第一章 九 予想通り
翔は歩きながら、少し後悔していた。あれほどまで紫織を追い詰めるような言い方をしなくてもよかったと。
「…いや、いいか…。」
すぐに思い直す。ああいう突き放した言い方をしないと、蓮を加えた“基地”という組織の行動に一つ一つ干渉してくる可能性がある。そうなるといろいろと面倒くさいことになるので、間違った洗濯はしていない、はずだ。
教室で言い争い(?)をしている間に思ったより時間がたってしまっていたらしい。靴箱付近から生徒がどんどんこちらに歩いてきている。
(まずいな。特に見られたら…。)
翔は学校の外に急いだ。
「てか、あいついないじゃん。」
学校の校門まで走って行ったところ、そこのどこにも蓮の姿が見えなかった。しかしまだ、集合時間まで二十分はある。少し遅く来ることも考えられるのでそこまで焦ることもないが。
十五分が経過しても、蓮は現れなかった。
「遅い…。また遅刻か…?」
今日一度“基地”のほうに蓮を連れて行かないと、翔が何かととやかく言われてしまう。普段仕事を真面目にしていないので、そのことも考えるとできるだけ避けたいことではあった。
「一応、学校の中を見てみるか。」
八時まで残り四分強。急げば教師に見つかることなくここを立ち去ることができるはずだ。翔は急いだ。
教室に備え付けられている窓から教室の中の様子を見て、蓮の姿を探す。
「…いた。」
校門に立っていたにもかかわらず、気づかなかったということはどこかで行き違いにでもなったのだろうか。
「まあ、いいや。それより…。」
教室に入って、蓮の後ろから近づく。
「おい、蓮。あんだけ学校内に入るなって言っただろうが。」
いきなり呼ばれたことに驚いたのか、びくっと肩を上げた後こちらを素早く向く。
「あ、わり。校門に翔がいなかったからさ、もしかしたら教室かなって…。」
「だったら、速水としゃべってないで探しに来いよ。ったく。」
そこで時間を見ると、八時までほとんど時間がない。教室までの移動時間から、滞在時間まで考えると短い方であるはずだが。
「あー、あいつが来ちまうな。蓮。荷物は無いよな。急いでここ出ろ。説明は後な。」
翔が走り出してから、蓮も戸惑いながら後に続く。
「…あ。…紫織、どうする? やっぱついてくる?」
「…うん。蓮が行って少ししてから抜けて来るから、赤谷には黙っといてね。」
「オッケー。」
蓮は校門に向かった。
校門ではあきれたような顔でこちらを向いて待っている翔の姿が見えた
「やっと、来たか。遅い。ていうか、速水に未練ありすぎ。」
「待った。未練って何の話してるんだよ。」
「あー、わかんない奴だな。…それより。」
「また、話逸らすー…。」
蓮はそう小さな声で呟いてから、翔の言葉に耳を傾ける。っと思ったがどう言いだそうか迷っているのか、一向に言葉に続きが出てこない。
「えーっと、まずどこに行くんだ?」
それがわからないことには話が進まない。
「…それがだな…。まあ、いい。行きながら話そう。」
ぶつぶつと何か言いながら歩き出す翔。それを見た蓮はわずかに困ってしまう。実のことを言うと、翔が朝早く教室で話していた内容は紫織からすべて聞いていた。蓮から聞いたわけではなく、蓮が教室に顔を出すや否や焦ったように蓮に話しかけてきたのだった。そんなわけだから、翔の口から実際に聞いていなくても、どこに行くかや、何のために行くかなどはある程度予想ができた。
蓮が考えているのは紫織のことだ。あとでついてくるからと言ったのであまり離れるわけにもいかない。そうかと言って、校門前に居座っていたら近所の人に学校まで通報されかねない。そこの上手いバランスのようなものを考えていたわけだ。
(…よし。)
「なあ、翔。基地ってどこなんだ?」
翔は、こちらの予想通り立ち止まってから驚いたようにこちらを振り向いて目をむいた。
「な、なんでそれを…。」
「…。」
翔が答えを導き出すまで時間はかからなかった。
「はあ、そういうことか。速水に聞いたんだな。全部。」
「…まあ、うん。…それと――。」
蓮は足音がどんどん近づいていることに気づいていた。それが紫織のものだとはわかった。だから、翔に話を振ったのだ。
「私も行くから。」
いきなり蓮の後ろに現れたように見えた紫織のことには気づいていたのだろう。翔は、はあ、とため息をついて大きく肩を下ろした。
「なんとなく、もしかして、とは思ってたけど。やっぱこうなるのか…。」
そんなことをいくら言ってももう遅い。学校は始まっており、それでも紫織を学校まで戻す、という気力が翔にはわかなかったからだ。
更新滞ってすみません。不定期更新としますが、厳しい意見も含めて感想などいただけたら幸いです。