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新世のラグナロク  作者: 緋島 奏
序章 新世のアスモディア
12/16

第一章 十 基地で Ⅰ

 長らく待たせてしまいまいました、すみません。前回に不定期更新としていたのですが、三日に一回できるだけ更新していきたいと思います。

 制服姿のまま、三人は時折会話をしながら歩いていた。細い路地を抜けて――などと、どこか誰にも知らないような道を通るわけでもなく、一般の人が行き交う大通りを突き進む。ただ、三人の歩く速度が若干早く見えるのは学校を無断で欠席している、という罪悪感からだろう。


「なあ翔、道間違ってないよな。」

「ああ、もちろん。行き慣れている俺が間違えるはずがないだろ。」

「…にしても、今までふつうの道を歩いて来ただけなんだけど…。」


 翔の話では、あまり人目が付かない場所にあるというように聞こえたのだがそういうわけではないのだろうか。


「赤谷、私も少し疑い始めてきたよ…。」


 そう言いながら蓮の隣にいる紫織は周りを見渡す。市街地をいつの間に抜けてきたのか、周りは民家など一つも見えない。あるのは工場だけなので、工業団地の真ん中あたりにいると考えていいのだろうか。


「疑い始めたというか、蓮と違ってお前は最初っから俺のことは信じてないだろうが。いいから、蓮も速水も黙ってついてこい。」


 紫織の言葉に文句を垂れながら、複雑に入り組む工業団地を迷うそぶりを見せずに歩き続ける翔。さんざん言っていただけあって一応は信用していいらしい。


「話変わるんだけどさ、なんで速水はついて来たんだよ。今更と言えば今更ではあるんだけど。」

「…。」


 紫織には、ここで言うことができるほどの理由を持っていなかった。初めからただ、蓮について来ただけであるのだから。


「まあ、別になんだっていいんじゃないか? 少なくとも俺は紫織がいた方が気が楽だし? ほら、なんだかんだ言ってお前は核心的な部分を何も話さないからいまいち、例の基地っていうものも信じきれてないんだよ。」

「…ああそうかい。俺も隠したくて隠してるわけじゃないんだよ。上から言われてんの、自分から説明するからあまり話すなって。」


 とはいっても、話すなではなくあまり話すな、だ。少しくらいなら説明をしてもいい。これまで話さなかったのは単に面倒くさかったから、である。


「…まあ、“基地”からしてみれば速水が来るのはむしろ大歓迎ではあるんだけど…。」

「それってどういう…。」

「…ほら、着いたぞ。詳しくは中でだ。ここからは本当に迷うかもしれねえからちゃんとついて来いよ。」


 翔は半ば強制的に会話を終わらせて、目的の場所と思しき廃工場に向かって歩き始める。

 周りには古い工場が立ち並ぶ。そのためか目の前の廃工場も全く違和感がない。『基地』としてはそれが狙いなのだろうが、そう考えると『基地』という組織がますます怪しくなってくる。

 そんな蓮の懸念もつゆ知らず、翔は工場を囲む鉄柵の大きな穴に体を滑り込ませて敷地内へと入っていく。


(おっと、置いてかれる置いてかれる。)

 紫織が中へと入り、少し遅れて蓮も入る。


「ここの周りを一周するからちゃんとついて来いよ。」


 翔はそう言葉をかけると同時に、早足で歩き始める。


「あ、ちょっ。」

「待ってよ。」


 慌てて後を追う蓮と紫織にかまわずに、スピードを緩めずに歩き続ける翔。いつものようにふざけているのではない、ということは歩きながら周りを見渡す翔の表情を見て分かった。


「二人とも、あそこから中に入るぞ。」


 軽く目だけこちらを向く。


「わかった。」


 翔が見据える先には廃工場の裏口と思える扉が一つ。そこから中に入ろうというのだろう。

――ギギッ。

 赤錆まみれの巨大な扉の向こうには、数十平方メートルはある広い空間が広がっていた。ただあまり広く感じられないのは使われなくなった大小さまざまな機械類が、工場が稼動していたころのままいたるところに置かれたままだからだ。


「こっちだ。俺の通ったところを歩いてくれよ。変に痕跡みたいなものを残さないようにしてるんだから。」


 翔は工場の端の方を歩き始めた。見たことのないような機械に時折興味を示しながら、蓮は進む。その後ろを紫織が続く。


「これって、閉鎖されてそのままだよね。」

「この感じからしたら多分ね。」

「周りから隠すにはこんなもののほうがいいのかな?」

「にしてもそこまで考えてるってなら、相当だぞ。」

「ほんと、手が込んでるってどころじゃないもんね。」


 そんな二人の会話に特に関心がないのか、聞こえていないのかどうかわからないが翔は振り向かなかった。むしろそのほうが、基地関係者が関わらないという点で都合がいいのだが。

 翔は工場の半分くらい言ったところで立ち止まった。


「いろいろ話すのはここまでな。ここからは本当に注意してくれないと後処理に困るんだ。」


 言葉の最後から推測するに翔はあくまで基地側の態度をとるらしい。そして声色や雰囲気といったところから言葉にしたのは表面上の理由で、本命は別にあるということもうかがえたのであえて素直に従っておく。


「わかった。」


 翔は薄く笑いながら大きく頷くと、踵を返して工場の中央のほうへと進んでいった。複数の作業机のある隙間をぬって、一つの机の前で止まったかと思うとしゃがみ込んだ。

 少しして「おい、早く」と呼ばれたので慌てて翔がしゃがんだ場所へと向かった。


「おわ、なんだここ。」


 蓮はそこでつい声を出してしまった。少し周りと比べて大きめの机の下のスペースには奥へと降りる階段があったからだ。


「いろいろ秘密を守るためにも詳しい説明ができないことは了承してくれ。ま、仮に入るとしたら嫌でも知ることにはなるんだけどな。」

「さすがにここまで来たら、なんとなくわかってたよね。」


 何も言えずに蓮がいると、隣の紫織が代わりに言った。


「それもそうか。…さ、降りるぞ。それまでは気を抜かないでくれ。変に周りに触れたりしたら、周りがほこりだらけだというのもあって跡が残るから。」

「「わかった。」」

「ならちょっと急ごう。もうすぐ閉まる。」


 翔の後に蓮と紫織は続いた。机の下のスペースに飛び降り、天上の高さゆえに頭をぶつけないようにほとんどしゃがむような姿勢でしばらく進む。そこで、頭に響くような重低音が聞こえた。階段への入り口がしまったのだろう。


「てか、おい翔。階段のこの高さもう少しどうかならないか? 低すぎるにもほどがあるだろ。」

「しょうがないじゃないか。ここは基地の中で最も嫌われてる入り口なんだから。」

「そんな道使わせないでよ。」

「ほんとだ、全く。」

「…ったく少しは黙っててくれ。俺にできないことばかりを言うな。文句は直接最高司令のほうに言ってくれ。」


 さすがの翔の声にも苛立ちが入ってきた。すぐにそれを察して謝っておいた。こんなところで翔と不仲になってしまったらそれこそ後々に響くだろうとわかっていたから。




(ここはどこだ?)

 薄暗い道の終わりにあった大きな扉を開くと、そう思わせるほどのあまりにも広い地下都市とも呼べるものがあった。


「すごいな。」


 あまりにも大きな驚きに思わず感嘆の声が漏れる。

 磨かれた大理石のような白く滑らかな床、壁、天井。そこを照らす、光源のわからない照明。すべてが新しく新鮮だった。

 今後の作品や、それを書く上でのモチベーションも上がりますので、厳しい意見も含めて感想の方をいただければ幸いです。

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