青炎の悪魔⑥
一度、青色の炎に飲まれた香波が戻ってきた。それは以前と同じで俺の言葉に反応して自分から炎を収めたのと同じだ。だが、以前と違うのはここからだ。炎が香波の意思に反して再び強く燃え盛った。これは香波とは別件でかかわった悪魔術のときと同じだ。いざ、悪魔術を手放そうとするとき、その支配から免れようとしたときに悪魔術は強引に術者をのっとろうとした氷華の時と同じ。あの時は氷の腕が、そして、今回は青色の炎が香波の全身を覆うように再び悪魔の形に生成されていく。
「香波!」
伸ばす俺の手を香波も必死に伸ばすがそれをさえぎるように青色の炎が繭のように香波を覆い、俺が手を出せるような状況じゃなくなった。
「待ってろ!香波!すぐに助け出してやるからな!」
青色の炎も下は炎だ。真空の空間なら香波を傷つけずに炎を消すことができる。だが、一度炎を消したところで完全に消し去るということはできない。あの青色の炎の火種である悪魔術を消さない限りあの炎は香波の不安を餌に燃え続ける。なら、今までのように転生魔術を使って悪魔を取り出して無敵の槍で破壊するという手段を選ぶのが香波を救う手立てとして有効だ。だが、周りの青色の火の海の状況を見て地面に転生魔術を描く状況じゃない。すぐに青色の炎に飲まれてしまう。それに俺自身にも問題がある。無敵の槍を発動できる状況じゃないということだ。
悪魔の形をして香波を覆う青色の炎の尻尾の部分が俺に向かって攻撃を仕掛けてきた。それを真空の空間を使ってガードすると空間に入ると炎は切れるように消えてそれ以上進行できない。
フレイナのような高い火力を持っているわけじゃない。真空の空間は炎を消すことができてもその熱までは消すことはできないが、今青色の炎を消したときに強い熱は感じなかった。あの攻撃自体は容易に防ぐことは可能だ。その間にどうにかしてあの悪魔だけを破壊する方法を、
「・・・・・不安・・・・・・燃やす・・・・・全部」
香波の声が聞こえた。
「香波!」
だが、その声は燃え盛る青色の炎の音にかき消されて尻尾の形をした青色の炎が再び俺を襲う。それを右手で生成した真空の空間で防ぐが、その四方から青色の炎の塊が降りかかってきた。
「うそだろ!」
左手の龍属性の風を起こして自分の体ごと吹き飛ばして青色の炎から逃れる。そのまま地面に叩きつけられて全身に痛みが走るが倒れている場合じゃないと立ち上がる。
前に青色の炎と対峙したときと今回の違いは真空の空間が片手でした使えないということだ。両手で使えた時は体を覆うまで全面に展開できたが片手だけということはその分隙ができる。完全に防ぐことはできない。
「香波!聞こえるか!負けるな!そんな青色の炎なんかに負けるな!」
だが、香波の顔を覆うように青色の炎が広がっている。その青色の炎が自ら凹凸をつくり香波の顔に青色の炎で新しい顔を作り出す。作り出された青色の炎の顔はニタリと笑みを浮かべた。それはお前の声は届きはしないと嘲笑うかのように。
まだだ!何か方法があるはずだ!
青色の炎はそんな思考を凝らす俺に隙を与えないかのように攻撃を仕掛けてくる。青色の炎の尻尾が鞭のようにしなって俺に向かってくる。真空の空間でその炎を消して防ぐ。そして、四方から青色の炎の玉が降りかかる。バックステップや前に飛び込んだりして何とかやり過ごす。
このままだと埒が明かない。待ってくれている風夏が手を出しかねない。
何とかしないといけない。前は無敵の双剣で炎だけを切り裂いた。現状で前のように力を剣の形にして収束することができない。通常の破壊の力では力不足だ。どうすれば、今の状態であの炎の壁を越える?
『今の状態じゃあの炎は超えられない』
ゴミクズの声だ。そんなこと分かっている。
『分かっているなら安心だ。超えるのはあの炎じゃないはずだ』
超えるのはあの炎じゃない。今の自分だ。
俺は戦いの中で強くなった。左手の龍属性も戦いの中で生まれた俺の力だ。難しいことを考えるのは苦手だ。神の法則が科学に関するものなのか、魔術に関するものなのか、エネルギー論に関するものなのか、その上でシンの力をどう高めていくか。シンのことを知る必要があるという。なら、どうやって知るのか。
そんなものはどうだっていい!今、俺がやるべきことは香波を助けることだ!あの悪魔の青色の炎から俺の好きな香波を助け出すことだ!そのために力が前と比べてうまく使えないとか甘ったれている!
「できないんじゃない!やるんだ!」
右手によりいっそうの力と願いをこめる。
術者の想い次第で教術は強くもなり弱くもなる。なら、俺はその想いを強さの糧とする。
右手を香波に突き出すように広げてからその右手で左手に握る龍属性の岩属性で生成した剣を握る。
この形だ。龍属性だって最初は腕を覆うだけだった。シンの力で同じだった。最近使えるようになった龍属性にできてシンの力でできないはずが無い。
この形だ。誰も殺さない、殺させない俺の意思に答えた形。すべてを破壊せず破壊したいものだけを破壊する無敵の剣。双剣の時は片手で使っていたあれを作り出せ。
「だから!答えろ!俺の想いに!」
青色の炎の悪魔が大きく口を開けて青色の炎の火炎放射が俺に向かって飛んでくる。
「俺は香波を助けたい!答えろ!俺の力!」
瞬間、陣が俺の右手首を中心に展開した。その展開によってあたりの青色の炎がなびき衣服や髪が展開の勢いから発生した風になびく。その陣に描かれていたのは六芒星。俺が今まで発動したどの教術よりも高いレベルのものだ。そして、握り潰すように岩の剣を破壊して剣を抜き取るように右手を振り上げる。その右手に握られていたのは真っ黒な靄でできた黒い剣。すべてを破壊し、その破壊の範囲を俺の意思で調節することのできるシンにはなかった俺の力。
「無敵の短剣!」
掲げた剣を振り下げて迫りくる青色の炎を斬り消した。無敵の短剣の見えない斬撃が次々と青色の炎を斬り消していく。
答えた。俺の意思にシンの力が答えてくれた。その右手に握られているのは俺が前まで使っていた無敵の短剣そのものだ。俺の意思で炎だけを斬った。斬ったといっても斬った部分のあらゆる元素が破壊されて排除されたおかげでその場が真空状態になったことで炎が斬れたように見えた。
その無敵の短剣を見た青色の炎の悪魔は雄たけびを上げて青色の炎で作った掻爪を立てて突っ込んできた。背中の炎の翼がその突っ込むスピードを加速させる。俺は目を閉じていったん呼吸を整える。
無敵の短剣が使えるようになっただけこの安心感はなんだ?
いろんなものが鮮明に見える。香波がまとっているあの青色の炎は悪魔術だが魔力を使わないだけで他は魔術と変わりないはずだ。あの悪魔術を止める手段として魔力の代わりになっている不安を絶つということだがこれはできない。となれば、残っている手段はひとつ。陣を破壊することだ。
ゆっくりと目を開けて無敵の短剣の刃を寝かせて身を低く構えて落ち着いて精神を研ぎ澄ませる。
陣はどこに展開されている?普通なら属性魔術は制御しやすい手のひらで発動させるから陣は手のひらにある可能性が高いが、香波の悪魔術は両手で使うものなのか?いや、全身にあの炎をまとっている様子からして陣は両手には無い。なら、どこに陣がある。
『魔術は陣を中心に広がる』
不意に聞こえたゴミクズの声。確かに今まで俺が魔術を見てきたという経験から魔術は必ず陣の中央から発生する。それは俺の使うシンの力であっても例外は無い。なら、香波の全身を覆うあの青色の炎も陣を中心にして生成しているはずだ。あたかも毛並みのように尻尾のように羽のように耳のように生えるように燃え盛る青色の炎は陣から生成されたもの供給され続けなければ炎はあの強さを保つことはできない。
なら、その炎はどう流れてきている。
迫りくる青色の炎の悪魔を目の前に俺は冷静に炎の流れを見た。炎は悪魔の腹部分からかすかに拡散するように全身に広がる。
「そこだーーーー!!!」
大きく右足を踏み込む。寝かせていた無敵の短剣の刃を滑らせるように振るう。だが、無敵の短剣は短剣でありリーチは短い。悪魔の炎の手は俺の全身を焼く。サイトーから貰ったコートが髪の毛先が青色の炎を上げて燃える。だが、俺の心境はあせることなく冷静だった。
破壊しろ!香波以外の空気も炎も悪魔も全部!その刃で切り刻まれて壊れろ!
「この剣に斬れないものなんて無い!」
振るった剣は空気を炎を斬り裂いて香波の腹部あたりを真っ二つに切り裂くように振り斬ると炎が無敵の短剣の斬撃が通った部分でふたつに切り離された。それは香波を覆う青色の炎も同じだ。炎の隙間から香波の姿が見えた。といっても腹回りだけだ。その香波の腹部にあったのは鈍く青白く輝く五芒星の陣だった。その陣は振り切った無敵の短剣を納刀する前の刀のようにひとつ利した瞬間、パキピキと音を立てて割れるように破壊された。
同時に周りの炎がしぼむように沈下していく。俺の体を燃やしていた炎も香波を覆う炎も同じように消えていって炎からの呪縛から解き放たれた香波はその場で倒れる。
仕事を終えた無敵の短剣の発動を解くと粒子のようにはじけ飛んで消えた。




