翔の過去(後)
第10話 翔の過去(後)
(今日は、気分悪い…早く寝たい。)
俺は重たい足取りで帰路に帰っていた。
「…あれ?なんで、家の電気ついてないんだ?」
俺の家は母さんと二人暮らしで母さんは遅くまで仕事をしているが現在の時間は午後7時…いつもなら帰っているはずだ。
…まぁ、今は顔を会わせるのもイヤだから俺は合鍵で家に入り部屋に上がった。
…次の日の朝になっても母さんは帰っては来なかった。
朝食を食べようと思った俺はベランダにおりた瞬間に目にはいったものは…机の上の置き手紙と通帳だ。
「翔へ
母さんは好きな人が出来たのでこの家を出ます。
この、通帳には卒業までのお金は入れてあります。
それでは、お元気で。 母より」
(はっ…なんだ、それ?)
置き手紙の理不尽な内容に呆れと怒りが込み上げた。
「なんだ…いくら母親とはいえ恋とはこんなにも人を狂わせるのか」
俺はその時を最期に人に対する信頼を捨てた。
その日以降…俺は、目を閉じてしまった。
…………………………
何度、思い出しても慣れないな。
(こんなことを考えるってことはそれだけ篠田の言葉が引っ掛かってるのか…)
(まだ…誰かに愛されたいと思っているのか
俺のことを愛してくれるやつなんて…いないのに)
自分が初めて本気で好きになった相手の裏切り…
そして、この世で最も信頼出来る女性の裏切り…
この2つに耐えられるほど、15歳の心は強くはない。
あの日から、自分の心に目を閉じて生きている翔…そんな彼の冷めた心にはまだ誰かに愛されたいと願う気持ちが残っているのかもしれない。
そんな、彼の心を溶かす人は、案外近くにいるのかもしれない。