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誰も知らない神の領域  作者: 駿河留守
真の領域
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行く道は異なる③

 俺の知る神の法則は何なのか?

 その結論を導き出すには俺は知らないことが多すぎる。その知らないことをひとつずつ解決していくほかない。この魔術の世界に来たのは蒼井たち非魔術師(アウター)を守るためにその交渉をするためにこの世界にやってきた。だが、今の俺は交渉する相手から逃げるようにオーストラリアにやってきて今まで分かってきたと思っていた神の法則が不足している点が多く存在した。しかし、シンはこの力を科学だということで間違っていないという答えを出してくれている。だが、それが本当にすべてなのかそれを確かめるために俺は再びこの異世界中を飛び回ることとなる。

 4日前にオーストラリアにやってきたときに活用した時空間港だ。多くの人がそれぞれの目的地である異国へ向けて時空間魔術の準備が整うまで本を読んだり土産を選んだりして時間を潰している。

 俺たち、香波、サイトー、ハンナ、キュリー。そして、風夏とレナの7人は時空間港のロビーの一角でそのときを待つ。

「どういう経路でイギリスに向かうんや?」

 サイトーが一応黒の騎士団として俺の動向を確認のうえでキュリーに尋ねる。

「とりあえずはインドネシアに入った後に結社のルートで一気にイギリスまで飛ぶ」

「結社のルートってなんや?」

「さすがにそれを言えるわけないでしょ。こうして争わずに協力しているけど、一応敵対関係であるってことを忘れてもらったら困るわ」

 確かにそのとおりだ。

「というかインドネシアって黒の騎士団にイギリス魔術結社の組織が使っている国なのか?」

「元々、数多の島々からなる国ですので多文化の受け入れに抵抗がない国なんだそうですぅ。だから、ふたつの巨大魔術組織がここの時空間港を利用しても何もおかしな点はないんですよぉ」

 大きなあくびをしながら答えた。時間帯的にハンナは普通に寝ている時間だ。

 風夏とレナは見送りで他のメンバーは一度インドネシアに渡ってそれぞれの目的地へと向かう。俺とキュリーとハンナはイギリスへシンの痕跡を探しに行く。香波とサイトーはアメリカの黒の騎士団の本部で香波の再び悪魔術を自分のものにするための対策を建てに悪魔術の使い手のデニロの元の教えを請いに向かう。

「いがみ合わない。戦いを起こすというならここで」

 風夏の冷酷なる一声でその場はいったん沈静化する。

 すると風夏の見下す目と合うと噛み付くように声を張る。

「なに?」

「え?」

 なんか急にけんか売られた気がした。

「戦いで戦いを失くそうとするわたしの考えが違っていることが証明できたことがそんなにうれしい?バカみたいなわたしを見て心の中で笑ってるんっしょ?」

「はぁ?いや、そんなわけないだろ」

 なんで急に嫌味を言われなきゃならないんだよ。俺はただ目の前の香波を助けようと必死になっただけだ。別に風夏の言うことを完全否定させて辞めさせるつもりでやったわけじゃない。

 でも、風夏は一呼吸置くとすぐにいつもの穏やかな風潮に戻る。

「今回はあなたの宣言どおり力以外の方法で戦いを止めた。戦いを止めるのに力以外の方法もあるのだとわたしに示された」

 風夏の考えは間違っているかと言われたら違うとは言い切れない。MMのように絶対的力の前に立ち向かおう、戦おうという意思すらも感じさせないようにすれば戦いは起こらない。魔術という存在を俺の住む世界から消したい、失くしたいといっておきながら自分は教術を使う矛盾と常に戦っていた。その矛盾こそが唯一無二の力を発揮することもある。それを俺はこの身で経験してきている。

「だけど、力で止めるべき場面は必ず存在する」

 俺も香波を止めたのは最終的にはシンの力だったように。

「全部を否定するよりもある程度の肯定してあげることが風夏のいう戦いって言うのがなくなっていくんじゃないかって俺は思う」

「肯定する?」

「戦いが起こるって言うのは相手の主張を完全に拒絶するところから始まる。どうしても認めてほしいその相手は力ずくで認めさせようとする。その価値観の違いが戦いを生む要因なんじゃないかって俺は思う」

 例えば、俺をめぐった組織と黒の騎士団の戦いが起きている。黒の騎士団は古代魔術兵器の発動素材である俺から教術を剥奪して剥奪した力を処分することで世界の均衡を保とうと主張した。対して組織は剥奪した教術を乱用するのではないか、または自分たちも古代魔術兵器を発動させようとしているのではないか、その不確定要素がある以上はその主張は飲めないと拒否した。これが原因でMMとアテナが真正面から激突した。

「・・・・・確かにそれも戦いを生み出す要因になる。でも、わたしを勧誘することでおきる戦いはどう止めればいい?わたしがその勧誘に乗れば他組織が黙っていない。人質を使ってくるかもしれない」

「それに関して俺は何も心配していないぞ」

「なぜ?」

 と首をかしげる。

「風夏は自分で組織を作ったことでその勧誘はどうなった?」

 自分で言ったことなのにはっとする風夏。

「結局のところ風夏はすでに戦いをせずに戦いを沈めているじゃないか。力がすべてじゃないってことをすでに風夏はその身で実感しているんだ。その主観を忘れないでほしい」

 それが人を殺さないという俺の意思につながるのだから。

 ため息を吐いて近くのベンチに腰掛ける風夏は若干軽蔑したような上から目線になる。

「甘ったれてる」

「はぁ?」

「そんな美化的思想が通用するわけがない」

 たった今、ある程度肯定することも戦いをなくせるんじゃないかって言ったばっかりなのに完全拒絶されている模様。

「でも、その考え嫌いじゃない」

 それは俺の意見に対する肯定だった。冷たく殺気立てる風夏の風貌が少しばかり柔らかくなった気がした。

「国分教太。あなたの意見を尊重してレナ・エジソンの命を奪うことは今はしないようにする」

「本当か!」

 その言葉に俺はほっとしている。今日までは俺たちが目を光らせていたおかげで風夏はレナに攻撃をしてこなかったがいざその監視の目が離れたら、風夏はレナを殺すだろうと心配だった。だが、アメリカに移動させるわけにも行かない。どこにイギリス魔術結社にレナの所在が漏れるか分からない。ここが一番レナにとって安全なのだ。

「わたしも戦わずして戦いを止める努力をする」

「風夏・・・・・」

 一番安心するのはレナだ。自分の命を狙う最大の敵と常に過ごす重圧は俺には想像することはできない。それを事実上解消することを風夏は告げたことにレナは安堵の声を漏らして俺の方を見る。

 別に俺は何もしていない。今の風夏の発言は何を隠そう彼女自身の言葉だ。

「だから、そこの七賢人」

 それはキュリーのことだ。

「レナ・エジソンは殺したことでいいっしょ。殺されたもうひとりの七賢人を犠牲にして」

 いやいや、なんでそんなけんか売るような話し方するんだよ。

 内心キュリーさんが殺された味方のことを思って戦いが起こるのではないかと焦るがキュリーさんはあっさりとした返答が飛ぶ。

「分かったわ。結社にはそう伝えるわ」

 その場の誰もが驚愕だった。

「いいのか?味方が殺されたのに?」

「別に味方だとは思ってないわ」

 その言葉にはまったく感情というものを感じることができなかった。

「私の反応から分かるように結社は一枚岩じゃないのよ。結社の中にも統括機関の元老院というのと実行機関の七賢人の間で大きな隔たりもある。七賢人内部でもいくつかの一派があってたまに命令違反して除籍される魔術師や教術師も珍しくない」

 その隔たりがキュリーさんと七賢人は第3の男の間にもあった。

「師であるロズを除籍して私を七賢人に昇格させたのはゴンザレスよ。向こうは良かれと思ってやったみたいだけど、こっちとしてはいい迷惑なのよ」

「なんで?」

「結社は命令違反を犯し続けるロズの籍をどうするか話し合っているところだった。ゴンザレスはそこに私を新しい七賢人の候補に名前を挙げるとすぐに私に七賢人の籍が与えられた」

 その言い方だとロズの代わりの七賢人候補がいなかったみたいな言い方だ。

「ロズは帰る場所を失ってこの世界中のどこかにいる。死んでいない。私はそのロズを見つけるためにこの七賢人の名前を仮として譲り受けた」

 それで最初に仮だって言っていたのか。

「別に結社を嫌っているわけじゃない。嫌っていたら七賢人なんてそもそも引き受けていない。この魔術世界において重要な役割を果たした結社はこれからもこの魔術世界をリードするべき組織だと私は思っている」

 イギリス魔術結社を肯定する発言だ。それならイギリス魔術結社が発動しようとしている国を破壊するという古代魔術兵器の発動も賛成なのかと思ったがそうではなかった。

「だけど、カントリーディコンプセイションキャノンの発動だけは私は許さない。私とあなたたちは敵対関係だけれどもカントリーディコンプセイションキャノンの発動だけは阻止しなければならないという考えは一致するでしょ?」

 全員の目はそのキュリーの意見に対して反対はいないようだ。この場にいる全員の意思は一致していて安定している。敵対組織のやつを隣にして誰も争わない。つまり、誰も殺されないこの関係は壊してはならない。右手には創造の力も備わっている。

「なら!」

 俺は立ち上がってみんなの前にその右手を出す。

「ここで誓いを立てよう!ここにいる組織加担者である国分教太はこの場にいる敵対組織と同じ古代魔術兵器の発動を阻止するという意見の一致を確認してここに新たな協力関係を樹立しよう!参加するやつは手を!」

 誰も殺さないための手段のひとつとして俺が導き出した答え。それはみんな仲間になることだ!

 それに笑顔ですぐに手を添えたのは香波だった。

「私!黒の騎士団第1分隊所属の城野香波は協力関係に参加する!」

 俺の方を見た。満面の笑みで。

 ついで香波の上に手を添えたのは。

「僕ことレナ・エジソンは命を救ってくれた教太のために協力関係に参加する。僕のエネルギー論が恩人の教太のために使えるのであれば!」

 レナも同じように笑顔だった。

「ワイ、黒の騎士団の第2分隊長のトモヤ・サイトーも古代魔術兵器発動阻止のためにその協力関係に参加するで!」

「同じく黒の騎士団第3分隊長のイム・ハンナも面白そうなんで参加しますぅ」

「イギリス魔術結社の七賢人は第5代理のキュリー・シェルヴィー。この協力関係に参加し、世界を脅かす兵器の発動阻止に全力を尽くす」

 俺を合わせた6人が手を添えて最後に手を添えたのは戦いを嫌う風夏だった。

「オセアニア魔術連合の風見風夏も戦いをこれ以上広めないために協力関係に参加」

 しぶしぶのように見えるが添える手に人一倍力がこもっているように見えた。

「おっしゃ!みんな忘れるなよ!ここにいるメンバーは敵じゃない!味方だ!互いに協力して同じ目的に向けて情報の共有をしよう!分かった!」

 おー!っと掛け声を上げてその差し出した手を高々といっせいに天高く上げる。

 俺には見えた。右手のシンの力がこのバラバラな7人の関係をつむぐ糸を作り出す様子が。

 その誓いを見計らったように褐色の肌の屈強な男が俺たちを呼ぶ。レナと風夏に見送られながら俺たちはそれぞれの目的地へ。

 俺を中心に出来上がった不安定な協力関係は今後の俺に大きく影響していく。MMの言った影響力のある力は振るうべきだという考えが少しばかり分かった気がした瞬間でも合った。俺の持つシンの力は影響力のある力でその力は敵対という関係を破壊して協力するという形を作り上げた。

 ここに出来上がった協力関係という名の俺を中心とする組織は例を見ない強力な人員となっていることに俺はこのとき気づいていない。

 巨大魔術組織の幹部を3人とそのうちひとりが魔女であり、悪魔術の使い手と規格外の魔術師と新しい可能性の考えを持った非魔術師(アウター)。この組織は世界最大の魔術組織と対等とも言えるであろう組織になりうることを俺は知らない。それは神の領域にもっとも真実の領域に真の領域に達したものにしか分からないことかもしれない。

これにて真の領域はおしまいです。

最後まで読んでくれてありがとうございます。


今回のお話はエネルギー論とかいう少し難しい単語が出てきたと思いますが、これは私が卒業研究に着手した影響があります。研究室で奴隷のように毎日拘束されて且就職活動をするという過酷な日々を送っています。

ですが、小説はこつこつ書き進めているので今後も応援よろしくお願いします。

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