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誰も知らない神の領域  作者: 駿河留守
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風は起きる①

ほぼ10年ぶりくらいに注射器に刺された駿河ギンです!

次の領域最後まで読んでくれるとうれしいです!

 この世界には死亡フラグというものが存在する。

 映画館で働いている梨華と共によくふたりで映画を見たものだ。恋愛ものからファンタジー系、コメディーに戦争もの。特に戦争ものを見るのはお互いに見るのが好きだった。実際の現場を知っている俺たちからすれば、ありえないことの連続でもはやただの娯楽としか感じることができなかった。そうやって今まで死と隣りあわせだった環境を娯楽として見られる幸せをかみ締めることができるのがその戦争ものの映画を見ることへの抵抗がない理由なんだろう。逆にありなさ過ぎて笑える。例えば、目の前に敵が迫っている中で愛の告白や濃厚なキスをするようなシーン。いやいや、もう目の前にて来てるからそんなことしている場合があるなら逃げる方法だの迎撃する方法だの作戦を考えろよ。敵も敵でなんでその隙を狙わないんだよと心の中でツッコミを入れながら俺と梨華は映画を見ているのだ。

 そんな中でも共感できるようでできないものがある。それが死亡フラグというものだ。

 家族や恋人の写真を見せたり、これが終わって家に帰ったら何か幸せなことがあるといったことを戦場に出る前に主人公に見せてしまったものは大抵真っ先に死んでしまう。生き残りたいという強い欲が裏目に出てしまったがためだ。機関にいたときはここから出たいという意思を強く持っていたのは師匠である風氷のサーベルタイガーとその側近であった俺たちだ。だが、こうして俺たちは生き残っているが脱出を試みたものは真っ先に死んでしまっているのもまた事実だ。

 死亡フラグを立てることは危険な行為であると教える必要性があると俺は感じる。

 そんな死亡フラグの恐ろしさを十分に承知している俺にそのフラグが立つ。

 それはマラーという非魔術師(アウター)たちのことについてMMと交渉するために教太と共に魔術の世界に発つ三日前のことだ。

 その1週間ほど前から梨華の体調が優れなかった。吐き気を催してどこかだるそうな感じだった。回復魔術も治癒魔術も施したが一向に改善の余地が見込めないことから、苦労して保険証を作って梨華を病院へ向かわせた。そして、帰ってきた梨華は妙に顔を赤らめて俺にある書類を渡してきた。そのとき、終始俺とは目をあわせようとしなかった。

 その書類には妊娠の陽性反応があったことが示されていた。

 そう、梨華の腹の中に新しい命が宿っていたのだ。

 俺は素直に喜べなかった。逆に困惑した。俺と梨華はまだ結婚もしていない。恋人という関係から発展しようという考えを互いにしていなかったのが要因だが、一緒に夜を過ごすという日は少なくはなかった。だから、こういうことが起きても何も不思議じゃなかった。

 その日はアキナの元へ帰って一晩考えた末に俺はフラグを立てることにした。

 梨華に帰ってきたら子供のためにも結婚しようと約束をした。それが出発する3日前のことだ。こうして俺は帰ったらお腹に子供がいる恋人と結婚するといういかにも速攻で戦場で死んでしまうようなモブのフラグを確立してこの世界へとやってきた。

 立てたフラグはかなり強力なものだったのだろう、俺たちは教太たちの世界へ帰ることができなくなってしまった。それからフレイナに襲われたり、イギリス魔術結社の七賢人に背中から刺されるし、黒の騎士団の天使に襲われりともはや死神でも取り付いているのではないかと思うくらい命の危機に何度も直面したが俺はこうして生きている。

 とある映画で死亡フラグを建て続けるのにまったく死なないようなやつもいた。俺もきっとその類なのだろうと強く思った。

 異世界に残した家族のためにも俺は死ぬわけにはいかない。生き残ることが絶対だ。それは誰も殺さない死なせない教太の意思に沿う。だから、俺は死なない。しかし、その教太も今はこの国からいなくなりこれからどうすればいいのか分からないまま二日が過ぎたある日だった。

 焼け野原となったアキナの家の周りに少しでも緑をとリュウガとリンと共に植林していたときだった。退院したアキナはそこにいた。妙に改まった真剣な眼差しで俺に深々と頭を下げて頼んだ。

「私に剣を教えてください!お願いします!」

 俺の立てた死亡フラグが風を受けてなびきだす。

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