笹岡家の大ピンチ
「おい、起きろ!」
乱暴に揺り起こされた俺は、鈍痛を感じる頭を押さえながら目を開けた。
目の前の処置台に翠先生が拘束されていた。
「翠先生!」
「大丈夫ですよ、薬で眠っているだけですから」
そう言って出てきた白衣の男に何となく見覚えがあった。
ていうか、さっき、翠先生に怪しい薬をかがせたらしい医者じゃないか!
「翠先生を放せ!この!」
「そいつうるさいな、黙らせろ」
医者がそういうと、俺の背後にいたらしい看護師が俺の腹に一撃加えた。
看護師って、こんなにいかつかったっけ、っていうか、めちゃくちゃ痛い……。
その場にうずくまった俺は、「立たせろ」という医者の一言で、立ち上がらされた。
何か、骨がきしむ音がしたような……。
「これから、面白いものを見せてあげますよ」
そう言うと、医者は、翠先生を揺り起こした。
「んー!んんーー!」
猿轡をかまされている翠先生は、医者を睨みつけながら何か言いたげだが、まったく声になっていない。
『何?ママ?どうしたの?何がどうなってるの?』
翠先生が覚醒したためか、灯里も覚醒したらしい。
「何する気だ?翠先生を放せ!」
「いやあ、あなたには感謝してるんですよ、この人が翠先生って教えてくれたんですからね」
医者はそういうといやらしい笑みを浮かべた。
「まあ、いずれにしても、ここで、あの話をして、逃げられた妊婦は今までに一人もいませんけどね」
「あの話?」
「堕胎の話だよ、堕胎!」
「あ、やっぱり、違法な堕胎をしてたのか!」
医者は、しまったと言いたげな顔をしたが、「まあ、あんたにも死んでもらうからいいか」と、ぼそっとつぶやいた。
あんたにもってことは、全員殺す気か?
でも、俺もつかまってしまった以上、なすすべがない。
「さて、誰から、死んでもらおうか……」
医者は、メスを持って、にやりと不敵な笑みを浮かべた。
翠先生が首を振っているお腹の中で灯里が『イヤだ!殺さないで!』と、叫んだ
「翠先生にも灯里にも手を出すな!殺すなら俺を殺せ!」
「いや、お前一番どうでもいいから」
俺の意見は即座に却下された。
「灯里ちゃん、ですか?まず、お腹の中の子供から死んでもらいましょうか?」
灯里を?
『イヤ!あんたに呼ばれるための名前じゃない!私死にたくない!』
「意識がある状態の妊婦のおなかの上から子供を殺すのはさすがに初めてですね」
そういうと、医者はメスを振り上げた。
「やめろ!」
「黙らせろ」
医者の命令で俺の腹にさらに一撃が加えられた。
痛い、そして、拘束された腕があり得ない方向に曲がっている……。
『イヤだ!死にたくない!助けて!助けて!』
灯里が必死になって助けを呼んでいるが、灯里の『声』は、俺にしか届かない。
……はずだった。
医者が再びメスを振り上げた。
『助けて!荘ちゃん!』
『待ってろ!今行く!』
「……へ?荘太?」