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誰も知らない神の領域  作者: 駿河留守
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ブレイという男②

「どうもはじめまして、僕は魔武専門商社ブレイ商会の社長兼職人兼販売員のブレイ・アルベルトです。よろしくお願いします」

 と満面の営業スマイル。

「よ、よろしく。リュウガ・フォーロンです」

 と若干引き気味のリュウガと握手を交わす。

 ブレイの好意でリュウガの特等席に相席と言う形で座っている。俺たちの正面にブレイという形だ。リュウガのいつも頼む定番メニューということで梅酒の水割りとイカのから揚げが二人前運ばれてきて一度乾杯する。

「それにしても久しいですね。氷華さんの方は元気にしていますか?」

「ああ、元気にしているよ」

 腹に俺の子供を身ごもったことを除いては。

「それと義手変形型魔武の調子はどうですか?」

「特に生活に支障が出るようなことはないようだ。普通に感謝していたぞ」

「それは良かったです」

 笑顔で答える。この笑顔がいつも偽者臭くて気持ち悪い。はじめに梨華のことを気にしたような発言だがそれは後につなげる魔武の状態を確認するための前置きに過ぎない。こいつにとって梨華のことなどどうでもいい。彼が気にしているのは魔武のことだけだ。

「あれを作るのには苦労したんですよ。義手にもできて武器にもなるものがほしいと無茶な注文でしたがなかなか出来のいいものができて僕として満足しています。風也くんの魔武も難しい武器でした。チェーンを魔武仕様にするのに苦労しましたが僕の技術にかかれば難しいことじゃありませんでした」

「そうなのか?どこにでもありそうな魔武だが?」

 リュウガは俺の魔武の仕組みを知っている。魔武は基本的にひとつの魔術師か使うことは出来ない。リュウガが使う銃の魔武は銃弾に陣を描くから銃弾さえ変えれば複数の属性魔術を使うことは可能だが剣のような魔武はそれができない。

「ありそうでなかったものなんです。こういうアイディアは作る側よりも現場で活躍する方のほうが浮かぶものなんですよ。こうしたほうが便利だと思うことが多いのは僕よりも使う側のほうが思う機会が多いはずです」

 アキナの魔力を使っていたがそれをひとつの魔武で出来たら、楽なんじゃないかって思ったのは確かに俺だ。それを形にしたのはブレイだ。この広い世界のどこかで魔武職人のひとりかふたりくらいは二種類の属性をひとつの魔武に組み込もうと考えているはずだが、そんな魔武を使う魔術師はまだ見たことがない。

「そんなに二種類の属性魔術を組みことが難しいんか?」

 梅酒を飲みきって追加を頼みながらリュウガが尋ねる。

「ひとつの魔武に組み込むというのが無理だった話なんですよ。ひとつの魔武に陣をふたつ刻むと贈られた魔力は一番手前の陣にしか魔力が流れないんです。例え、その陣にあっていない波長の魔力が流れたとしても同じです。魔力は一度波長が合ってなかろうが一番近い陣を通ります。それが波長にあってなければ魔術は発動しないんです。つまり、魔力は発動できない陣に吸い寄せられる形になってしまうためにふたつの陣による魔武は不可能でした」

 いわゆる陣の位置の問題だ。魔力を流す手から一番近い陣に魔力は流れる。魔力は陣に吸い込まれるような修正を持つため、いくらすぐ隣に別の魔力を少量しか使わないような陣が合っても魔力はその陣には決して流れない。

「ですが、風也くんが使うような魔武の場合は可能です。二本の剣にそれぞれ別の陣を刻むことで流れる魔力を調整することが別の属性魔術を発動することが可能なんです。後は発動した魔術がもう片方の剣に伝わるようにするだけです」

 俺のチェーンでつながった剣の右には風属性が左には雷属性の陣が刻まれている。右手から風属性の波長の魔力を流せば一番近い陣は風属性となるので風属性の魔術が発動する。左手から雷属性の波長の魔力を流せば一番近い陣は雷属性となるので雷属性が発動する。この陣の位置関係が多属性搭載型魔武を可能にしている。

「これは他の武器にも応用できないか日々研究しています」

「ふ~ん。大変そうやな」

 若干興味なさそうな口ぶり。

「大変ではありますが、やりがいであります」

 素直に答えるところはさすが販売員をやっているだけある。

「それはそうとなんでまた日本にいるんだ?一応、お前はイギリス魔術結社の人間だろ」

 という俺の発言にリュウガが梅酒を吐き出す。

「はぁ!結社の!」

 懐に手を入れる。

「ああ、結社に属していますけど、今日は組織に武器の販売をしてきてその帰りです」

「え?武器の販売?」

 そこに矛盾があることに戸惑う。

 イギリス魔術結社の人間なのに敵対している組織に武器を売るということだ。これは敵に戦力を与えているとことを意味する。それは戦う上で自分で自分の首を絞めている行為だ。

「なんで組織に武器を売ってるんや?まさか!その武器に仕掛けが!」

「ないですよ。それはブレイ商会の信用を失うことにつながるのでそんなことしません。僕はいい品質の魔武をお手軽な値段で提供することをモットーに仕事をしているんですよ」

「・・・・・え?」

 動揺するリュウガは取り出した拳銃をどうするか否か迷っている。

「ちなみにフォーロンさんが握っているその拳銃もブレイ商会の商品ですよ」

「え!マジで!」

「ブリップの底にブレイ商会と刻まれていませんか?」

「・・・・・本当や」

 驚きながら拳銃のブリップの底を確認するリュウガ。基本的に魔術組織が使う魔武のほとんどがブレイ商会のものだと聞いている。その社長兼職人兼販売員であるブレイは多くの魔術組織に顔が利く。基本の所属はイギリス魔術結社ではあるが武器を売りに組織にもやってくるし、黒の騎士団にも足を運ぶ。魔武を売るだけでそれ以上のことはしない。だから、魔術組織の機密情報というものはほとんど所持していない。所持している秘密といえばどの組織がどれだけ魔武を仕入れたかだ。しかし、ブレイ商会はお客様のプライベートや個人情報は秘守することを社訓に掲げているらしく、情報が外に漏れないならと質のいい魔武をどの組織もこぞって欲しがるのだ。

「・・・・・・・」

「なんだ?俺の顔に何かついているか?」

「いえ。機関出身者の割には妙に平和慣れした感じが違和感がありまして」

「機関出身者が平和慣れしたら悪いか?」

「そんなことは一言も言っていません。ですが、その平和慣れはいずれ自分の足元をすくわれることになりますよ」

「はぁ?」

 それはフラグを立てた俺に対する警告だ。

「機関がつぶれた後は商人として世界中を旅しています。旅先で風也くんのように機関出身者ともよく出会うものです。ですが、彼らの話を聞けば一緒に逃げ出した機関出身者の半数が死んだと聞いています」

「なに?」

 半数が死んだってどういうことだという言葉すらも出てこない。

「戦うだけしか能のない獣が戦うことをやめればそれはただのカモです。機関出身者の多くは僕が作った魔武を持っています。機関がつぶれた当時はまだ貴重だった魔武は教術師へ近づくための神の武器でした。それを機関出身者は所持している。確かにあの地獄のような生活を生き抜いてきた猛者のみが生き残り機関から出ることができた。正面から正々堂々と戦えば勝ち目なんてありません。しかし、彼らがほしがって平和を与えることで油断させた彼らを不意打ちして魔武を奪ったという話を聞いたことがあります」

 脳裏に浮かぶのは小さな山小屋の中が血の海と化す光景。俺も機関から出て一度だけ目にしたことのある光景だ。俺と梨華、それに雷恥、火輪と共にもうひとりの機関出身者と俺の生まれ育った土地を目指しているときだった。山賊に襲われたのだ。そのひとりを置いて食料調達に出た俺たちが戻ると残っていたのは血の海の中に沈むそいつの姿だった。

 常に命の危険な日々から放たれた俺たちは常に敷いていた警戒を解いてしまっていた。その行為が原因で足元をすくわれた。

 ブレイはその平和慣れしてしまっていると俺に忠告した。

「僕と風也くんは長年の友人です。これからも仲良くやって生きたいと思っています。そのための忠告です。一度、戦場に出て感覚を取り戻すと良いでしょう」

「簡単なこと言うなよ」

 出されていた梅酒を飲もうとするがすでに空だった。ごまかすように飲み続けていたようだ。追加を頼んで隣のリュウガを見るとすでに酔いつぶれていた。まだ、梅酒を水で薄めたものを2杯しか飲んでいない。どれだけ酒に弱いんだよとツッコムのは面倒だ。

 追加の酒が来るとブレイはうれしそうに俺に教えてくれた。

「近いうちに大きい戦いが勃発すると思いますよ」

「大きい戦い?」

 現在の情勢を整理すれば、MMの逃亡戦争でイギリス魔術結社は多くの戦力を失い、残った戦力も疲弊しているために戦争を行える状況ではない。組織の方も安定している情勢の中を掻き乱したところでメリットはないと戦争を仕掛ける気はさらさらない。黒の騎士団に関しては戦いを否定する平和を目指す魔術組織だ。大きな戦いが起こる気配は感じられないが、世界各地で魔武を売る武器商人であるブレイは感じていた。

「結社も団も組織も大量の魔武を購入しています。たまたま、大量補充の時期が重なったとは到底考えられません。何かに備えるように武器をそろえ始めたとしか考えられません」

 武器をそろえるということは何かの準備をしているということになる。

「だが、戦争になりうる火種は何だ?俺には見当がつかないぞ?」

 ブレイが酒を一口飲んで仮設を語る。

「3大魔術組織が何かを警戒しているようです。見えない何かを」

「見えない何かってなんだ?」

「とても大きな力だそうです」

 3大魔術組織がこぞって警戒する力として最初に浮かぶのは俺たちと共に機関の地獄を過ごした暴風娘こと風見風夏のことが浮かぶが戦いを異常なまでに拒むあいつがそんな戦いを誘発するようなことは絶対にしない。なら、その大きな力とは何だ?

「噂ですよ。別に黒の騎士団とイギリス魔術結社の魔術師たちから聞いたわけじゃないんですよ」

 聞いたんだな。

「破壊と創造を司る神の力が要因であるといっていました」

「なんだ?それは?」

 破壊と創造って聞いて浮かぶ力が尋ねてから思い出す。破壊と創造をすることができる教術を持つ男だ。元はシンの力だったものを継承して使いこなしている教太の姿が浮かぶ。

「あ」

「おや?覚えがあるようですね」

 あるも何もつい数日前までいっしょにいた人物だ。だが、あいつがそこまで巨大魔術組織を警戒させるほどの巨大な力を持っているかといわれたらまだ持っていないとしか言いようがない。

「仮にその神の力が要因だったとしてその力が何を起こすって言うんだ?」

「第4の勢力図の構築です」

「第4の勢力図?」

「現在のこの世界に魔術組織は100近く存在しますが、中でも飛び切り強いのが3大魔術組織です。名前は知っていると思うので省きますが、それと同等かそれ以上の組織がその神の力によって生まれようとしているとのことです」

「具体的にはどんな組織になるか知っているか?」

 するとブレイはう~んと悩んだ末に答えた。

「あまりに確定情報ではないですが、魔女と規格外と天使、それと悪魔術の使い手などなど、噂では組織、結社、団の人間も取り込んでいるとか言うものです」

 教太のやついったいここを出て何をやっているんだ?

「でも、これはあくまで噂ですよ。実際にどうなのかは武器商人である僕には教えてくれませんでした」

 外部に情報が漏れるようなまねをそう簡単にするわけないか。

「ですが、噂で魔術組織が武器をそろえることで僕の懐が潤うのはありがたいことです。今後もよろしくお願いしますね」

 そういうと酒を飲みきって御代をテーブルの上に置くとかばんの中からメモ帳とペンを取り出した。

「僕は明日までこの町に滞在する予定です。場所は組織本部近くのホテルです。魔武のメンテナンスなどの用事があれば寄ってください」

 切り取ったメモ帳に止まっているホテルの名前と部屋番号が書かれていた。

「今の情勢は近年例を見ないほど、不安定です。気をつけてくださいね」

 それだけ言って出ていった。帰るブレイに飲み屋のおっちゃんが威勢のいい声で感謝の言葉を送るとブレイは戸を閉めてその影は消えた。

 実際のところどうなんだろうか?

 あいつの言うことの信憑性は高い。商人として嘘をつくような真似はしない。それは客商売をする上で客に信用してもらうための重要な立ち振る舞いだからだ。それを人によって変えるようなやつじゃない。だから、3大魔術組織が大量の魔武を集めて何かに備えていることも教太を中心とした第4の勢力図のことも実際にある話なんだ。

 酒を一口飲んで冷静に考える。

 教太が国外に出ようとしたときにMMが直接止めに出てきた。教太を国外に出すことが彼女にとってデメリットだから止めに来た。そのデメリットとは何か?考えられるのは古代魔術兵器のことだ。国を破壊するというその兵器の発動素材に教太が入っている。それを警戒してか?警戒して止めに来たのなら効率のいい方法として教太を直接殺せば早い話だ。教太たちを元の世界に帰させないようにしたりとMMの不審な行動が気になる。何かたくらんでいることは確かだ。だが、それが第4の勢力図と果たして関係があるのか?

 古代魔術兵器と第4の勢力図。このふたつのワードが気になる。

「どうしたんや?風上?」

 眠っていたリュウガが目を覚まし不思議そうに顔をのぞかせる。

「・・・・・なんでもない」

 酒を飲み干す。

 難しく考えても仕方ない。今はアキナをどうするかだけを考えるとしよう。下手に首を突っ込めば立てた死亡フラグを回収することになる。それだけは梨華のためにも避けなければならない。

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