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誰も知らない神の領域  作者: 駿河留守
真の領域
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青炎の悪魔①

 キョウ君を追いかけてこんな異世界にやって来た。元の世界だったらいっしょにいる時間はこんなにとることはできなかった。最初はこの魔術世界に足を踏み入れたことは失敗だったのかもしれないと不安にもなった。でも、今は魔術世界に来てよかったと安心している。それでもキョウ君が別の女に楽しそうに話している姿を見てるとどこか不安になる。あのアキとかいう子と美嶋とかいう子ならともかくアテナさんや斉藤さんが言う危険な魔女だとかいうイム・ハンナって人と仲良くしているのはどうも気に食わない。それにひとりの人を人でなくしてしまった人とキョウ君がいっしょにいるのが不安だ。キョウ君もお話も触れ合うこともできなくなるのは嫌だ。それが不安だった。

 だから、正直こんなことしている場合じゃない。

 今は斉藤さんといっしょにレナちゃんに頼まれた食材の買い出しに市場に出てその帰り道だ。紙袋に野菜や果物や肉を持ってあのプレハブ小屋を目指す。

「なんか不満そうやな」

 と斉藤さんが笑いながら言う。

「それはそうですよ。あんな危険な人のところにキョウ君ひとり置いていくなんて」

「昼間はイムはんの活動時間外やし、エジソンもいるんやし大丈夫やろう」

「そうかもしれないですけど・・・・・」

 昨日の夜に斉藤さんからレナちゃんの事情について聞いた。キョウ君は気付いていないみたいだったけど、私は途中からレナちゃんが女だと気付いた。気付いたきっかけはイム・ハンナに話しかけるときの態度や仕草は女の子だったからだ。どうして男の格好をしているのか尋ねても教えてくれなかった代わりに斉藤さんに聞いてほしいと言われた。

 今、買い出しをこうして斉藤さんと私でやっているのはキョウ君もレナちゃんも狙われている身だからだ。レナちゃんはよほどのことがない限り外出はほとんどできないそうだ。昨日で来たのは風夏さんがいたのが大きいそうだ。

「・・・・・斉藤さん」

「なんや?」

「ここって斉藤さんたちっていうか私たち黒の騎士団の立場から言ってここどういう所なんですか?」

 私は外出する時に黒の騎士団の証であるエンブレムの突いた軍服を着ないように言われたので仕方なくイム・ハンナの普段着を借りている。季節も夏だった日本から冬のオーストラリアであるので借りることは仕方ないことなのかもしれないが、小さなクマの柄の入ったジャージに大きな熊のプリントが入った厚手のシャツを着ている。今は黒のコートで隠されているが正直脱ぎたくない。幼稚すぎて恥ずかしい。軍服も堅苦しくて好きじゃないけどクマよりかはマシだ。軍服も黒の騎士団の加盟国であろうとなかろうと基本的に来ていないといけない決まりになっている。どうして斉藤さんは来ていないのかは謎だけど・・・・・。にもかかわらずこのオーストラリアではその軍服を着ないように言われている。

「どういう所というとやな、まぁ、どの魔術組織も近寄りがたい国なんや。イギリス魔術結社の本部はイギリスロンドンでワイら黒の騎士団の本部はアメリカのニューヨークや。管理統括するにはちょいと遠いんや。それに風夏とかいうまるでハリケーンみたいな・・・・・・まぁ、ハリケーンなんやけど。その風夏のせいで余計に手の出しにくい国になってしまったんや」

「手の出しにくい?」

「城野さんは知らないかもしれなんやけど、最近になってこのオーストラリアの内陸部に魔石ちゅう資源があるんやないかって噂になっているんや。この噂が出てきたのは風夏がここに居座ってすぐや。やけど、風夏という番人が目を光らせている中で下手に戦闘行為を行うことは組織を潰しかねないんや」

「どういうことですか?」

 そもそも、魔石って何?デニロはどれだけのことを私に教えていないのよ!

「風夏は戦いが嫌いや。もしも、魔石が存在してそれを強引に奪おうとすれば、戦いが起こる。風夏はその戦いの根本を潰せば戦いが起こらないと考えているんや。つまり、仮にイギリス魔術結社が力づくで魔石の資源を手に入れようと戦闘行為を持ちこめば、風夏はロンドンにあるイギリス魔術結社を攻撃するんや」

 根本を潰すということは結社自体を潰してしまおうとしてしまう。

「もしも、密かに魔石資源を・・・・・エジソンを狙っている結社の連中に黒の騎士団の軍服姿を見られたら戦闘の可能性が出てくる。結社と団は敵対関係や。自分たちが狙われているのかもしれないと思われるかもしれない。戦いになれば、風夏は結社と団を同時に潰しにかかる可能性もあるんや。そういう可能性を消すためや。いくら幼稚な服装でも我慢してくれや」

 私が何が不満だったのか見破られていたようで少し恥ずかしい。

「風夏さんってそんなに強いんですか?」

「強いで」

 即答だった。

「本来やったらワイらもこの国には入れなかったんや。イムはんとエジソンとで友人関係になっているからこそあのハリケーンは牙をむかない。やが、一度あいつの逆鱗に触れれば・・・・・どうなるか分かったもんやない」

 強いということは認識している。しかも、下手すればそれが理不尽に襲い掛かる。私が戦いを持ちこんでしまう原因になったら本部で治療中のデニロにも被害が被る。この件とは何ら関係がないのに。

 そこで私はふと思った。

「じゃあ、なんでレナちゃんはここにいるんですか?」

 結社に追われているということは戦いの火種だ。そんなものをこんな戦いの嫌う強い人のところに置くのは火に油を注ぐようなものだ。

「盲点を突いた隠し場所や。結社もまさか戦いの火種をこんな火薬倉庫みたいなところには隠さんやろうという逆転の発想から出た結論や。常に綱渡り状態であるということは自覚しとる」

 市場のあった広場から馬車や人々が行き交う大通りを通っていると生活している人たちは魔術に触れていること以外は私と何も変わらない。ゆったりと時間が流れている。戦いを嫌う強者が目を光らせているおかげなのかもしれないけど、力による制圧から見られる平和って本当に平和なのかと疑問が浮かぶ。

 ドーンという爆発音にも似た音が聞こえて通りを会付いている人たちが一斉に音のした方を見る。

「何の音や?」

「爆発ですかね?」

 一旦足を止めて音のした方は眺める。3階建てのレンガ作り建物が並ぶ通りからでは音のした方を見ることはできない。通りの人たちは興味が削がれて歩き出したり仕事を再開したりする。私と斉藤さんも互いに目を合わせて首をかしげながら再び歩き出す。

 風夏という戦いを嫌う統括者のおかげでこのオーストラリアという国では戦いは起こることはない。その言う慢心が普段を生んだのだと私は思った。あの爆発音が戦いの物ではないかと考えすぎくらい不安になるべきだった。私の青色の炎は不安を食べて強くなるからだ。デニロはそれを分かったうえで私に青色の炎は不安を使うこと以外の情報はほとんど教えなかった。キョウ君と再会して戦いのない国に来て私は完全に油断していた。

 急に私たちが向かう方面から来る人々は不安げな表情を浮かべて振り返りながら遠ざかって行く。どうしたんだろうと去りゆく人たちの方に視線が吊られていて急に斉藤さんが止まったのに気付かずぶつかってしまう。鼻骨に当たってすごく痛い。押さえた手を離してみて鼻血が出ていないのを確認してホッとする。

「どうして急に止まったんですか?」

「なんや?」

 斉藤さんが見つめる先の雲域が妙に怪しい。ドス黒い雲が渦を巻いて集まってきている。まるで台風みたいに。

「・・・・・あの方角はプレハブのあるところや」

「え?」

 次の瞬間、ドーンという音が再び聞こえて通行人たちが音のした方を振り返る。さっきと違って不安げな声を上げる人たちを見て私の中の不安が一気に膨れ上がった。

「これはまずいで!」

「キョウ君!」

 油断していた。キョウ君とレナちゃんのところに誰かいて襲っている。急がないとキョウ君が危険だと斉藤さんとコンマ数秒遅れて私も走り出して斉藤さんが小道に入ろうとした時だった。

「待つのである!」

 と斉藤さんの目の前にまるで隕石のように何かが落ちてきて同じような地鳴りに等しく衝撃音と共に何かが着地して砂埃が上がるとムクリとひとりの大男が姿を現した。身長は2メートルくらいあろう。日焼けした褐色の肌に頭のてっぺんに少しだけ髪がある程度。何より目を引くのはその屈強ながたい。まるで美術館の彫刻像のような堀の深い肉体。その肉体を見せつけるように冬のオーストラリアで上半身裸で下にタイツを履いているだけの男。ぎりっと私を睨む視線に私は思わず後退りしてしまう。

「誰や?」

 斉藤さんが持っていた紙袋を投げ捨てて私の正面にかばうように立ちふさがる。

「では名乗ろう!黒の騎士団の第2分隊長殿のトモヤ・サイトーよ!」

 斉藤さんのことを知っている。

「吾輩はイギリス魔術結社の七賢人は第3!ゴンザレス・フォレストである!」

 両腕の力こぶを見せつけながらそう名乗った。

「七賢人やと。しかも、相手が第3と来たか。結社もえらい奴を送り込んできたもんやな」

 するとゴンザレスは今後は腹筋を見せつけるようにお腹をせり出す。

「結社はいささか焦っているのである!2年の間も特異点を野晒しにしていることに!」

 特異点?斉藤さんも初耳のような反応をする。

「特異点ってなんや?」

「教える必要は毛頭ないのである!機関の暴風娘が不在である今以外に特異点を潰すチャンスはない!吾輩は不死身のサイトーを足止めするのが役目である!」

 足止めということはもうひとりイギリス魔術結社の人が来ている。あの雲意気が怪しくなっているその場所でキョウ君が戦っている。

「足止めに七賢人を使うということはエジソンの方にも七賢人クラスの奴がおる」

 キョウ君が危ない。でも、目の前を大男のゴンザレスが塞ぐ。

「こいつの相手はワイがする。城野さんは国分とエジソンのところに向かうんや」

「させるとでも思ったのであるか!」

 そう叫ぶとゴンザレスの足元に青白く陣が浮かび上がる。その陣には六芒星が描かれていた。確か中の幾何学模様が複雑になればなるほど使用される魔術が強力になるとか。イム・ハンナがそんなことを言っていた気がする。青い炎は五芒星だからより複雑になっている。

「うおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 雄たけびと共にゴンザレスは頭皮の血管を浮き上がらせながら力を込めると青白い光はより一層強いものになる。その圧によって周りのチリやゴミが吹き飛ばされて自分の髪もその圧による風圧でなびく。そして、その光が男の全身を包み込むと男は大きく腕をあげて全身の筋肉を際立たせるように力こぶを作るように腕をあげて曲げる。

「ムッキ!!!ムキー!!!」

 叫ぶと彫刻像のような肉体が一気に倍以上に膨れ上がる。腕は私の太ももに達するような太さになり胸の筋肉も膨れ上がり割れていた腹筋の数も増えて体の厚さも倍以上に膨れ上がり足から太ももにかけて人のウエストに匹敵するのではないかと思うくらいに膨れ上がって全身筋肉の塊のようになる。

筋力増強術(ドーピング)か」

 包まれていた青白い光がパンクしたように弾けるとゴンザレスは自分の肉体をまじまじと見つめる。

「さすがである。吾輩の肉体はこうでなければならない!」

 そう言って近くのレンガ作りの建物の壁を殴るとレンガがまるで積まれただけのブロックのように崩れ壊れた。

「今回の筋肉も上出来である!」

 ドンと一歩踏み込む。その踏み込んだ時に落ちていた煉瓦の残骸が踏みつぶされて粉々になる。まるでクッキーを踏みつけたようにいとも簡単に。もはや、人の領域を優に超えている。

「ワイが気を引くから城野さんは国分のところに向かって走るんや」

 そう言うとはんてんの袖口から黒光りする重金属の物を取り出した。それはドラマや映画とかでしか見たことのないものだった。拳銃。握られているのは偽物でもないんでもない。雰囲気だけで本物だって分かる。

「走れ!」

 斉藤さんが銃を構えてゴンザレスに向かって発砲する。それが短距離走のスタートを知らせるスターターピストルのごとく走り出す。

「笑止!」

 目の前にいたゴンザレスが踏み切った音を残して消えた。

「え?」

 すると背後で破裂音が聞こえるのと同時にぐちゃという音も聞こえた。遅れて爆風にも似た風圧に背中が押されて倒れる。立ち上がって振り返るとさっきまで斉藤さんのいたところにゴンザレスの屈強な肉体から放たれた拳が炸裂した後だった。返り血がその肉体に飛び散っていた。

「さ、斉藤・・・・さん?」

 斉藤さんは治癒魔術を使う教術師だと聞いている。教術は私のように十字架とカードを使わなくても魔術を発動できる人のことを言うらしい。キョウ君も教術師ということらしい。斉藤さんは治癒魔術を常に発動状態らしい。だから、怪我をしても治ってしまう。だから、見た感じが不死身に見えてしまう。でも、拳の攻撃でゴンザレスの大きな拳の下は血だまりがあるだけで斉藤さんの姿がない。どうなってしまったのか?想像するだけで吐き気に襲われる。

 治癒魔術は人の治癒力を向上させる回復魔術で大きな怪我は治癒魔術では治せない。死んでしまったら元の子もない。

「いや・・・・・いや・・・・・」

 ゆっくり拳を持ち上げると粘度のある血が拳から滴り垂れる。

「この程度であるのか。弱い。このレベルで分隊長となるそこの団員は吾輩の敵ではない」

 視線が私に向けられた瞬間、足が動かなくなった。早くキョウ君のところに行かないといけないのに足が言うことを利かない。コンクリートで固められてしまったかのように自分の物じゃないみたいに。

「相手は女性である以上吾輩も紳士に対応するつもりである。魔術師ならば魔術に使う道具をすべて捨てるである。それならば吾輩も何もし」

 ゆっくり私の方に歩み寄ってくるゴンザレスに向かって銃声が響いてゴンザレスの肩に着弾して言葉が途中で止まる。ゆっくり振り返るとそこには全身血だらけの斉藤さんがいた。倒れたまま銃を握っていた。よく見れば腰から下と右腕がぺちゃんこにつぶれてしまっていた。

「い、行くんや。城野さん」

「さすが不死身である。今度は頭を潰さなければならないか」

 ゴンザレスは再び斉藤さんの方を向き直る。

「筋肉の塊の割に素早い動きをしたやないか」

「瞬発力にも筋肉は使うのである。つまり、筋肉を付ければ付けるだけ吾輩は早くなる!確かに胴回りの筋肉が邪魔をして細かい動作は苦手であるが吾輩には一発あれば物理結界も破壊できるのである。そう例えばこのように!」

 地鳴りに似た踏み込む音は聞こえた瞬間、地面が踏込でめくり上がったのも見えた。でも、その先は目で追うことはできなかった。私が見た時にはすでに斉藤さんを跨ぐように立っていて拳を振り落とそうとしていた。

「やめて・・・・・」

 右も左も分からない、デニロに指導で不安につぶれそうな私を救ってくれたのも私を気遣ってくれたのも斉藤さんだ。キョウ君に再会する前までは私を支えだったのは斉藤さんだった。その斉藤さんが目の前で殺されそうになっている。今も治癒魔術でゆっくりと潰された身体が少しずつ治ってきているが殺されてしまったらそれもできない。

「やめて・・・・・」

 不安。目の前からまた私の心の支えが消えるのが。

 デニロの時もそうだった。私に生き残る術を教えるために不安になることを教えてくれたデニロも体を張って私を守った。私は何もできなかった。以前はキョウ君が助けに入ってくれたから助かった。今回は違う。

「やめて・・・・・」

 キョウ君は別の人と戦っているみたいで私のところに助けに来るとは限らない。もしかしたら、キョウ君も同じように―――と考えてしまうと斉藤さんの姿がキョウ君の姿と重なった。

 不安、不安、不安、不安、不安―――――食わせろ。

「やめて・・・・・やめろーーー!!」

 それを無意識だった。十字架をカードに打ち付けると私の周りを覆うように青色の炎が渦を巻く。

「青色の炎であるか」

「じょ、城野さん」

 まるで生き物のように渦巻く青色の炎が縄のようにゴンザレスを向かって飛んでいって巻きつこうとすると、触れる前にゴンザレスが目の前から消える。

「普通の炎ではなさそうである」

 声は建物の上から聞こえた。水をためるタンクの上から腕を組んで偉そうに見下す。

 そのゴンザレスに向かって青色の炎に襲わせるが躱される。躱したことで青色の炎がタンクを破壊して水が噴き出る。すべてを燃やす青色の炎はその水すらも燃やし尽くす。

「水が燃えている」

 驚きの声が私の背後から聞こえて思わず振り返ると頭上で水を燃やす青色の炎をゴンザレスが眺めていた。

「ああああああああああああ!!」

 青色の炎をサンドするように攻撃するがそこにもゴンザレスはいなく炎同士がぶつかるだけだ。どこに行ったとあたりを見渡す。ゴンザレスは街灯の上でにいた。余裕そうに私の青色の炎を観察していた。

「青色の炎・・・・・水を燃やしたところを見るとただの火属性魔術ではなさそうである」

「はああぁぁぁぁ!!」

 青色の炎に街灯ごと攻撃するがゴンザレスは飛び上がって躱す。その勢いに街灯に青色の炎が達する前に金属製の街灯がへしゃげてしまう。空中で何度か宙返りをして再び建物の屋根に着地する。

「炎に意思を感じるのである。まるで教術師が操る炎のようである。が、彼女は魔術師であるな」

 青色の炎がぶつかる寸前にまた飛び上がって躱される。今度は通りに着地してクラッチングスタートの態勢になっている。

「結論から悪魔術の類であるな。正義を語る黒の騎士団の団員であるにもかかわらず悪魔の手を貸すとは言語道断である!」

 青色の炎に襲わせようとする。

「貴様らの代わりに吾輩が正義を執行するとしよう。悪魔を倒すために!」

 地面を蹴り飛ばして私に一気に接近してくる。そして、地面に足をつけてブレーキをかけながら拳を構えて殴りかかろうとしていた。青色の炎はその勢いによって吹き飛ばされて私とゴンザレスの間から消える。

 ―――またな。

 青色の炎と出会った時にキョウ君が私に言った別れの言葉。走馬灯のように流れる。再会を誓って出会うことが出来た。でも、私とキョウ君が結ばれることはなく終わる。結局今回も100回中の99回に当てはまらなかった。

 悲しいな。

「城野!」

 私の体が突然横に突き飛ばされる。どうして突き飛ばされたのか?見ればそこには血だらけの斉藤さんの姿があった。笑みを浮かべて私に親指を突き立てる。その一瞬、まるで世界が止まったように見えた斉藤さんの表情から読み取れる言葉は大丈夫だ、安心しろというものだった。

 が、その瞬間ゴンザレスの拳が斉藤さんを殴り飛ばした。ぐちゃという音と風を切る轟音と共に斉藤さんは建物に激突して大きな砂埃を挙げて建物がゆっくりと崩れ始める。青色の炎が私を守るように瓦礫を燃やし消す。建物が崩れていった衣が瓦礫の山と化す。そこに私はたったひとりだ。

 ―――不安。

「さすが不死身のサイトーであった。最後は身を挺して仲間を守った姿は吾輩も胸を打たれるところである」

 そう言って一瞬目を閉じて黙とうをささげると腰が抜けた私を見下す。

 ―――不安。

「だが、こっちも敵に情けを掛けるつもりは毛頭ない」

 私の方に瓦礫を蹴り飛ばしながらゆっくり近寄ってくる。

 ―――不安。

「味方が殺され放心状態であるな。あまり場馴れしていないようである。しかし、悪魔術に身をゆだねていながらも自我を保っている辺りは素晴らしいのである」

 称賛するがその眼は気味悪そうに見つめている。

 ―――不安。

「だが、心が悪魔に食われればもはやそれは人ではなく悪魔である。せめて、吾輩が人のまま殺してやろう」

 私の目の前にやってきてゆっくり拳を振り上げた。

 ―――不安。

「言い残すことは・・・・・なさそうであるな」

 ―――不安。

『もう十分だ。後は任せてよ』と目の前の青色の炎が私を包み込んで意識が遠のく。

 瞬間、まるで噴火のように青色の炎が行き場を失ったかのように吹き荒れる。

「何であるか!」

 飛び退くが青色の炎が右拳に移って燃える。何度も振り払おうとするが青色の炎は消えない。燃やし尽くすまで消えることはない。ゴンザレスはそれを分かったようで右腕をひじきにかけて引きちぎった。血が噴き出ているが顔は涼しい顔をしている。痛みを感じていないように。履いていたズボンの一部を引きちびって止血するために腕に強く巻きつける。

「一歩遅かったようであるな。悪魔に食われてしまったのであるか」

 私は知らない。

 青色の炎が全身を包み込む。だが、いつもと違う。両腕、両足からまるで毛のように、背中からは翼のように、お尻からは尻尾のように青色の炎が燃え盛る。その様子はもはや比喩に例えるのも容易だ。

「悪魔であるな」

 そこに私の意思はもうない。

「・・・・不安だよ。もう、私を不安にしないで。・・・・・・そうだ。いいことを考えた」

 頭からまるで悪魔の耳のように青色の火の玉が浮かぶ。

「全部燃やせばいいんだ。不安要素を。全部!」

 目の前の世界が真っ青になる。

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