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誰も知らない神の領域  作者: 駿河留守
真の領域
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魔術師の手品③

 矢を手に取って弓を引くとその矢先を中心にして青白い陣が浮かび上がる。中に描かれている陣の模様は。

「八芒星!」

 陣の中で一番高レベルのものだ。しかも、その弓を引いているのは属性の法則を無視する規格外の風夏。キュリーはそれをすぐさま察知して地面を蹴って一気に風夏に突っ込んでいく。弓を引いたままの風夏はその場から微動だにしない。その表情から焦りは全く感じられない氷の表情。キュリーは右に握る剣で突くと氷の針が風夏に向かって飛んでいく。属性的には氷属性は風属性と相性がいい。迫っている相性の悪い属性攻撃を目の前にして風夏はぽつりとつぶやく。

「だから?」

 引かれていた弓が解放されるとまるで爆発のような風が爆発的に発生してあたりの外壁の一部を吹き飛ばしてレンガで作られた地面がめくり上がって吹き飛ばされる。その風の中心に一つの矢がらせん状の風を帯びてまるでミサイルのようにキュリーに一直線に向かって来る。躱せば風によって殺される。躱さなければ矢が直撃して人の体なんて簡単に木端微塵に粉砕することも容易のように見える。どう考えても無理だ。焦って接近したのが逆効果となってしまった。

 だが、キュリーは剣を逆手に持って背中の方に回し左手を迫りくる矢に突き出すと瞬間、キュリーを中心に台風の目のように暴風が吹き荒れてあるとあらゆるものが竜巻のように巻き上げられる。俺はキュリーに壁に拘束されているおかげで吹き飛ばされることは無かった。黒い筋を帯びた竜巻は中の様子がうかがうことはできない。瓦礫や紙類やゴミが巻き上げられていく。

「な、なんだよ・・・・これ?」

 空もまるで台風がやってきたようにどんよりと黒い雲に覆われて今にも雨が降ってきそうになる。風夏に放った一発が天気すらも変えてしまった。吹き荒れる風を発生させた風夏はあれだけの風の中でも涼しい顔で立っていた。吹き飛ばされまいと踏ん張ることなく竜巻をただなびく髪を押さえながら見つめていた。

 キュリーは死んだ。俺が守るとかそういう次元ではない。風見風夏は人間なのかと思ってしまう。フレイナと同じ規格外であると言われると納得する。この力を見せられると。

 吹き荒れる竜巻が小さく細くなっていくとそこ突っ切るようにしてゆったりと風夏が歩いてきた。

「国分教太。怪我はないっしょ?」

「あ、ああ」

 薄く笑顔を浮かべると矢筒から新しい矢を取り出して再び弓を引いた。その矢先は俺に向いていた。

「ま、待て!俺は味方だぞ!」

「いつ味方になった?」

「え?」

 その瞬間、風夏から放たれた殺気。それは戦いを嫌いその根本を壊すことが戦いの終息に結び付くと考えているからこそ俺に向けられた殺気だ。ここに来たときに言われたはずだ。戦いを運ぶなら容赦なく殺すと。

 だが、キュリーがこのオーストラリアにやって来たのは俺を追ってきたわけじゃない。レナを追ってきた。ここで俺が風夏に敵はレナを狙っていると伝えればこの場は収まる。なぜなら、レナはもうこの世には・・・・・いないからだ。でも、本当にこのままでいいのか?

「いい訳ないか・・・・・」

 俺の表情を見ると風夏がぴくと眉を動かして一瞬動揺した。

「どうしてそんな顔をしている?どうしてあれほど強い力を見せつけられてそんな強い眼差しで戦い表情をしている?」

 そうなんだ。俺はそんな顔をしているのか。確かに俺はレナを守れなかった。それでもってこうして自分の命も狙われている。アキや美嶋のためにも生き残らないといけない。死ぬわけにはいかないがレナには静かに眠ってほしい。せめて・・・・・。

 だから、俺は戦わなければならない。

「規格外を越えなければ美嶋には認められない!」

 服を貫いて刺さっていた氷の針を吹くごと破って右手だけを自由にした後、破壊の力を使って拘束して氷の針を壁事破壊して自由になる。

「残念だけど俺は強くならないといけない。そうしないと俺の大切な友人が帰ってこない」

 美嶋の姿が脳裏に浮かぶ。

「安心させないといけない。強くなって誰にも負けないように」

 アキの姿も浮かぶ。

 無だった俺を認識してくれた美嶋とその美嶋を救ってくれたアキのふたりのためにも。

「行くぞ!」

 左手に龍属性の岩の剣を作って風夏に向かって走る。

「さっき何を見ていた?近づいたらさっきの女の二の前っしょ!」

 大きく引かれる弓と矢先に陣が浮かび上がって同時に風が吹き荒れる。そうなる前に俺は岩の剣を投げる。だが、その軌道は風夏の頭上に気道がずれる。

「どこを狙って!」

 その時だ。キンと言う音が頭上から聞こえて風夏は頭上を見上げる。そこには金色の髪がまるで川のようになびいていた。

「な、なぜ!なんで生きている!」

 俺の岩の剣をはじいたのは風夏の攻撃を直撃したはずのキュリーだった。全身ぼろぼろだが青い瞳から発せられる闘志は消えていない。俺は再び岩の剣を生成する。キュリーの急襲で引いていた弓を緩めて頭上に向けるが間に合わない。原子の衝撃波(アトミック・ショック)を起こして飛び上がって岩の剣でキュリーの斬撃を防ぎ弾く。

「く!」

「この!」

 空中で龍属性の風属性を発動させる。赤黒い風が俺の体を浮かせて爆発させるように風を強く起こして破壊の力で落下するキュリーに迫る。キュリーは左手で氷の刃を作り出して攻撃するが破壊の力で簡単に破壊されてしまい、そのまま破壊の力はキュリーの左手に触れた。その瞬間、さっとキュリーは手を引いたがブシャっと左手から血が噴き出る。左手の皮膚と筋肉の一部を破壊したようだ。地面に派手に落下したキュリーは何枚かのカードを落としてしまった。どこに隠し持っていたのかは分からない。だが、これでいくつかの魔術が使えなくなった。しかし、問題は剣が握られたままだということだ。

 すると隣に風夏がやってきて弓を引いた。

「待て!もう、あいつは戦えない!」

 制止しようとするが風夏は止まらない。

「今はそうかもしれない。でも、怪我が治ればまた戦える」

 キュリーはゆっくりと立ち上がって剣を構えた。

「おい!」

「無様に殺されるくらいなら私は剣士として死ぬわ」

 死ぬ気かよ!

「なら、お望み通りに」

 弓を引くと風が吹き荒れて俺自身が吹き飛ばされそうになる。止めないといけない。誰も死んでほしくないという俺の願いがそうさせようとするが風夏の発する風がその行く手を阻む。結局、今のままでは規格外とは戦えないのか?

「いやいや、おもしろいものを見せてもらったですぅ」

 この緊迫した空気の中でゆったりとした声が聞こえた瞬間、俺たちの足元を真っ黒の霧のような物が広がってくる。

「な、なんだ!」

 その霧が風夏に触れた瞬間、風夏の矢から発せられていた風が弱くなって消える。

「え?」

「なに?」

 キュリーも剣を振っているが氷の針が飛んでこない。俺も気付けば右手の破壊の力が消えていた。

「どうなっているんだ?」

 おそらく、この霧のせいだ。そして、ある人物の声が聞こえた時にこの霧が発生した。俺はその声の主の方を見るとそこには昨日と同じパジャマ姿のハンナの姿があった。枕を持って眠そうなあくびを一回する。

「騒がしいですぅ。今、何時だと思っているんですぅ?」

 もう昼間だ!というツッコミはさておいて。

「この霧は一体なんだ!」

 キュリーが噛み付くように聞く。

「何って?侵食の霧(イーター・ミスト)ですぅ」

「訊いたことないぞ!そんな魔術!」

「それもそうですぅ。だって、収納魔術に使うには不向きですぅ。陣に使う土地の情報とか天気とかあとはどれだけの魔術師がいるのとか」

「・・・・・魔術を無効化する魔術っしょ」

「風夏正解ですぅ」

 魔術を無効化する魔術なんてものがあるのかよ!

「まぁ、条件設定を陣にしないといけないので発動させるのが面倒ですしぃ、術者自身も侵食の霧(イーター・ミスト)以外の魔術も使えなくなるのであまり好まれて使われませんねぇ」

 キュリーは舌打ちをついて地面を蹴っけハンナに向かっていく。キュリーは剣士だ。魔術が使えない状況の中でも剣が使える。魔術が使えないということは教術も同じように使えない。そうなれば、今の俺は丸腰だ。風夏は助けに行く気はない。間に入って止めようとするが迷いが動きを一瞬にぶらせる。すでにキュリーの剣はハンナを突き刺す間合いに入っていた。

「ああ、でも、すでに発動させている魔術に関しては無効化されないんですぅ」

 するとキュリーに向かって何か黒い縄が飛んできた。キュリーはその黒い縄を振り払うように剣を振るがその黒い縄はキュリーの剣をすり抜けた。

「な!」

「残念ですぅ」

 笑顔でそう言った。

 黒い縄はキュリーに巻きついて縛り上げる。動けなくなったキュリーはそのまま倒れて剣も手から落とす。

「これにて一件落着ですぅ」

 そう言うと足元を覆っていた黒い霧が晴れていく。

 キュリーはもがいて黒い縄から逃れようとするが無駄なあがきだった。

「無駄ですぅ。幻影の縄(シャドー・コード)は強力な魔術師、教術師を拘束するために作られた専用の魔術ですぅ。強力すぎるが故にカードで生産できないように収納魔術を受け付けない陣になっているんですぅ」

 楽しそうに告げる。収納することのできない魔術ということは直接書いて発動させたということなのか?この霧もおそらく。

 すると動けないキュリーに向かって風夏が弓を引く。

「待ってほしいですぅ」

 ハンナが風夏の動きを止めた。

「教太と戦っている時に奇妙な魔術の発動をしていたんですぅ。原理を知りたいですぅ」

 キュリーを撫でるように見つめる目から分かる感情は興味のみ。

「もうひとつ、なぜ風夏の攻撃を直撃して生きていたんですぅ?風夏も気にならないんですぅ?」

 すると風夏はゆっくりと引く弓を緩めた。不機嫌そうにハンナとキュリーを交互に見つめてフンっと視線を外した。どうにか武器を下してくれたことに俺はホッと息を吐いて胸を撫で下ろす。

「きょ、教太」

 その声に俺は思わず顔をあげるとそこにいないはずの人物の姿があった。

「れ、レナ?」

「バカな!」

 一番驚いていたのはキュリーだった。

「確かに仕留めたはずだ!」

「それがですねぇ。生きているんですぅ。不思議ですねぇ。どうしてだと思いますぅ?」

 ぎりっと睨むキュリー。その反応を見て面白がるようにハンナは答えた。

「私が時空間魔術を発動させてもらいましたぁ」

「時空間魔術だと」

「時空間魔術でも空間をいじくる系の魔術ですぅ。大量の魔力と使い勝手の悪さから時空間魔術師でも使わないものですぅ。空間を切って移動させるというものですぅ。本来は時空間の穴で移動させるのが困難な大きなものを移動させるときに使われるものなんですぅ。でも、人間一人を移動させる場合なら時空間の穴を使って移動させる方が手っ取り早いですよねぇ」

 もはや何を言っているのかさっぱりだが、ハンナがレナを救ってくれた。それだけ俺はうれしかった。だが、風夏はすぐに疑いの目をレナに向ける。

「・・・・・あなたはレナ・エジソンを仕留めたかったの?」

 キュリーに尋ねると歯を食いしばりながら頷いた。

「そう」

 殺気がレナに向けらえてそれに気づいてハンナの後ろに隠れる。

 だが、舌打ちをして殺気を引っ込めた。規格外の風夏を無力化してしまうほどの強さをハンナは兼ね備えている。魔女と呼ばれているだけのことはある。

「それはそうと何か通りが騒がしいので見に行った方がいいんじゃないんですかぁ?」

「通り?」

 同時にドーンという音が聞こえた。もはや、聞き慣れてしまった音。

「戦いの――――音!」

 激昂したように声を上げた風夏は爆発的に風を発生させて飛んで行った。キュリーに渾身の一撃から逃れられてハンナに戦いを止められてよっぽど鬱憤が溜まっているのだろう。

「教太も行った方がいいですぅ」

「え?なんで?」

 下手に仲裁に入れば殺されかねないがこのまま野放しにすればいったい何人の犠牲が出るか分かったものじゃない。

「行ってくるよ」

「・・・・・教太」

「なんだ?」

 飛び上がろうとするときに飛び止められる。

「あなたは誰も殺したくないんですかぁ?さっきの彼女の会話から聞きましたぁ」

「そうだけど」

 迷わず答える。

 するとハンナは眠そうな表情を変えずに続ける。

「なら、その意思が曲がらないと良いですねぇ」

 何が言いたいのか分からない。だが、それ以上は何も言うことはなさそうに見えたので飛び上がる。プレハブ小屋のある広場から数百メートル離れた通りから白い砂埃が上がっている。風夏が作り上げたどんよりとした黒い雲が何か不気味な雰囲気を漂わせている。

「なんだ?」

 俺の視線の先に見えた者は青色の炎。そして、その青色の炎が暴れるように爆発する。その青色の炎の中央にまるで悪魔のように猫背で翼や尻尾や耳を青色の炎で司った悪魔がゆっくりと立ち上がった。

 そして、聞こえた。

「――――きょ、―――キョウ、――――キョウ君」

「香波!」

 やばい!あれは普通じゃない!香波が!悪魔術にのまれている!

 そうすぐに分かった。氷華の時とは比べ物にならない邪悪な雰囲気が漂う。その様子はまさに悪魔。

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