ブレイという男①
この世界に万能な人間など存在しない。魔術に関して抜け目のなくその知識力で俺たちを何度も救って魔女として恐れられてきたアキナも人間なのだから苦手なものがひとつやふたつあってもおかしくない。
「だが、あそこまでひどいとは・・・・・」
「驚きやったな」
今は町をリュウガと共に歩いている。日本の中枢機関である中央局が設置されている天守閣を望む城下町だ。少しばかり木造の平屋建てに整備の届いていないあぜ道の日本の雰囲気が残る区画にいる。日は傾きオレンジ色の空にヒグラシの鳴き声が響く。
いつもリュウガと共に動いているリンはアキナをひとりにするわけにはいかないということであの山の家にここ数日ふたりで寝泊りしている。女子の聖域に男は近寄るべからずということで俺とリュウガはこうして城下にやってきているのだ。
「冷静に考えてみたんやけど、アキナが魔術以外の武器を使っているところを見たことがないな。風上はアキナと付き合い長いのに知らなかったんか?」
「知らなかった。そもそも、アキナは魔女だ。魔術を使えば右に出るものがいない存在が武器を使う必要性があると思うか?」
ないっときっぱり答えるリュウガ。だが、非魔術師となったアキナはこれから魔術に頼ることはできない上で教太たちと同じステージに立つには魔術以外の戦う手段を身につける必要がある。しかし、今の状況を見ていると無理な話だ。助けてやりたいのは山々なのだが戦うのはアキナ自身だ。何か別の方法を探すほかないようだ。
「まぁ、切羽詰って考え込むよりも少し開放的な雰囲気で考えたほうが明暗が浮かぶかもしれないで」
「・・・・・そうかもな」
気づけば回りは赤いちょうちんはぶら下がる飲み屋が並ぶ通りにやってきた。明るい笑い声が聞こえる。俺たちを悲観的に見る目も少し気になるがそれはごく少数だ。組織の人間が嫌われる町ではあるがここは違う。拳吉が隔たりを壊して魔術師も非魔術師も関係なく交流できる場所だ。俺もリュウガもここで飲むことは嫌いではない。
「飲みながら考えようや」
リュウガに一軒の店に連れ込まれる。
ここ最近根を詰めすぎているかもしれない。アキナのことはもちろんだし、MMの元に行ったきり詳細が分からない美嶋さんが心配であるし、教太も国外へ行って無事であるかどうかも気になる。少しばかり羽を伸ばして整理するのもいい機会かもしれないと店の中に入ると威勢のいいいらっしゃいませという声にリュウガが笑顔で答える。
「おっちゃん!また来たよ!」
「フォーロンのにーちゃんも物好きだね」
どうやらここはリュウガの通いなれた店らしい。
「あれ?俺の特等席に誰か座ってるやんか」
店の奥のテーブル席を指差す。そこにはひとりの男が陣取っていた。長い艶のある黒髪はまるで女のようだが細身だがしっかり引き締まった体つきは男そのものだ。テーブルには熱かんが2本とつまみの枝豆があり、すでに飲み始めている。
「先に座られてるなら仕方ない。別の席にするぞ」
「え~」
なんで急に子供っぽくなるんだよ。
リュウガの駄々をこねる声に気づいた客が振り返る。
「どうしました?」
透き通った美声。それは男によるものかどうか疑ってしまうものだった。そして、その顔立ちはまるで美青年。女なら誰もが恋焦がれる顔立ちをしたその男を俺は知っていた。
目が合うと美青年の男も俺の顔を見て気づく。
「風也くんではないですか!」
男の反応にリュウガが反応する。
「知り合いか?」
「あ、ああ」
なんでこんなやつがこんなところにいるんだよっとツッコンでしまいたいのは山々なのだが顔に見合わないところがたくさんあることを俺は知っている。付き合いは長く機関にいるときからの知り合いだ。だが、彼は属性の名を持たない。なぜなら、彼は機関側の人間だからだ。
「久しぶりって言っても数ヶ月ぶりか?ブレイ」
「そうですね、風也くん。大切に使っていますか?あの多属性搭載型魔武は?」
彼の名はブレイ。ブレイ・アルベルト。機関で武器職人として働いていた男だ。そして、魔武というものを発明して世界中に広めた男でもある。




