病床にて
怪しい産婦人科の看護師にボコボコにされ、体のあちこちを骨折し、ついでに内臓も損傷したらしい俺は、全治三ヶ月を言い渡され、入院させられていた。
『今日も荘ちゃんに会えるなんて、しあわせー!』
翠先生と、生まれたばかりの灯里は、俺のいる病棟の一階下の産婦人科病棟にいる。
母児同室は認められたのに、父母同室は認めてもらえず、俺だけが一階上の外科病棟だ。
「兄貴、調子はどう?」
「明おじさん、傷はまだ痛みますか?」
まだ、翠先生も灯里も見舞いには来られない代わりに、雅之と荘太(猫かぶり)の腹黒コンビが見舞いに来る。
「笹岡さん、調子はどうですか?」
「笹岡さん、お熱はかりますか?」
「笹岡さん、お茶、いりますか?あ、ご家族の方、どうも!」
そして、腹黒コンビがいる間だけ、病棟看護師たちの俺への待遇がすごくよくなる。
というか、看護師がやたらやってくる。
「今日も、翠先生と灯里に会ってきたのか?」
「うん、灯里ちゃん可愛かったよ!写真見る?」
「見る!送れ!何度でも見る!」
「雅之お兄さん、僕も欲しいです!」
「荘太君も写真撮ってたじゃん!」
「雅之お兄さんの方がいいアングルで撮れてるんですよ」
「そうかぁ、仕方ないなぁ」
「荘太も撮ったのか!俺にも送れ!」
「でも、アングルが……」
「灯里の指先でも写っていたら俺に写真を送るんだー!」
俺には明らかに、翠先生と灯里が欠乏していた。
「ところで、荘太も面会させてもらえたのか?」
産婦人科病棟は、子どもは入ってはならなかったはずだと思い出し、おれは荘太に聞いてみた。
「荘ちゃんなら大丈夫って、何の心配もなく通されてたよ」
雅之に言われ、荘太が、一時期産婦人科に入院していたことを思い出した。
それで、顔パスなのか……。
それから数日経ったある日のことだった。
「兄貴、調子はどう?」
「明おじさんこんにちは」
いつもの調子で腹黒コンビがやってきたが、俺はそれどころではなかった。
「翠先生は?灯里は?元気なのか?」
今日は一度も灯里の『声』を聞いていない。
「元気だよー!昨日退院したって言ってなかったっけ?」
「聞いてない!」
ていうか、俺の所に寄ることもなく帰ってしまったなんて……。
「何か、こっちにも寄ろうとしてたんだけど、病棟でインフルエンザが出たとかで、灯里ちゃんにうつしたらいけないからって、やめたみたいだよ」
確かに、灯里がインフルエンザになってはならないな。
あれ?でも、退院したってことは、翠先生のご飯は誰が作ってるんだ?
確か、翠先生、自分でご飯作ってるの見た覚えがないぞ?
もしかして、毎日、コンビニ飯?
それじゃあ、翠先生だけでなく、灯里の健康にも良くないのではないだろうか?
こうしている場合じゃない!俺は一刻も早く退院して翠先生のご飯を作らなければ!
「痛ーっ!」
気合いを入れて立ち上がった俺は激痛にうずくまった。
全治三ヶ月のうち、まだ一週間しか経っていなかった。
「明おじさん、大丈夫ですよ、翠先生や灯里ちゃんの面倒は僕がしっかり見ておきますから!」
荘太が猫をかぶりながらそう言うとにやりと笑った。
絶対に、早くなおそう。
そう心に誓った。
笹岡が親ばかをこじらせております。