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誰も知らない神の領域  作者: 駿河留守
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前へ進む①

 教太さんはシンさんの力の解明を目指して私とは違う魔女、イム・ハンナのところに行ってしまった。私としては教太さんたちと同じ立場で戦うためには今のままではダメだと自覚している。MMに渡された魔石によって暴走的に魔術を使ったことで私の持つ魔力に甚大な被害がこうむった。そのせいで私は生命維持に必要な魔力すら供給ができなくなった。そのために私の回復力がなくなった魔力は剥奪されて生命維持に必要な魔力を供給されて私の体調はようやく安定し始めた。だけど、供給された新しい魔力は生命維持以上の魔力は存在しない。つまり、私は魔術を使うことのできない非魔術師(アウター)になってしまった。

 かつて、魔女と呼ばれてその名を聞けば誰もが震え上がった美嶋秋奈という魔女は魔術を使うことのできない非魔術師(アウター)となったことは誰も信じてくれないだろう。あの魔女が魔力を失うなんて考えられないと。

 清潔な病室のベッドの上で力をなくして自分がこうも無力であることに無意識のうちに涙が出てしまった。私にできる精一杯のことは魔女だったころから持っている魔術の知識程度になってしまった。魔術とはひとつの技術だ。技術というのは常に確信を繰り返して進化していく。魔女だった私が魔術を使えないのならその技術を触れる機会も減って魔女の知識というのも劣化し使い物にならなくなる。

 教太さんは自分の力の解明に勤しんでいる。なら、私にできることはなるべく魔術に関わり続けることだ。例え、非魔術師(アウター)で魔術が使えないとしても。魔術と関わるということは必ずといって良いほど戦いに巻き込まれることが多い。魔術以外に戦いの手段を身につける必要がある。

 だから、私はこうして剣を握っている。

「うぎゃ!」

 腰が高い。

「は、はい!」

 一振り。

 飛んでいく木刀。

「木刀って飛び道具なのか?」

「そ、そうなんですよ~」

「とって来い」

「はい」

 私ってセンスないのかなっと感じてしまう。

 しっかり握れって言われたら硬い、力入れすぎだって言われたので力を抜いて木刀を振ったら木刀が飛んでいく。まさか、木刀が飛んでこないだろうとまったく予想していなかった風也さんの顔面が直撃する。それ以来、私が木刀を振るときはいつも身構える。さすがに何度も飛ばしませんよって言いながらもこれで何回木刀が手元から飛んで行ったか分からない。

 私の家の庭でこうして剣の鍛錬を始めて2日目。リュウさんとリンさんが冷やかして私の様子を見に来てくれる。

「アキナってそんなに運動できなかったか?」

「そういうわけじゃなかったんですけど・・・・・」

 一応、魔術を帯びた杖を振り回して攻撃したりしていたのでまったくできないというわけじゃない。でも、杖と剣では何か持ったときの感触が全然違う。杖は私の意志で簡単に殺傷能力を抑えることができる。それは魔術が使えたからだ。魔力の供給を絶てば杖はただの棒と化して殺傷能力はほぼなくなる。対して剣は魔術を使おうが使わないが人を殺すことのできるものだ。今までの戦いを魔術に依存してきた私には知らない感覚だ。その緊張が私の体を強張らせる。

 力の入れ方、戦うときの感触が魔術と肉弾戦では全然違う。それは魔術を使って間接的だったものが私の手で直接人を傷つけるということに変わっただけだ。私がどれだけ魔術に依存していたか分かる。私は魔術を挟むことで人を傷つけることに慣れてしまっていたことに恐怖した。

 ここまで私が魔女だったことに後悔したのはなかった。

 震える手は木刀を握る力を奪い取り、それに抗えば剣は振ることはできない。これの繰り返しだ。

 早まる鼓動と早まる呼吸の音しか聞こえない状況の中で気持ちを整理しようにもできない。私はいったいどれだけのことをやってきたのか。どれだけの人を殺めてきたのか。魔女としてやってきたことの行いが剣を握ったことで恐怖として戻ってきた。

 そんな恐怖に引き連れ困れそうになったとき―――。

「アキナ!」

 私を呼び声がして私の世界は元に戻る。

 風也さんが私の肩に触れると早まっていた鼓動と呼吸が元に戻っていく。

「少し休憩しよう」

「・・・・・はい」

 私は弱かったんだ。

 秋奈さんに生命転生術を施して全盛期の4分の1まで力が落ちてしまっても私は戦えていた。でも、それは私の力じゃなかったって今こうして強く感じる。剣を握っただけで恐怖で震えるような弱い存在だった。

 リンさんが用意してくれたお茶菓子をぽりぽりと食べながらその弱さに絶望する。

「アキナは全然剣はダメやな」

 木刀を手にして一振りしながらリュウさんが語る。

「センスがない以前に何か悩んでいないか?」

 風也さんはまるで私の心が分かっているかのような鋭い質問を私にぶつける。

「ど、どうしてですか?」

 へたくそな笑みで図星をごまかす。

「なんというか剣に迷いがある。そのせいで剣がアキナの意思に答えてくれない」

 まさに図星だ。

「剣を振るだけで分かるものなの?風也ちゃん?」

 リンさんが尋ねる。

「持ち主が剣で斬ることをためらえば斬撃の重みやキレが劣る。それは例え持ち主が素人とであってもそうだ。もしも、斬ることにためらいなかったら素人でもそれなりの斬撃を生み出すことは可能だ」

 風也さんはその素人が誰なのか知っている。そして、私自身もその素人さんを知っている。私のために秋奈さんのために自らの体を犠牲にして運命に抗いながら戦い続ける一人の少年の背中。扱う剣はすべてを無条件で破壊する絶対の剣。彼はその剣にすべての想いをこめて戦う。私にそれができるだろうか?

 思い悩む私はひとつだけこの弱い私を打開する方法をひとつだけ見出している。でも、それは私にとって前と何も変わらない。弱い私のままだ。教太さんと同じように秋奈さんを安心させるだけの強さを私も身につける必要がある。なら、現状から更なる飛躍を求めて変わらなければならない。そのために私が見出したひとつの打開策は最終手段として胸のうちに秘めて木刀を握る。

「そうや」

 急に何かを思いついたようなリュウさんが黒のロングコートの内側からあるものを取り出した。ボディに龍の彫刻が彫られている黒い拳銃。これはリュウさんの魔武だ。銃を打ち出すのと同時に魔力を流すことで銃弾に刻まれた魔術が発動した状態で銃弾が打ち出されるという仕組みになっている。魔術を剥奪されて非魔術師(アウター)だし、そもそも私が持っていた魔力の波長は雷属性だ。魔術が使えたとしても私にこの魔武は使いこなせない。

「剣がダメなら銃ならどうや?」

 魔武としてではなく武器として私が拳銃を使えるかどうか試そうということか。

 銃口を自分に向けて私に銃を渡してくる。そのリュウさん愛用の銃を手にするとずっしりと重い金属の冷たい感触が伝わる。

「こんなに重いんですね」

「銃自体の重量もあるが、銃弾にこめられた弾薬がその重さに拍車をかけているんや」

 そうなんですかと相づちを打つ。銃は重い物だってことは知っていたけど、それが弾薬も影響していることは初めて知った。

 適当に右手をまっすぐにして構える。

「それやと銃を撃った衝撃に耐えられないで。銃を構えるときは左手を添えて少し腕を曲げる感じで衝撃を腕間接で吸収できるような構えが必要や」

 リュウさんが私に構え方に足りない点を直接私の体を動かして理想の形を作ってくれた。

「後は安全装置をはずして引き金を引くだけや。銃の先にあるフロントサイトと手前にあるリアサイトで当てたい目標に銃をあわせて狙ったら引き金を引く」

 銃の部位の名称を指を刺しながらリュウさんが教えくれる。しっかり銃を燃えこげた木に狙いを絞る。絞り終わったと判断したリュウさんはゆっくりと離れていく。そして、私は銃の引き金を引いた瞬間、破裂音と共に銃弾が銃口から撃ち放たれる。その衝撃に負けて私の体は後ろに押し倒される。銃弾が目標の木の上の枝に当たる。

「全然ダメだな」

「そうやな」

 風也の呆れる発言にリュウさんも同じように賛同する。

 私って武器を扱うセンスないのかなっと銃に勢いに負けて倒れる私はしっかり銃を握ったままだ。

「あ!」

 危険を察知したリュウさんが縁側にのんきに座っているリンさんに飛びついてその場から強引に移動させる。同時に後ろから倒れた私はその倒れた衝撃で銃口を引いてしまった。撃ちだされた銃弾はリンさんが座っていたところを通過して家の中の食器棚に直撃してガシャーン、パリーンといろんなものが壊れる音が家の中から聞こえた。

 もしも、リュウさんがリンさんに飛びついていなかったら銃弾は食器棚じゃなくてリンさんに当たっていた。そう思うと自分の顔が真っ青になっているのが見なくても分かる。

 体を起こして家の中をぞっとしながら眺めていると無言のリュウさんがやってきて銃を私から奪うように貰うと懐にしまう。

「アキナ。お前は銃を握るな」

「・・・・・・はい」

 その後、風也さんと共に木刀をひたすら振り続けるも上達は一向に見込めなかった。

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