君がいたなら
『ねえ、元輝』
元輝は、話しかけられて、視線を少し向けた。
『決めゼリフ、やらないの?』
『やらない』
元輝は、視線を落とした。
『何で?』
『僕は、ヒーローじゃないから』
元輝は、そういうと、目を閉じた。
『僕が、ママを死なせたんだ』
『サエキのおばちゃんが、元輝のママが死んじゃったって言ってたけど、元輝のせいとは言ってなかったよ?』
だが、元輝は沈んだままだ。
『僕にはわかるんだ。僕がもっと、悪い奴らをやっつけてたら、あいつらを全滅させてたら、ママはきっと生きてた』
そして、力なく、言った。
『僕が頑張れなかったから、ママを死なせてしまったんだ』
冴木主任に真実を告げられて以降、元輝は、明らかに活気がなくなった。
ミルクも飲まなくなり、ずっと眠っているか、起きても、今のように力ない『発言』をして、また、目を閉じてしまう。
もう少しで退院というところまで来ていたはずなのに、退院はもうしばらく後になりそうだと、纐纈も言っていた。
再び目を閉じてしまった元輝の様子を見る。
あんなに、活気にあふれていたのに、栄養もまともに取れていないからなのか、心の不調を表しているのか、少し頬は痩せて、疲れた顔をしているように見えた。
どんどん、元輝の命が削られているような気がした。
面会時間になり、元輝の父親が来ても、元輝は、うなだれたままだ。
「元輝?どうしたんだ?ミルクのまないのか?今日のはおいしくないか?」
『僕のせいで、パパの大好きなママは死んじゃったんでしょう?僕には、パパからミルクをもらう資格なんてない』
元輝の父親が来ても元輝の心は沈んだままだ。
じゃあ、どうすれば、元輝は、いつもの元輝に戻るんだろう?
ふと思い出した。
かつてこのNICUに、元輝が真実を知ってしまったときに、隣にいて支えたいと言った人物がいたことを。
『元輝が、真実を知ってしまっても、悲しくならないように、私がそばにいるよって、元輝のことを大好きな人は必ずいるよって、支えてあげたいって思った』
そう俺に『言って』いたのは、悠希だった。
なあ、悠希、その時が、来てしまったよ。
もしここに、悠希がいたら、元輝にどんな『言葉』をかけただろう?
もしも悠希が隣にいたら、暗闇に沈んだ元輝の心を、明るく照らすことが出来たんじゃないか?
もしも……悠希の気持ちを知ったなら、元輝は救われるんじゃないか?
俺は元輝の方を見た。
元輝は、静かに目を閉じていた。
『このことは、元輝には、内緒だよ』
悠希の『言葉』がよみがえった。
ごめん、悠希、内緒に出来ないかもしれない。
俺は元輝に歩み寄った。
元輝はだいぶ、衰弱している。
『秘密だよ』
そう言われたことももちろん覚えてる。
でも……。
これ以上弱っていく元輝を見ていられない。
ごめん、悠希、俺、悠希の秘密、守れそうにない。
「なあ、元輝」
その時だった。
俺の行動を阻止するかのごとく、インターホンが鳴った。