第一章十三 星脈器
大変長らくお待たせしました。申し訳ありません
ストーリーも忘れていてもおかしくないくらい間が空いているので読み返していただければ幸いです。
「で、ここは?」
ある部屋の前で立ち止った翔に蓮はそう尋ねる。
「ああ、最高司令の八津崎は言わなかったけどさ、入隊って言っても未だ“仮”の状態なんだよ。お前たち二人は」
そう言って扉の横ほどに取り付けられたタッチパネルを叩く。小さな電子音とともに出てきたホロキーボードに翔は素早く指を動かす。
他の部屋と違いやや重厚そうな扉が音もなく開いた。
「…技術開発室だ。ようこそ、歓迎するよ」
ややふざけたような言い方だが、それは本心であるかのように翔は屈託なく笑った。
「ここの入隊・仮入隊の証っていうものがあって、それがさっき八津崎も言っていた星脈器なんだよ」
「――そこからの説明は変わるよ、赤谷くん」
部屋の奥から若い女性がこちらへ歩いてくる。白衣を着ていたり伸ばした髪を無造作に流していることからもいかにも研究者という雰囲気がある。
「…それじゃ、終わったら連絡してくれ」
翔はそういってポケットから取り出した小型携帯端末を指でたたいて見せた。
「さて、突然だけど、これ」
翔が部屋から出た後、藤 昌と名乗った女性は蓮と紫織に、握り用の指のくぼみがついた薄い直方体の金属を手渡す。
「…これが星脈器ですね」
「そうそう、今話題のソルニウムから放出される魔力を具現化する装置兼武器であり、ここの入隊証でもあるものよ。ここではそれぞれの希望に合わせて可能な限りの調整を施したものを渡すようになってるの」
そう言って藤は自分の腰に提げていた金属体をつかみ、二歩下がりながら腕を目の前にかざす。
「――accept.」
口から紡ぎだされた短い単語とともに握られていた金属の先に黄金色ともとれる短い光の刃が一瞬にして形成される。
「皆はこの持ち手のことを星脈器と指すけれど、本当はここまでして初めてそう呼べるの」
藤は研究者としての思いのようなそして独り言のようなものをつぶやき、腕を軽く振る。
聞きなれない音とともに光の残像を残して振るわれる黄金の短剣。
「と、こんな感じかな。人それぞれ形は違うし重さももちろん違う。オーダーメイドだからね。…まあ、習うより慣れろだよ」
研究者とは思えないような言葉が最後聞こえたがそれこそ藤の性格なのだろう。同じことを思ったのか紫織もこちらを見たが、それには肩をすくめてみせる。
オーダーメイドと言われても自分に理想の形の武器などないし、それこそ求めるものすらない。今まで武器と呼ばれる刃物の類を持った経験はあるもののあまり思い出したくないものではあった。
(どうするかな…)
「しおりは…」
隣にいたはずの紫織の姿はなく、少し離れたところにいる藤と何やら話しているようだった。
(さて、どうしするか)
藤の言い方からして急ぎではないはずだが、何かと持っていたほうが間違いないように思える。
手渡されていた星脈器の柄にふと視線を落とすと、なにやら模様が入っていることに気づく。
「…星座?」
金属の表面に刻まれた小さな丸と線でつながれたその模様は星座にも見えなくはない。
「へえ、気づいたんだ」
顔を上げると目の前まで来ていた藤がこちらの瞳を覗き込むように顔を近づけている。
「…そう、正解、星脈器って言ってるからにはもちろん星が関係しているんだよ。魔力の流れって結構制御が難しくてね、いくつかの制御装置を中に入れてもなかなか具現化してくれない。そこで宇宙から魔族が来たんならって、当の本人もふざけ半分だったんだろうが、他の研究者の一人が制御装置を星座の形に並べたのさ。そうすると魔力は形を成した。…なぜか同じ星座は使えない。星座の数しか作れないのならせめてオーダーメイドをってね」
思いがけず聞かされた星脈器の由来は、偶然とはいえそのあとの試行錯誤の末今がある、そう思わざるを得なかった。
「ちなみに使われていないなら星座の希望も受け付けるよ」
蓮は改めて握った星脈器の柄を見る。
自分が何の形にするか、頼めば別の形にしてくれるだろうがとは思いながらも考え込んでしまう自分がいた。優柔不断なのではなく、武器と呼べるものの金属に触れると自然と思い出されるのだ。初戦の日の記憶とそれ以前のあの日の思い出が。幼くも希望に満ちたあの時を。
実のことを言うと、初戦の日から降魔刀【八雲】を直接見れていない。否、それだけでなくほとんど触れてすらもいない。
結局は怖いのだ。一年たったとはいえたった一年。時間でいえばほんの僅か。言ってしまえば一瞬。学年は上がり初戦の日から、悲しくも大きく自分の生活も変わったが肝心の中身は変わっていない。
ならせめて――
自分を見つめなおすと自分の持つ星脈器の形はやはり一つしか思い浮かばなかった。この金属が自分を大きく変えるとは思わないが何かのきっかけにはなって欲しい。
意を決したように蓮は藤へと希望を伝える。
「…ん。わかってたよ。『青い颶風』たる君が最終的に何を選ぶのか、はね」
聞き覚えのあるような内容な、そして意味ありげにそう言う藤の言葉に蓮は軽く頭痛を覚えた。
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