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誰も知らない神の領域  作者: 駿河留守
真の領域
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行く道は異なる①

 真っ暗でじめじめとした地下牢のような部屋に転がっている人物。手足を手錠で拘束された薄い金色の髪に白い肌の女が石造りの壁に背もたれてじっとうずくまっている。近くのテーブルの上にはその女が所持していた剣やカードが置かれている。

 俺はここ3日毎日のようにその女の下に通っている。

「・・・・・今日は何の用?」

 この部屋の扉を開けると女はつかれきったような表情で俺の方を見る。

 薄い金色の髪に白い肌の女性はイギリス魔術結社の七賢人は第5のキュリー・シェルヴィーだ。色白できれいだった彼女も3日の間何も飲まず食わずで拘束されたままこの部屋にずっといる。食事は用意されるのに手をつけず太陽の光は差し込まない暗い部屋であれだけ剣士として堂々たる態度で規格外の風夏とも互角やりやったその態度も見る影もなくなってしまっている。

「・・・・・また、食べてないのか?」

 脇においてある食事。コッペパンと水の入ったコップは今日も手がつけられていない。

「意地を張るのはいいけど、このままだと死ぬぞ」

「敵に情けをかけるくらいならいっそ私はここで死ぬわ」

 一度、決めたことを曲げない面倒な頑固さだな。

「言っておくけど、私は自分の力のことに関しては何も話す気は無いわよ」

 キュリーの力というのは魔術を発動させずとも魔術を使っていたところだ。その原理がどうなっているのかハンナの興味が今回の戦いの火種の一部であるキュリーを生かしている。俺も気になってはいる。キュリーの力は魔術と違うのであれば神の法則と関係している可能性もある。だが、ここまで頑として口を開かない。こうして適当な会話はしてくれるのだが、肝心なことは何も話してくれない。

「そうか」

 なら、別の話題に入ろう。

「キュリー。お前はシンについて知っている風だったんだけど、どういう関係だったんだ?」

 そっぽを向いて何も答えない。

 自分に関する情報を何も与えないつもりだ。

「いい加減にしないと本当に死ぬぞ」

「別にいいのよ。もしかしたら、あの人も死んでいるかもしれないんだし」

 そうだ。キュリーは誰か人を探している感じだった。イギリス魔術結社に加担しているのもそれが理由だとか言っていた。

「あの人って誰だ?」

「・・・・・・・・」

 相変わらずの無視である。

 あれから3日経つ。香波はおとといに意識を取り戻して順調に回復している。サイトーはあのあと全身血だらけだったが無事だった。そのことで香波は安心して泣いた。俺自身も香波の青い炎が一度全身に燃え移ったせいで髪の毛先が焼け焦げたので少し髪を切ったくらいでたいした怪我はない。キュリーに破壊されたプレハブ小屋はあっという間に修理されて元通りになり、香波が暴れてめちゃくちゃになったとおりも少しずつ元の生活に戻りつつある。

 あの日から変わっていないものがあるとすればキュリーの態度だ。彼女はイギリス魔術結社。俺の敵であるがシンと数か月過ごしたことがあるという貴重な人物でもある。話を聞けないようでは何もできない。神の法則を知る前に俺はシンのことを知る必要がある。そのためにもキュリーという存在は重要な存在だ。しかし、キュリーの心は硬く分厚い門で閉ざされて一向に開こうとしない。こんなくらい部屋でただ黙秘を続けることに良い事なんてない。下手すれば彼女がここで餓死しかねない。閉ざした心と向き合う方法―――考えられる方法はひとつだ。

「・・・・・よし!決めた!」

「・・・・・何を?」

 キュリーのための食事をテーブルの上において入り口を閉じる。

 そして、拘束されたキュリーの隣に座る。湿っていて冷たくて季節が冬のオーストラリアの外となんら変わらない。

「寒いな」

「何をしているの?」

「キュリーといっしょにこれから毎日ここで過ごす事にする」

「はぁ!?」

 驚いた顔を見てようやく人間らしい表情を見せたことにほっとする。

「俺もキュリーがシンのことを話してくれるまでここで意地を張ることにする」

「ちょっと意味分からないんだけど」

「ここでいっしょに過ごせば何か分かるかもしれない。お互いに有益な情報を知ることができるかもしれない」

「それはないわ。そもそも、あなたはMMの組織の人間でしょ?私とは敵対関係の魔術組織同士よ?そんな相手と情報交換なんて」

「俺は組織に加担しているが組織の人間じゃない」

 キュリーの言葉に上乗せするようにそのことを告げる。

「もしも、組織の人間ならハンナやサイトーみたいな黒の騎士団の連中と仲良くしていると思うか?」

「そ、それは・・・・・確かに」

 ふくれっつらで認める。

「ちなみに黒の騎士団にも加担した覚えはない。もちろんだけど、俺はイギリス魔術結社の人間でもない」

 そう、俺は魔術のない世界からやってきたシンの力をたまたま伝承してしまった異人なのだから。

「なら、ますます余計に意味が分からない。どうして、そんな不確定な存在であるあなたに黒の騎士団は手を貸しているの?組織に自分たちの情報が漏れる可能性だってあるわけよ」

 その壁に関しては感じている。特にサイトーからだ。それでもハンナたちが俺に力を貸してくれるのには理由がある。

「俺が簡単に黒の騎士団の奴らを見限って組織の情報を売るようなやつに見えるか?」

 しばらく、地下牢に静寂の時間が刻まれる。キュリーは答えなかった。

「この世界は負の世界だと俺は思っていたんだ」

 しんみりと俺は語る。自分のことを話せばおのずと相手も自分のことを話してくれるだろうというひとつの手段として俺は語る。

「俺の世界には魔術はなかった。なかった魔術がやってきたときに俺の生活は劇的に変わった。目の前で親しい女の子が殺された。俺が無力だったのせいでその子は一度死んだ。でも、俺に魔術を教えてくれた女の子がその子を生き返らせた。自分の寿命を半分削ってその子に分け与えたんだ」

「それって・・・・・」

 知っているようだ。禁忌の魔術。生命転生魔術というものだ。

「俺は目の前でふたりの女の子の命を削らせた魔術という力が許せなかった。魔術は俺の世界に災いをもたらす負の力だと」

 俺は自分の右手を見つめて強く握りこぶしを作る。

「あるときは人の命を奪い」

 美嶋の命を奪い、アキの寿命を削った。

「あるときは人の弱みを漬け込み」

 それが香波や氷華が飲み込まれた悪魔術。

「あるときはその力に持ちように苦しみ」

 自らの奪う力に苦しんだイサーク。

「あるときは差別を引き起こしたりもする」

 仮面の女として非魔術師(アウター)として絶対的力の差を埋めるために抗った。

「すべてが魔術が生んだ災いだ。俺はその災いを負の力を断つべき俺の世界から魔術を完全に絶つべく動いた。その一環で俺はこの魔術の世界にやってきた」

 だが、それが結果的にその意思を揺るがせてしまっている。

「魔術は負だけでできた力じゃないって感じたのかしら?」

「図星だよ。この世界で魔術は人を豊かにしている。それを負と呼ぶには大げさすぎるって思ったんだ」

 なら、俺がやるべきことは何か。

「何でも受け入れるだけの器を作り上げることが大切だと俺は感じた」

「器・・・・・ね」

「例え、魔術師だろうが教術師だろうが非魔術師(アウター)だろうが、天使であろうが悪魔であろうが、味方であろうが敵であろうが、俺は全部を受け入れられるようなそんな人間になりたい。そこに人をマイナスに引き込む負の力があるならば、俺はそれを破壊する」

 立ち上がって右手に力をこめると真っ暗な部屋に青白い陣の光が輝く。そして、右手に真っ黒な靄でできた黒い剣、無敵の短剣(デストロイ・ダガー)が作り出された。その剣で拘束されたキュリーを斬りつけるいきなり斬り込まれたせいでその場でうずくまることしかできないが、無敵の短剣(デストロイ・ダガー)はキュリーの手錠のみを破壊した。

「俺には負だけ破壊する力がある。今俺はキュリーの手錠以外に敵味方というしがらみも破壊したつもりだ。これで俺とキュリーとの間に敵も味方もない。俺はただの国分教太であんたはただのキュリー・シェルヴィーだ。これがはじめましてだ」

 無敵の短剣(デストロイ・ダガー)と解いて手を差し出す。

 するとキュリーは笑いをこらえるようにくすくすと笑う。

「な、なんだよ!」

「い、いや、そんなありえない理想を掲げるバカがこの世界に存在するんだなって思うとバカバカしくなっちゃって」

 うるせー!今まで魔術を根絶するとか誰も殺させないとか絶対無理だろって言うことを成し遂げようとがんばってきたんだぞ!

「でも、嫌いじゃないわ」

「え?」

「私の師もあなたみたいな感じの人だったわ。バカみたいに理想を掲げて」

 その師というのとあの人は同一人物だろうとなんとなく分かった。

「分かったわ。私の負けよ」

 キュリーは俺の手を取った。

「よろしく。国分教太。今、この瞬間に私はあなたをただの教術師として付き合うって行くわ」

「ありがとう。キュリー。早速だけど、シンについて」

「その前に!」

 握手するキュリーは俺の手を潰すつもりに強く握りしめる

「いだだだだだだだだだ!!」

「年上のレディーに向かってファーストネームで呼び捨てとか!いい根性してるじゃない!」

「わ、悪かった!だから!許して!キュリーさん!」

 あの華奢な体のどこからゴリラみたいな握力が生み出されているのか疑問になるくらいの力で握られた。だが、こうして俺はまたひとり味方ができた。

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