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誰も知らない神の領域  作者: 駿河留守
真の領域
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青炎の悪魔③

 吾輩はゴンザレス・フォレストである。イギリス魔術結社の七賢人は第3である。つまり、イギリス魔術結社の中でも3番目に権力があることを意味している。だが、それは魔術師と教術師の間に持っている権力のことで実際のイギリス魔術結社には元老院という七賢人よりも上の立場の人間が存在する。彼らがこの魔術世界の魔術に関する情報を統括している。今回のレナ・エジソンのような特異点を見つけだして吾輩ら七賢人に特異点の排除の任務を送る。魔術の繁栄のために、が元老院の主な目的である。元老院は主にイギリス国内の魔術学校出身の貴族たちがつく役職で送り出される命令も自分の土地を荒らした盗賊の撃退といった私的な物から食糧難から国民の間引きといった汚れ仕事などを吾輩ら七賢人に命令した。基本的に元老院の命令に立場の低い七賢人は従うことはできないがその構造は強力な魔術師、教術師が暴走しないように管理するという名目がある。自分たちに牙をむかぬように、他国に牙をむいて戦争にならないように飼いならすための七賢人である。

しかし、現在の総帥であるデゥーク・リドリーは違った。

 七賢人という低い立場でありながら奴は元老院を逆に飼いならした。噂では奴の使う教術によるものだというが、吾輩からすれば元老院の自由がデゥークによって制限されたおかげで嫌な汚れ仕事をせずに済む分気軽でいい。だが、今回のレナ・エジソンは元老院をデゥークが飼いならす前に発生していた命令だったために処理せよという命令を渋々承諾するしかなかった。

 これが最後だ。これで吾輩は無駄に命を張る必要も命を奪う必要も無くなる。これで毎日自分の筋肉を作り上げる自由な日々が送れると思っていた。だが、目の前に現れた青色の炎を持つ悪魔がそれを阻んだ。

 青色の炎で翼に尻尾に耳まで再現している。その少女の姿はまさに悪魔。あの青色の炎は普通の炎ではない。なんでも燃やして燃え移ったものを燃やし尽くすまで燃え続ける。それが水だろうが関係ない。そのせいで吾輩の腕を自ら引きちぎる羽目になった。吾輩の使う教術、筋力増強術(ドーピング)は筋力を増強する。治癒魔術ほどではないが傷も筋肉が増強されることで塞がりある程度治る。片腕あれば戦うことに支障はない。

 青色の炎に包まれた少女の瞳から見られていたあどけなさが消えて不安におぼれ揺れる瞳は焦点があっていない。足元もふらふらとおぼつかない。瓦礫に足を取られそうになるが瓦礫に触れる前に青色の炎がその瓦礫すら燃やし灰にする。

「まったく恐ろしい炎である」

 これ以上あの青色の炎の悪魔を放置するわけにはいかない。

「不安を燃やす」

 さっきも同じようなことをつぶやいていたが何も動きがない。

「私の支えだった斉藤さんを殺すような不安要素は燃やす!全部!」

 しっぽに見立てた青色の炎が吾輩に向かって飛んできた。地面を蹴って躱す。不意打に焦ったがあの程度のスピードの攻撃なら吾輩の筋力増強術(ドーピング)で強化された筋肉から繰り出される瞬発力で躱すことは容易だ。問題はどう攻撃するか。

「動き回るな!」

 口を開くと火炎放射のごとく青色の炎を吐き出してきた。再び跳び退いて躱す。さっきまで吾輩がいた街灯がまるで飴のように燃え溶けて消える。

「恐ろしい力である!」

 体から毛のように燃える青色の炎が邪魔で少女にむかって直接攻撃することは難しい。あの炎に触れることになるからだ。両手を失えば強化した筋力を屈指して戦う吾輩にとっては剣を持たない剣士と同じ丸腰である。

 飛び上がって地面に足をついて蹴る。その蹴りだした勢いで地面がめくり上がる。それから建物の壁で三角とびをする形で少女背後に回り込む。吾輩のスピードに少女は必死に目で追おうとしているが吾輩のスピードは目で追うことは容易ではない。背中には青色の炎の翼がある。背後から触れて攻撃することはできないが、触れなければいい。

 再び地面を蹴って一気に少女まで接近して地面を削りながら飛び出した勢いを殺しながら青色の炎が及ばない距離で右手の張り手を突き出す。

「突っ張り波!」

 高速で突きだす突っ張りは周りの空気も同時に押し出すことで触れず物を吹き飛ばすことができる。だが、普通に殴るのと比べて筋力を無駄に使うこの技は連続で使えないで何度も使うことは難しい。今そんなリスクのことを考えている場合ではない。

 突っ張り波を繰り出した瞬間、爆発音にも似た破裂音と共に衝撃波が張り手から発生して地面ごと目の前の青色の炎と少女を吹き飛ばす。その衝撃波は大通りに舗装された地面や街頭をすべて吹き飛ばしてT字路の建物にぶつかって衝撃波は止まる。

 突っ張り波を叩きだした地点に青色の炎の姿は見えない。衝撃でめくり上がった地面から発生した砂埃越しにも青色の炎の光は見られない。

「やはり、悪魔とて吾輩の筋肉の前ではその青い灯を灯し続けることはできない!悪魔をうちっとたり!」

 天高く自らの筋肉を強調するようにして拳を高々と上げる。

「その異常なまでのパワー・・・・・不安」

 声は背後から聞こえた。脳がその声を聞いてから体を動かしたのではなく声を聞き取った瞬間、反射的に吾輩は前に飛び込むように飛んだ。そして、吾輩がコンマ数秒前までたっていた場所が青色の炎に焼かれた。地面を削るようにスライディングをしてすぐさま飛び上がって立ち上がり振り替えるとそこには振り下した拳をゆっくりとあげる青い炎の悪魔がいた。

「いつの間に吾輩の背後に?」

 吾輩の疑問を投げかけても不安と呟きながら不気味な笑みを浮かべる少女は答えるわけがない。

 しかし、突っ張り波は確かに直撃したはずだ。仮に攻撃を食らって無事だったとしてどうやって背後まで移動したのだ?時空間魔術を使ったのか?それはない。不安で情緒が不安定な状態で冷静に魔術を発動させたとは考えにくい。なら、どうやって?

 背中の青色の炎で出来た翼を広げる。

「まさか、悪魔術でありながら天使の力を有しているのであるか?」

「逃げないでよ。燃やせない」

「天使の力は神の領域へ近づくことを許された者のみが使える力である。悪魔落ちした者が使えるはずがないのである」

「次こそは完全に燃やして不安要素を」

 ダメだ。全く会話にならない。

 しかし、仮に天使の力を有しているとなれば元老院がレナ・エジソンと同じ特異点と認定する可能性もある。そうでなかったとしても今後結社の存在を脅かす存在になるかもしれない。ならば、吾輩がここでやることは決まっている。

「フン!」

 地面に向かって拳をぶつけてそのまま地面を掴むように手をめり込ませて力いっぱい引っ張り上げると吾輩の前方部分の地面に亀裂が走る。

「ふおおぉぉぉぉぉ!!」

 全身筋肉を際立たせるようにして掴んだ地面を引っ張り上げると割れた地面が持ち上がる。

「おおおおおおお!!」

 持ち上げた地面は縦長で大きな岩のようで大きさは吾輩の倍はある大きさをしている。その重量で流石に足元がふらつくが持ち上げられない重さではない。右腕の血管が浮き上がるくらいに精一杯力を入れて頭の上まで地面を完全に持ち上げた。

「さすが吾輩の筋肉!こんな巨大な岩を片手だけで持ち上げることができるのである!」

 だが、持ち上げるだけでは終わらない。

 目の前の悪魔の少女の青色の炎がある限り吾輩は触れて攻撃することができない。

「ならば!」

 ボールを投げるがごとく振りかぶる。

「ムッキムキ!投擲(スロー)!」

 持ち上げた地面を全身の筋肉を使って少女に向かって投げる。これなら触れることなく吾輩の筋肉を最大限に使って攻撃できる。直線の軌道を描いた持ち上げた地面は一直線に青色の炎を纏う少女を直撃して砂埃が立ち上る。だが、吾輩は少女にぶつかる直前に持ち上げた地面が砕ける音がした。おそらく、当たっていない。再び同じように地面を引っ張ると割れて岩のようになって持ち上がる。砂埃の影から青色の炎が姿を見せる。

「やはり!だが、まだ手はあるのである!」

 岩を今度は上空に投げ捨てる。そして、脚力を最大限に飛び上がって投げ捨てた地面まで到達して右手で地面を割る。いくつかに岩を掴んだり蹴り飛ばしたりして雨のように少女に向かって攻撃を仕掛ける。だが、少女に直撃する軌道を描いていた岩は圧倒言う間に青い炎に焼かれて消える。

「一筋縄ではいかないようであるな!」

 建物の屋上に着地して近くに停めてある風属性の魔石によって空を飛ぶことのできるバスが目に入る。すぐに脚力を使って飛んでバスの側面までやってきて右手をバスの底を掴んで全身の筋肉を使って持ち上げる。

「ふんぬぅぅぅぅ!!!」

 ゆっくりとバスのタイヤが風属性以外の力で地から離れる。そして、軽く上に放ってすぐ真下に入り込んで落下してくるバスを伸ばした右手だけで受け止める。右腕がピリピリと震えるがバスはそれ以上地面に向かって落ちてくることなく吾輩がバスを右手だけで完全に持ち上げた。

「これでも!!!!食らうのである!!!!」

 砲丸投げでもするがのごとく咆哮しながら少女に向かって山なりにバスを投げ放る。少女はその場から微動だにせずにただ自分に向かって落ちてくるバスをただ見ているだけだった。

 ガシャーン。

 バスが落下して窓のガラスがすべて割れ弾けた。砂埃を挙げるが同時に青色の炎もバスの下から這い上がるように立ち込めようとしていた。

「させないのである!」

 飛び上がってバスの上までやって来る。そして、右手に渾身の力を込めて殴る。バスを殴る。連続で殴り続けて動力部の魔石まで到達する。魔石はエネルギーの集合体であるので破壊すればその分中にあった魔力は行き場を失って暴発するものである。つまり、爆発する。

「ムッキ!ムッキ!ムッキ!ムッキ!ムッキ!ムッキ!ムッキムキー!」

 連続で魔石を殴り続けるパリンと割れた音が聞こえた瞬間、逃げるようにバスから離れるとバスはオレンジ色の光を伴って爆発した。あたりにバスの金属片やガラス片が飛び散る。吾輩の体にも細かい瓦礫が針のように刺さるがそこは心配ご無用である。鍛え上げられた筋肉と筋力増強術(ドーピング)によってガラス片は体の中まで刺さることなく止まる。これもすべて筋肉のおかげである。

「さて、さすがにあの爆発の中では・・・・・なぬ」

 その現状を見て膝から崩れ落ちる。オレンジ色の炎に包まれて燃えるバス。そのオレンジ色の炎の下から湧き上がるように、まるでオレンジ色の炎を食らうようにして青色の炎がどんどん強くなって最終的にはバスを燃やす炎は青色へと変わった。その炎の中から抜け出してきた少女。自らもバスを燃やす炎の色と同じ炎を纏わらせて少女は無傷だった。相変わらずの焦点の合っていない瞳で吾輩を見つめる。

「不安。私じゃなかったら死んでた。もしも、私じゃなくてキョウ君だったら・・・・・キョウ君だったら」

 顔を覆って涙を流した。どうして涙を流しているのか分からない。笑ったり泣いたりと情緒不安定な状態で危険だ。しかし、あの炎は炎自体も燃やすとでもいうのか?あの炎に一体どうやって勝てばいいのか?

 分かることがあるとすれば、吾輩の攻撃はもはや通じない。あの炎を越えて少女自身に直接攻撃を加えて戦闘不能にするか最悪殺すしかない。キョウ君というのが誰かは知らないがレナ・エジソンの方に向かっているキュリーに被害が及ぶ可能性は捨てきれない。七賢人の中でも貴重な魔術師だ。それに彼女はまだ若い。

 ゆっくりと立ち上がる。

「ムッキムキー!」

 再び筋力増強術(ドーピング)で自らの素晴らしき筋肉を際立たせる。そして、クラッチングスタートの構えをする。

「キュリーよ!現実に押しつぶされる自らの意思を貫け!吾輩も自分の意思を貫くことにするである!」

 地面を蹴って一気に少女に接近する。風を切って拳にすべての力を込める。そして、少女の目の前で踏み込んでありったけの力を込めた拳を少女に向けて放つ。しかし、その進行を青色の炎が妨害するように襲い掛かる。吾輩の足を胴体を肩を腕を顔を燃やす。それでも力を込めた拳の力を緩めない。青色の炎の中に突入しても勢いも殺さない。すべてをこの一撃に。

「マッスルナックル!」

 吾輩の拳が少女を待とう青色の炎を越えた。その先にいたのは涙を流す華奢な少女。その姿は初めてキュリー・シェルヴィーに出会った時の姿と一致した。彼女に今の力を与えた心を許した人物の失踪、生きているか死んでいるかもわからない彼女はただ涙しているしかなかった。その姿は幼気なくて見過ごせなかった。筋肉以外のことは頭にない吾輩が初めて感じた感情である。

 ―――彼女のために吾輩の筋肉(すべて)を授けよう。

 その感情が何なのか答えは出せていない。だが、その筋肉(すべて)は今―――。

「ここで出し切るものである!」

 キュリーと姿のかぶる少女に向かって拳を吾輩は振り下ろした。

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