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誰も知らない神の領域  作者: 駿河留守
真の領域
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青炎の悪魔⑤

 ・・・・・ここはどこだっけ?

 今私って何してるんだっけ?

 目の前に広がる青色の炎の海。じっと見つめていると目がちかちかしてすぐに視線を外す。目の前の青色の炎。その炎は自分の手から燃え盛っているけど全然熱くないし、手が燃えているというわけじゃない。自分から焦げ臭いにおいがするわけでもない。学校の理科の時間にガスバーナーを使った時の炎の色とよく似ている。火はオレンジ色よりも青色の方が高温で強いんだよって私のふとした疑問に先生が答えてくれたことを覚えている。私の周りで燃え盛る炎は青色。ものすごい高温の炎があたりに広がる。熱くてたまらないはずなのになんだか心地いい気分だ。

 広がる青色はまるで空でも飛んでいるかのような気分を感じることが出来て、意識も自分の体から飛び出していきそうなくらい気分が軽い。どうして、こんなに気分が軽いのか?それは分かる。

「この炎が私の不安を食べているから」

 そう呟くと周りに燃え盛る炎の音がリアルに耳の中に入り込んできた。メラメラと燃える炎は燃やす対象物が燃え尽きるまでその炎を弱めない。燃え続ける炎は燃え移って次々物を燃やしていく。私の意思以外では決して消えることのない、すべてを燃やす炎。

 そして、その炎は私の目の前に落ちている巨大な肉ダルマもメラメラと燃やしている。急に聞こえてきた私の不安を燃やしてくれるはずの炎が不安以外の物を容赦なく燃やしていた。その目の前の肉ダルマが人間ではないかと思ってしまうとまた一気に不安の沼に足を引き込まれる。

 ・・・・・私が?顔も知らない人をこの炎で?燃やしちゃったの?

 そ、そんなはずはない!私が人殺しなんて・・・・・。

 震える手を優しく包み込んでくるように青色の炎が強く燃える。その暖かさに私の不安がどんどん緩和されていく。無くなっていく。食べられていく。

「ああ、ありがとう。これで私は安心できる。強くなれる」

 炎のおかげで目の前の肉ダルマも人ではなくただの焼き豚にしか見えなくなった。でも、真っ黒焦げでおいしくなさそうだと踏みつけるとボロッと焦げた部分が崩れた。それに慌ててこけそうになるのを青色の炎がまるで生きているかのように支えてくれた。

「ありがとう」

 この炎は悪魔なんかじゃない。私を支えてくれる天使なんだ。よかった。斉藤さんが死んじゃって不安だったのに新しい支えが―――。

「香波!」

 私を新しく支えてくれる、安心させてくれる炎の間を斬り割って入って来たのは私の想い人、国分教太ことキョウ君だ。

「やぁ、キョウ君」

 そういえば、私はこの青色の炎に包まれる前に何かキョウ君に関して心配な不安なことを考えてきた気がする。なんだったか思い出せないけど、その不安はすでに燃やされているし目の前にキョウ君が特に大きな怪我をしているわけじゃないからよかったと安心した最中、不意に私は不安になった。どうしてキョウ君はそんな焦ったように息を切らせて周りの炎を嫌うように避けているのか。それから私を心配そうに見つめるのか?

「ねぇ?どうしたの?私に何かついてる?」

「ついてるも何もその青色の炎が見えないのか?」

 青色の炎?ああ、これ?

「エヘヘ。いいでしょ」

 と自慢する。不安を食べて私を安心させてくれる優しい炎。

「いい訳ないだろ」

 そう否定するとキョウ君は目をやるのが辛いようでも一度しっかり見て現実を確かめた後に息を飲んで私に尋ねてくる。

「香波。お前が踏みつけているのはなんだ?・・・・・・まさか、人か?」

 踏みつけているもの。青色の炎を上げて燃えている肉の塊。焼き豚に見えなくもないけど、その正体を私は知っている。斉藤さんを殺して私に襲い掛かってきた怖い人。そう、キョウ君の言う人。だから、否定しない。

「人だよ」

「・・・・・お前は人を殺したのか?」

「それが?」

 キョウ君はグッと歯を食いしばって怒った。

「お前は何も感じていないのか!人の命を奪ったことに!」

「別に?」

 そんなことを気にしても仕方ない。その不安すらも炎が食べてくれる。

「完全にその青い炎に飲まれたか」

「飲まれた?違うよ。助けてくれたんだよ。不安におぼれる私を。この青色の炎があれば何でもできる」

「それでお前は助かったのか?」

 キョウ君が意味の分からないことを訊いてくる。

「何言ってるの?助かってるよ」

 キョウ君が拳を強く握りしめると両手首を中心に青白い円状のものが浮かび上がって右手には黒い靄が左手には赤黒い岩が纏った。それが何なのか私には分からない。

「俺の知っている香波は弱くて頼りない。でも、誰よりも優しい。俺は言った!その優しさの方向性を間違えるなと!お前は2年前に脅されていた彼氏から他人を守るために怪我を負わせた。それは彼氏よりも自分がやった方が、怪我が軽く済むからと言うものだった。誰よりも人のことを想うのが香波だ。だが、今のお前にはその優しさのかけらも存在しない」

 何を言っているの?

「俺の好きだった香波はその炎の中にはいない!」

 左手を覆っていた赤黒い岩が手のひらに集まってきて剣の形になってそれをキョウ君に握って構える。

「え?どうして?」

 突きつけられる視線はいつも私を見る私の知るキョウ君じゃない。

「お前を救う。そんな悪魔なんかに頼らずとも俺がお前の不安とやらを壊してやる!その悪魔もろとも!」

 初めて私に向けるキョウ君の瞳から察することできる感情は怒りで、発するプレッシャーは殺気だと分かった。

「どうして私をそんな目で見るの?どうしてそんな危ない刃物を向けるの?不安だよ。私は不安だよ。助けてよ」

「助けてやるよ」

「え?」

「しっかり見ろ!自分の姿を!その青色の炎の様子を!」

 自分の姿?

 暖かく包み込んでくれる青色の炎の様子に目を背けないでってどういうことだろうと近くにあれだけの戦闘があって被害にあっていないガラス製のショーケースに自分の姿が映った。青色の炎の間から見えた姿を見て一瞬移ったものを疑った。

「あれ?」

 これが自分?

 全身をつつむのはまるで獣の体毛のように燃える青色の炎と悪魔みたいな尻尾と翼と耳の形をした青色の炎。そして、やつれて目の下に隈が出来た醜い自分の姿。それはもう悪魔そのものだ。

「い、いや!なんで!」

 一気に不安になると私を覆う炎は一層強くなって悪魔の私を映したショーケースを破壊した。そんなはずはない。だって、この炎は潰れそうな私を救ってくれたものだ。

「この炎は私を!」

「救ってなんていない!」

 キョウ君は断言した。

「その悪魔の炎は香波の弱みに付け込んで乗っ取ろうとしている。俺の好きな香波を奪おうとしている」

 何かを思い出すようにキョウ君は黒い靄を宿らせる右手を突きだす。

「だが、その炎のおかげ香波は俺に出会えた、強くもなれた。でも、それをすべて無駄にするつもりか!」

 私はキョウ君再会したあの日以来、この炎と向き合ってきた。何度も飲まれそうになったけど、その都度斉藤さんが引っ張ってくれた。だから、私は悪魔ではなく人としてやっていけた。でも、それは本当に私がこの青色の炎によって手に入れた強さなのだろうか?

 それは―――違う!

 不安の沼から自ら這い出す。

 一瞬炎がしぼむように弱くなった。それを見たキョウ君がさらに叫ぶ。不安の沼から自力で出ようとする私を応援するかのように。

「負けるな!目を背けずにその炎と付き合うという不安と向き合え!その不安だけは炎に燃やさせるな!自分で受け止めて強さの糧にしろ!いろんなことを後悔して不安を抱えて人は成長するんだ!香波もそのひとりだろ!」

 2年前の過ちを後悔してあがいてキョウ君と再会して魔術と出会って悪魔術と出会って私は変わる。こんな悪魔に不安を吸わせて得られる不安も何もないかりそめの極楽じゃない。キョウ君と肩を並べられる明るい(ほんとう)の領域へ行くために不安ばかりに気を取られてはならない。

 出るんだ!不安の沼から誰にも引っ張られないで自力で!私の好きなキョウ君が待っている!だから、沼の底から引っ張るな!

「邪魔をするなー!」

 瞬間、青色の炎があたりに散らばる。まるで噴火でもしたかのように上空高くまで青色の炎が飛び散るがそのままゆっくりと消えて燃え移ることはなかった。そして、燃え盛っていた青色の炎がゆっくりと静まっていく。私の背中の炎も尻尾の形をした炎もすべて鎮火して行く。

「・・・・・香波」

 目の前に鮮明に見えるキョウ君の姿を見て一気に感情が溢れだした。

 キョウ君は魔術の発動を解いてゆっくり私に近寄って来た。私とキョウ君の関係を保ってくれたのは結局悪魔の力だ。この力が無かったらキョウ君が自ら私の元にやって来ることはなかった。拒絶されてお別れの言葉を告げられて私には何も残っていなかった。でも、唯一繋がっていた最後のきっかけを青色の炎がつむいでいてくれた。私はまたキョウ君と笑える、肩を並べられる。

「きょ、」

 キョウ君の名を呼ぼうとした時だった。

 急に耳の裏辺りからラジオの周波数を合わせている時に聞こえるざーというノイズが聞こえた。そのノイズに混ざって聞こえた声に私は強い恐怖に押しつぶされる。

『なら、代償を』

 何の代償なのか分からないまま、再び背中から青色の炎が噴き出す。

「な!なに!なんなの!」

 毛のように尻尾のように青色の炎が噴き出す。

「やめて!離れて!私はキョウ君といっしょに!」

 キョウ君は身の危険を感じて距離を取ってしまった。

「・・・・・やめて」

 不安の沼の底から不気味な影がゆっくりと私を沼の底へと引きずる。

「キョウ君・・・・・助けて」

 意識は沼の底へ。

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