああ、そうだな。そこのデスクトップパソコンと…」


 接続されていたコード類をそっと抜き、束にしてまとめながら整理していく。


「待て。この大荷物持った状態であそこを通るつもりか? 明らかに人数不足だろ。あいつら呼ぼうぜ」


 翔は蓮の動きを一度止めた後、いぶかしげな顔の蓮に口角を上げて見せる。


「あいつら?」





 一時間経つか経たないかの時間待った後、自宅のチャイムが鳴る。


「来たか」


 翔は我が物顔でさっと一階へ降りると、来客を二階へと招き入れる。


「あいつらって、まあ、予想はしてたけど」


 部屋へ入ってきた顔ぶれはある程度予想をしていた人物たちではある。『基地』へ入りある程度顔見知りもでき、その中でも同級生のこの二人とはすぐに仲良くなったのだった。

 入ってきた二人。里中 憲と島田 裕樹は蓮の顔を見てにかっと笑う。


「さあ、引っ越しやるぞ」


 ものを渡す、まとめる、運ぶと役割分担が自然にでき、荷造りがすぐに終わる。


「蓮。これは?」


 教材類をまとめていた里中がクローゼットの奥から突き出すアレに気づく。


「あ、それは…」


 嫌な予感がし、まとめていたパソコンのケーブル類を放って蓮は里中とそれの間に割って入る。


「ああ、これは大丈夫だ。あとで持っていく」

「お、おお…そうか。竹刀袋だったから、どうかなって思っただけなんだ」


 蓮の過剰な反応に里中は慌てて手を振る。

 竹刀袋。少し冷静になってみると竹刀袋の中のそれ、降魔刀は一見するだけでは分からないように収めていたことをすっかり忘れていた。紫織にすら詳しく話していない、この刀のことは、今はまだ伏せておいていいだろう。

 いずれ――不思議と蓮はそんな気がした。









 夕食時の帰りとなり、部屋に荷物を置くと四人はそのまま食堂に向かった。

 空いていた大テーブルにそれぞれの食事を置き、各々が箸やスプーン、フォークを動かす。


「あっ、蓮」


 ふと声を掛けられ、蓮は顔を上げる。


「紫織か。帰ってきてたんだ」

「うん、昼くらいにこっちに着いたかな」


 ここで生活していた数日の間、両親と話をするとか何とかで自宅で過ごしていた紫織。数日間の内容があっという間に過ぎるくらい新鮮でかなり久々に顔を合わせたような気がする。


「友達?」


蓮に案内されて、とくにためらう様子もなくその隣に紫織は腰を下ろす。


「里中と島田。学校は隣の地区だけど同級生。紫織が出てすぐ知り合ったことになるのかな」


 呆けたようにややうわの空で話を聞いていた里中と島田は紹介されてはっと我に返ったように慌てて紫織に自己紹介をする。


「ああ、ありゃ見とれてたな」


 里中と島田の慌てぶりに笑う紫織を横目にそっと翔が耳打ちする。


「そう、なのか」

「前にも言っただろ。速水は学校でも結構人気があるんだって」


 自分はどうでもいいといった調子で自分の食事に戻る翔に蓮は肩をすくめる。


「そういえば、紫織もきたことだしちょうど聞きたいことがあったんだ」


 少し雑談をしていたところで、蓮は思い出したように口を開く。


「ん? なんだ?」

「明日の入隊式だよ。何があるんだ?」

「ああ…」


 翔は最後のスープを飲み干して、テーブルを囲む四人に抜き直る。


「入隊式って言っても、その辺の学校とか企業同様簡単な話があるんだが、そのあとにちょっとしたイベントがある」

「イベント?」


 思わず翔を除く四人の声が重なる。

蓮と紫織はもちろん里中と島田も実のところ未だ正式入隊していない。一年で入隊式が『基地』で行われるのは一度だけ。それまでは如何に早く入隊しようとも仮入隊という扱いらしい。里中と島田は同時期に入り、星脈器は二人とも自分のものを所持。しかし今に至るまで何度か訓練に参加はしたものの正式入隊はていないとのことだった。


「ああ、簡単に言うと模擬戦だな。正隊員と仮隊員混合でするんだけど…」

「ちょっと」

「ん?」


 翔の話を遮る紫織。言わんとすることはわかる。何度かここで訓練している里中や島田といった仮隊員ならともかく、蓮と紫織にはそんなことをする時間などは一切なかった。慌ててるのも無理はない。


「ああ、そのことか」


 仮隊員同士無言で分かったようにしている中、少ししてから翔は説明を始める。


「そもそも、この時期に入隊してくるのは異例なんだよ。ここまではいいな? 本来島田たちみたいにあらかじめ籍を置いて少し慣れたころに正式入隊するんだけど、お前たちの場合は違う」

「違うのか?」


 里中と島田は蓮と紫織を見た後、翔の方へと視線を移す。


「ああ。単にカップルが入ったとかじゃなく――」

「「違うから」」


 なんとなく予想していたくだりに否定を入れて翔に続きを促す。


「こいつらはスカウトではいったから。そこだけが違うな」


 正確にいうと半ば無理やり連れてこられたとも言えるが、あれは翔なりのスカウトらしい。独断で動くことは組織上難しいだろうからおそらくは『基地』からのスカウトともいえる。


「まあ、わかりやすく言えばハンデだな」

「いや、ハンデもなにも…」


 ハンディキャップが発生するほど、自分に秀でた能力があるとは蓮はみじんも思っていない。一年前に戦った時の能力を見られてしまったととしても過去のものという認識をされてもおかしくはないはずだ。


「ああ、お前たち二人は今更なんでとか言うなよ? こっちとしてはある程度調べてから声をかけてるんだ。まあ蓮はともかく速水の方は、たなぼたといえないこともないか」


 ここで沈黙。否、無言の圧力。あえて里中・島田の二人には黙っているんだという遠回しな翔の言い方。これ以上言うと隠している過去のことまで暴露されかねない。わざと隠しているというより言う必要がないことだから隠していることではありうが、いらぬ問題を招かないためでもあるのだ。


「話を戻すぞ」


 里中と島田の二人も何か言いたそうにしていたが、翔と蓮、紫織の様子を見て今は黙っておくように決めたらしい。


「…模擬戦では、ランダムに対戦相手が決まる。いくら勝ってもいくら負けても構わない。あくまで模擬戦だからな。でも、忘れちゃいけないのがただの模擬戦ではないってところ」


 それからの翔の話を要約すると、翌日午前中から数日かけて行われる模擬戦では、正式入隊後のランク決めの側面もあるとのことだった。上のランクになればなるほど勝利を重ねなければならないが、高位になればなるほど閲覧できる情報が増えるだけでなく使用できる設備、『基地』内における権限も拡大する。より危険な訓練・任務をこなすことにはなるがそれ相応の見返りが得られるという。模擬戦で手を抜くとまた話は変わるが、仮隊員は自分に合った適性のランクへ、正隊員は自分のランク見直しの機会になるというわけだ。


 急すぎる話。部隊という名前だけでここ数日、それらしいことをしてこなかった蓮だが、今初めてその実感をすると同時に初戦の時感じたものに近い、恐怖が心の中を染め始めていくのだった。


厳しい意見含め、感想や意見など聞かせていただけると評価以上にモチベーションにつながりますのでよろしければお願いいたします。

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