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新世のラグナロク  作者: 緋島 奏
序章 新世のアスモディア
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第一章 九 運命の動き

今年も投稿やっていきます。

 ピピッという音が家に響いた。伝達管理装置と言う名の、外部からの連絡等の情報をすべてまとめて内容と月日によって分別して、データベース化したものを伝えてくれるものだ。


(ん? 誰だ?)

 今ではどこの家にも伝達管理装置が設置してあるが、超高性能AI搭載の携帯端末の普及でほとんどそれに連絡してくるものはいない。あるとすれば地域や学校からの連絡くらいなものだ。

 部屋のクローゼットを閉めて、中の刀の存在を振り払うように頭を振ってから蓮は下に降りた。


「えっと、どうやって使うんだっけ…。」


 前に扱ったときのことを思い出しながら、機械についている黒いボタンを押す。その瞬間にノートパソコンの画面位の空間ウィンドウが開いた。


「えっと、…誰だこれ…。」


 画面に表示されているのはたった一つだけだが、見知らぬ個人コードに見知らぬ名前だった。知らないと言ってもさすがにそのまま無視するというわけにはいかない。うちに、と言っても今は蓮しかいないが何か重要なことの可能性もあるのだ。

 蓮は空間ウィンドウに手を伸ばして、通話の文字がある部分に触れる。ぱっと画面が切り替わり、そこに表示されたのは――


「翔!」


 そう。初日に仲良くなった、今の学校で唯一と言っていい男友達の顔だった。


『うーっす、蓮。』

「うーっす、じゃねえよ。なんでお前がうちの集団コードを知ってるんだ。」

『いや、今の時代そこらへんのところはやろうと思えばどうにかなるもんだぞ。』

「そういうもんか?」

『ああ。』


 翔がどのくらい情報関係に精通しているかわからないが、蓮の記憶が正しければ個人コード及び集団コード、公共・大衆コードなどは国の最重要機密として厳重に管理されているはずだ。


『…まあ、そんなことはいいとして…』

「話逸らしたな。」


 何食わぬ顔で話を続けようとする翔の顔を画面越しに見て、ついそんな言葉が口をつく。


『いや、そんなことは無い…。実はちょっと伝えたいことがあるんだけどさ。』

「…うちの集団コードを盗んでまで伝えたいことってのはなんだ?」

『いや、盗んだんじゃないからな! 少し検索をかけただけだ。』


(検索をかけて出てくるものじゃないんだけどな…。)


『ああ、もう話が進まないじゃないか。質問は後で受け付けるから黙って聞け。』

「わかったわかった。」


 翔の態度はいつもと変わらず、そこまで大事なことのようには思えなかった。だから蓮は苦笑しながら、それでも何かを伝えたいのだなと思いながら頷いた。


『…明日の朝の八時に学校の正門前に集合な。服装は自由。特に持ってくるものは無し。以上!』


(…。)

 メモを取りながら元気な翔の声を聞いていたが、紙にペンを走らせるうちに違和感を感じ始めてきた。


「以上、じゃねえよ! 明日の朝八時って言ったけどな、明日は月曜だぞ。学校だ。」


 そんな蓮の言葉に翔は、あきれたように言った。


『んなこた、分ってるよ。ていうかお前、学校にそんなに行きたいの?』

「…いや、そういうわけじゃ。」


(なんか、翔のペースに乗っけられてる気がする。)


『まあ、そんなわけだから。それじゃ。』


 蓮が何も言い返せないうちに「忘れて学校の中とか入るなよ。面倒だから」などと言い置いて通話が切れる。どうやら明日は理由もわからずに学校を休むことになるらしい。義務教育でないから留年を心配したが、一日くらい大丈夫だろうと、思って無理やり納得した。




 まだ太陽が昇りきらないうちに、蓮は起きて朝食の準備を始めた。


「…今日は学校に行かないんだっけか。」


 昨日の昼にあった翔からの連絡を思い出した。だからと言って学校の前に集合するわけだから、と制服に身を包んでスクールバックを持って、朝食を食べ終わってしばらくしたころに、いつもの格好で蓮は家を出た。そしてこのころには翔の言葉など忘れてしまっていた。




 紫織は朝ご飯を食べ終わると、身支度を整えてすぐに家を出ることにした。


「行ってくるね。」


 家の中に向かってそう声をかけると案の定、母親が驚いたように速足で玄関まで来た。


「いつもより早くない?」


 時間を確認すると母親の言うように確かにいつもより三十分くらい早い。だがそれは分かっていたことだ。わざとこの時間に家を出るのだから。


「あー、うん。ちょっとね。」


 深い理由を聞かれると、答えづらかったので根掘り葉掘り聞かれる前に急いで家を出ることにした。

 今日は別に学校ですることがあるわけではない。しかし自分の中では理由がしっかりわかっている。


 学校に着くといつもとは違う、人気のなさに少し驚いたがすぐに教室へ向かった。西にある学校の玄関から、東の端にある一年二組の教室までは結構距離がある。なぜほかの教室と違う階にあり、一番遠くなのかはわからないままなのだが。

 朝のひっそりとした長い廊下を通って階段を上り、教室の前まで来たとき、あることに気づいて足を止めた。教室の電気がついているのだ。紫織はドアに手をかけてゆっくりと開いた。

 中にいた少年はこちらを向いたのだが、そのとき意味ありげに笑ったように見えた。


「よう、おはよう。速水。お早い到着で。」


 教室の中にいたのは、翔だった。


「どうして、赤谷が? いつも時間ぎりぎりなのに…。」

「いやー、ちょっと聞きたいことがあってさ。早めに来て待ってたってわけ。」


 普段翔が紫織にはないかけて来ることは無い。それ故に、突然聞きたいことがあるなど言われたら不審に思う。紫織は自分の席に荷物を降ろすと、翔の前に改めて立った。


「で、何? 聞きたいことって。」

「えーっと、実はさ、伏柊 蓮が特異者だって情報が入ったんだけどさ。」

「っ!」


(なんで、赤谷がそのことを…。)

 紫織が昔の蓮であることを知ったのは、土曜日だ。その日は蓮と一日一緒に過ごしたが、それ以降つまり日曜日などは誰ともそういう話をしていない。できないというのが正直な部分だったが、それを置いておくにしても全く関係のない翔が蓮が特異者であることを知っているのは不思議だった。


「…! まさか、公園での話を盗み聞きしてたのっ?」


 翔の何か隠している表情からは、それしか考えられなかった。


「別に、聞こうと思って聞いたわけじゃないさ。」


 翔は肯定せずに認めたようなものだった。しかし紫織はそんなことよりも、蓮との会話を聞かれていたということが恥ずかしかった。気を抜いたら顔が紅潮してしまうほどに。


「勘違いはしないでほしいけど、俺はその時に初めて知ったわけじゃないぜ。ただ確信が持ててなかっただけだ。」


 そこまで言って翔は制服のポケットから白い携帯端末を取り出して少し操作した後、空間ウィンドウを表示させてそれをこちらに向けてきた。その画像には一人の少年が映っていた。見知らぬ少年ではない。蓮だ。青い火の粉が蓮の周囲を舞い、手に持っている黒い刀を見た限りだと一年前の、あの時のものだと思える。


(どうして、こんなものを…)


 疑問を抱いたところで解決することがわかっていながらも、疑問を抱かずにはいられなかった。


「この画像に見覚えはあるか? てかあるよな。」


 翔は当たり前だという風にそう紫織に聞いて来た。


「う、うん。」

「じゃあ“青い颶風”ていうのは?」

「し、知らない。」


 どこかで聞いたことがある言葉だったが、すぐに思い出せなかったのでこう言った。


「そっか。」


 最期に質問をした後、翔は空間ウィンドウを閉じて携帯端末をポケットに戻した。教室の扉のほうに歩いていき、ドアに手をかけて翔は口を開いた。


「ああ、言い忘れてた。蓮のことは“魔族対策基地”に伝えるから。」

「えっ…。」


 翔のその言葉で紫織ははじかれるようにして翔のほうを改めて向いた。

 魔族対策基地。通称、基地。正式名を魔族侵攻対策作戦基地という。有力な特異者と一般人の志願者にソルニウムを中心に作られた“力脈器(スレイル)”という武器を持たせて、魔族の地球侵攻を防ぐという組織だ。本部の正確な位置は政府ですらつかめていないという、謎の組織でもある。


「なぜ、基地に! 赤谷ってまさかそこに所属してるの!」


 基地と言うのは、特異者は必ず知っている組織なのだが、謎が多いということからかあまりいい思いは無いのだ。

 翔はこの言葉に少し考え込むようにうつむいたが、すぐに顔を上げた。


「ああ、そうさ。」


 もし、蓮の昔の力のことが基地に伝わったらS級だということもあり、間違いなく勧誘しに来るだろう。そうなれば昔の吸血鬼との戦いのことも、そしてその時の蓮が隠している嫌なことまでもすべて思い出してしまうだろう。それで蓮が傷ついてしまうことが紫織には耐えられなかった。


「待って。」


 出て行こうとする翔に紫織は詰め寄り、腕をつかんだ。


「どうしても言うつもりなの?」

「なんだ? そんなにあいつが心配か? …放してくれ。」


 そのすべて見透かしたかのような言葉に紫織は自分の顔が熱くなるのを感じた。だがそれでもつかんだ腕だけは離せなかった。離してしまうとすぐに伝えてしまいそうだったから。

 つかむ腕に力を込めたとき、二人の間に紫色の大きな火花が散った。ふいに来たそれに紫織はつかんだ腕を放してしまう。その瞬間に翔はさっと教室の外へと出る。そしてドアを閉める前に呟くように言った。


「悪いけど、伝えないというわけにはいかない。」


 その翔の声には、どこか悲しくて、どこか悔しい、そんな思いが込められているような気がした。

厳しい意見も含めて感想をいただけると幸いです。

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