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誰も知らない神の領域  作者: 駿河留守
真の領域
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刺す殺気は何処へ①

「・・・・・香波、大きいな~。羨ましいな~」

「ちょっと!レナ!揉まないで!」

「いいじゃん。減るものでもないし。もし減るんだったら僕にこの脂肪分を」

「何言ってるの!離れて!」

「離すもんか。モミモミ」

「止めて!ちょっと!やん!」

 黄色い声が聞こえて俺の耳がすごく幸せだ。物陰に隠れてレナと香波のじゃれ合う会話をそっと耳を澄まして聞く。

「筋金入りの変態」

 といきなり声をかけられると目の前にいたのは緑髪の風夏だ。

「なんだよ。脅かすなよ」

「私じゃなかったら?」

「別に変りはしないけど」

 ただ、周りに与える印象が圧倒的に悪いものになるのは確かだ。見知らぬ女の子のエロい会話を聞いてにやにやしている変態だと思われる。まだ、身内同士だからと理由をつけることができる分風夏でよかったと俺は思っている。

 俺の隣に座るように湯船につかる。聞こえる吐息と感じられるお湯とは違う人の熱にドキドキする。スタイルはいいかと言われたら言うほどよくはないが、細身でウエストがキュッとしまっていて整った顔立ちはかわいい系というよりもきれいだ。

「なに?」

「い、いや、何も」

「私に気があるならあなたはお断り」

「え?」

「私は国分みたいな年下の男には興味ないの。だから、さっさと私のことはあきらめて別の女に乗り換えた方が賢明っしょ」

 スパッと切られた。いや、俺には好きな女の子はいるかと言われたら答えられない。昔は香波のことが好きだったがこれ以上香波に関わると香波の身が危険ではないと戸惑いが俺の好意を邪魔する。

「それよりもサイトーは?」

「あ?あいつは」

 目線の先の湯船からはブクブクと泡が沸いていた。その泡がゆっくりと水着美人たちの方に近づいていた。

「・・・・・あれね」

「あれだ」

 目の前の水着美人を見つける否や急に潜ってどこかに行ってしまったと思ったら潜ってあそこまで接近していたのか。下心丸出しで完全に軽蔑されていたが男なら誰でもいっしょのようだ。

 すると風夏は立ち上がって浮島に落ちていた木の枝を拾って泡の近くまで近寄って木の枝を水の中に突き刺した。ごぼごぼと何か抵抗があったと思えば急に抵抗が止んで風夏が戻って来た。

「何したんだ?」

「秩序を守っただけ」

「きゃー!血よ!人が浮いているわ!」

 湯船が真っ赤な血に染まっていく様に誰もが青ざめていた。その血の海の中心からぷら理とサイトーが浮いてきた。その尻にはさっき風夏の持っていた枝が突き刺さっていた。

「大丈夫。あの程度で死ぬような奴じゃない」

 いや、確かに治癒魔術の教術使いで剣で斬られても銃弾で撃たれてもなんともないような奴だけども!

 慌てたように屈強な係員たちが湯船に飛び込んでサイトーを救出する。とりあえず、湯船からサイトーを引き揚げてお尻に刺さった枝を引き抜こうとする。

「いだだだだだだだ!」

「気張るな!」

「無理言うな!」

 屈強な男がサイトーの尻に刺さった枝を引き抜こうとする光景はなんとも醜い光景だ。

「これであいつは人間的に死んだ」

 ひでーよ。確かにどんな傷を負わしても死なない奴だけども。

 それを面白がって見学する野次馬たちが集まって来た。

「やめい!見るな!国分!助けろ!」

 他人のふり。あんな奴が知り合いだと思われたくない。

 ふと、風夏の見ると今までとは違う優しい感じの笑みがこぼれていた。その目線の先はサイトーのいる集団に向けられている。

「お前ってドS?」

「まさか。ただ、あんな風にくだらないことに笑えるような光景を見るだけで私は幸せ」

「・・・・・戦いが嫌いだとか言っていたな」

 水を差すようだったが聞かずにはいられない。俺は今まで聞くことをしてこなかったから美嶋が離れてアキが無茶する結果になったと考えたからだ。もしも、俺の過去のことを聞かれても決して隠さず話す覚悟が俺にはある。

「どうしてそこまで戦いを拒むんだ?」

「どうしてって戦いを嫌うことに理由なんている?」

 何も答えられなかった。

「機関に捕まっている時にタイガーよりも先に反乱を仕掛けた子たちがいた。でも、彼らにはまだ力が無くすぐに鎮圧されてしまった。その戦いの余波は関わっていなかった子たちにも及んだ。怪我を負ってそのまま処分されちゃった子もいた。戦いは憎しみを生むだけで何も生み出さない。そんな無駄なことが私は嫌い」

 単純に戦いが起こると関係ない人々が傷つくのが許せないような考えだ。

「戦いを避けてこのオーストラリアで私は平和を手に入れた。こんな施設で誰も戦いのことも気にせずに過ごせる空間があるだけで私は十分。眺めているだけで幸せになるっしょ」

 拳吉に近い思考だ。戦いによって民が傷つくのを拳吉が嫌うように自分だけならず他者が傷つくのが許せない。しかし、拳吉と違うのはそこに民を思う気持ちが風夏には感じられない。本当に戦いが嫌いだから戦いの火種を生むなと持っている強い力で押しつけているように感じる。果たしてそれは本当に平和と呼ぶのだろうか?

「私たち機関出身者は戦いを生むために育てられた存在。それだけしか存在意義のない自分の存在に私は嫌悪した。機関出身者にも戦いのない平和な世界は作ることはできる。それをある奴に証明するために私はこの地にいる」

「ある奴?」

 すると風夏が俺の顔に向かってお湯をかけた。突然のことにお湯を少し飲んでしまって咳き込む。

「訊き出しすぎっしょ。まぁ、別にいいんだけど」

 さすがに踏み入りすぎたと少し反省する。

「ユーリヤ・アーネル」

「え?」

「イギリス魔術結社の七賢人は第4。3種類の属性魔術を扱う魔術師且つ機関創設者」

 機関創設者。それは霧也や氷華、そして目の前の風夏から普通の日常を奪い人間兵器として育てさせる地獄の機関を作り上げた人物。

「あいつに言われたの。お前たちは所詮戦いしか生まないと。私は証明してみせる。戦いのない地を作って見せつける。それが私の唯一無二の野望」

 ようやく、サイトーに尻に刺さった枝を抜くと噴水のように血が噴き出て動かなくなったサイトーを屈強な男たちが慌てて運び出したが足を滑らせてサイトーを湯船に放り投げた。その光景に笑いが起こると湯船から笑い事ちゃうわとサイトーが自力で湯船から上がって来た。

 その光景を香波もレナも見つめていた。決してサイトーが身内あることを悟られないように距離を置いて。まぁ、俺も同じなんだけど。

「いい加減にしたら?これ以上迷惑かけるようなら」

 風夏が警告するようにサイトーの元に向かった。

「待つんや!そもそも原因は風夏!お前やろ!」

「そうやって人に罪をなすりつけるのは戦いを生む原因っしょ。私がその原因を壊してあげる」

 再び木の枝を取り出した。

「待て!これ以上は痔になる!」

「どうせ治るんっしょ」

「待つんや!ぎゃー!」

 もう、あの光景を見ていられない。

「バカ太」

「いい加減教太って呼べ」

 レナと香波がやって来た。レナの手にはビーチボールがあった。

「湯船から上がってバレーやろう!」

「いいぜ」

「もちろん、罰ゲームありだよ」

「え?」

「教太が負けたら水着を脱ぐ」

「いやいやなんでだよ」

 いや、待てよ。逆に俺が勝てば香波が水着を脱がなければならないのではないか。

「・・・・・キョウ君が見たいって言うなら」

「おいおい!何やってるの!」

 っち。静止してるんじゃねーよ。

 俺はこの地に自らの持つ力のことを知るためにやって来た。そして、力のことを理解して美嶋に認めてもらえるような力を手に入れることが目的だ。だが、今の俺はそれを忘れて遊んでいる。このままでいい訳がない。怠けていればいずれその分の苦労として返って来る。だが、俺の思う怠けは俺だけではなかった。

 水着を今にも脱ごうとする香波を静止させようとするレナとの間。と言っても距離は数メートル以上離れているのだが、その光景を刺すような視線で凝視するきれいな女性がいた。薄い金色の髪に白い肌に整った顔立ち。吊り目のように鋭い青色の瞳はじっとレナを見つめているようだった。この時、特に気にしていなかった。それが俺にとっての怠けだった。レナが狙われている身から逃れるために男の格好をしているが今はそうではない。

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