一件落着?
『待ってろ!今行く!』
助けを呼ぶ灯里の『声』に反応したその『声』。
「……へ?荘太?」
それを聞いたとき、俺は思わず間抜けな声を出した。
「黙らせろと言ったはずだ」
俺に再び興をそがれたらしい医者に命じられ、俺はさらにボコボコにされた。
三度目に医者がメスを振り上げたその時だった。
バン!
けたたましい音を立ててドアが開き、目の前を何かが横切ったと思った次の瞬間、激しく飛び蹴りを食らったらしい医者が床に倒れていた。
「俺の灯里に手を出すな!この藪医者!」
「誰が誰の灯里だとコノヤロウ!」
その言葉に反応して反射的に顔を挙げたところ、俺を取り押さえていた看護師のあごにクリーンヒットしたらしく、さらに、その衝撃でのけぞった看護師が頭をぶつけたらしく、一人で脳震盪を起こしていた。
荘太は、俺の言葉に動じることなく、拘束された翠先生を助けようと、拘束具を外していた。
そこに、音もなくむくりと医者が立ち上がった。
「荘太!後ろ!」
「このクソガキ!」
立ち上がった医者が、荘太をめがけてメスを振りかざした。
やばい、荘太を助けたいが、体が思うように動かない。
今にも荘太が切り付けられそうになったその時、けたたましい音が鳴った。
そして、次の瞬間扉が開いた。
開いた扉から入ってきたのは、雅之だった。
雅之は、状況を見て慌てて医者を取り押さえた。
そして今、俺は、パトカーの助手席に乗せられている。
あちこち殴られて満身創痍で自分で動くこともままならなかったのだが、翠先生が、「タクシー代わりに救急車を使っちゃダメ!」と、警察署に帰る通り道だからと、雅之に無理を言ってパトカーで病院に連れられているのだ。
例の産婦人科の医者と看護師は、後から応援できた別のパトカーに乗せられて、連れていかれていた。
「それにしても、荘ちゃん、すごいね!カッコよかったよ!」
『荘ちゃん、すごくカッコよかった!』
「いや、ただ、皆さんを守りたくて、必死だっただけですよ」
翠先生と雅之がいるからか、荘太は猫かぶりモードだ。
「でもさ、俺の灯里に手を出すなって」
「『カッコイイー!』」
ダメだ、親子でハモってる。
『私ね荘ちゃんのお嫁さんになるの!』
灯里が好きなのは荘太だったのか!
そう思った次の瞬間だった。
『私!荘ちゃんに会いたい!』
灯里がそう言ったかと思った次の瞬間、翠先生の陣痛が始まった。
病院に着いた次の瞬間、翠先生は、産婦人科へ、俺は救急外来へと連行された。
有無も言わせずストレッチャーに担ぎ込まれ、『荘ちゃん、もうすぐ会えるね!』と、意気込む灯里の『声』は遠ざかっていった。
立ち合い出産の予定だったのに!
まあ、あれだけ張り切っといて、立ち会えないあたりが笹岡らしいですね。